『新城颯馬という男』
「お兄ちゃん...」
「あぁ...」
とりあえず俺たちは隠れて作戦会議でもしている。
何よりこの状況は予想外のできごとだったからだが、事前に予測できてたかもしれないからだ。
「綾さん...本当にすみません」
流石に楓ちゃんも予想外のできごとで俺に対して謝り続けている感じだった。
「大丈夫だよ、楓ちゃん堂々とお昼過ごそうか」
そう言うと少し落ち着いたのか「ありがとうございます」と返事が返ってきた。
「よし、今日は俺の奢りだからたくさん食べていいよ」
「やったぁ〜♪お兄ちゃんありがと!」
どうやら有栖はとても喜んでいるみたいだった。
席に着くとあちらも俺たちに気づいたのかこちらを見ている気がする。
千里については何か話しているような気もするが俺が気にすることではないのだろう。
関わるとしてももう少し後のことだと思っていたので今回はどうしようか...と悩んでいるとこちらに寄ってきている気がしたが注文を頼んでおいた。
ゆっくり過ごせればいいな...と思った。
「やぁ、柊...くん?かな」
爽やかな感じの声でこちらに声をかけてきた。
「どうも、新城...颯馬さん?妹の楓ちゃんとは仲良くしてもらってます」
そう言って俺と新城さんは睨めっこ状態になっている。
「綾くん...久しぶり...」
そう、突然沈黙を破ったのは千里だった。
「久しぶり」
俺は口が自然に動いたのでそう言ったが心の中ではとても焦っている。
こんな時に出会ってしまうとは思ってもいなかった。
「俺たち二人も一緒にお昼を取っていいかな?」
「すみません、私はよく知らないのでお断りしていいですか?今日は三人で楽しむと決めてるので!」
有栖が勇気を振り絞ってそう言っている、俺もこの意見を是非支持したいと思う。
「そういうことなので俺は妹の意見を尊重したいと思ってますが、どうします?」
「そうだね...まぁこっちとしては千里ちゃんが何かずっと言いたそうにしてたから時間を決めて後日という形にしてくれるかな?」
なるほどな、俺に口で了承を得ようとしているのか...?それとも千里のことを思って言っているのか、彼の考えていることが全くわからない。
「そうですね、時間があればこちらから連絡したいんですが...来週からは体育祭の練習があるので、少し厳しくなってきますね...自分病気にかかっていたので体力がないので最近運動もしてますし、今日は事前に言われてたので空けておきましたが...」
「そうかい、じゃあ、そちらの都合のいい時に連絡してあげてくれるかい?」
「了解です」
そうして少し話しをすると「それじゃあ俺たちはこれで...」と言って去っていった。
千里は俺と新城颯馬の会話を黙って聞いていただけだった。
俺が暇な時に連絡するということを聞いたら少し安心したみたいだったが、俺と早く決着つけたいのは彼女も同じなのだろう。
「余計な人が来てすみません...」
楓ちゃんは少し申し訳なさそうに言っていた。
「大丈夫だよ、そろそろ会いそうな気もしてたからね」
なるべく優しめで言うが実際に今までよく会わなかったよなと思う。
「そう言ってもらえると助かります...」
俺と関わる中でやはり、兄である新城颯馬のことを気にしているらしい。
こればかりは俺から何を言っていても無駄だということがわかる。
「まぁまぁ、今日楽しもうかお兄ちゃん、楓ちゃん!」
有栖は何かを察してくれたのか暗い雰囲気を打ち破ってくれた。
流石としか言えないだろう。
◇
結局その後は昼食を食べ終えてから、他のところも行く気になれなくなっていた。
「お兄ちゃん次どこ行く〜!?」
「どこでもいいけど...」
次はショッピングに行くことになった、決めたのはほぼ有栖だったが俺も楓ちゃんも反対することはなかった。
「それより、お兄ちゃん。あの人怖かったね...」
有栖が俺にそう話しかけてきた、あの人というのは颯馬のことだろう。
「そうだな、俺も思った以上に口が開いて驚いたよ」
「私も兄を前にして少し怖く感じました」
俺たち三人は何か知らない恐怖を覚えてしまったらしい。
「なんなんだろうな...あの人」
「わかんないね」
有栖も怖いと思ってしまったらしいなので、面と向かって嫌がったあの発言は結構勇気がいる行動だったのだろう。
「凄いな、有栖は」
「え?」
俺の独り言が聞こえてしまったのか俺の方を驚いて見ている有栖。
楓ちゃんは気づいていないらしく、少し先に歩いていた。
「お兄ちゃんの方が凄いよ、私だったら一年じゃ立ち直れないと思うもん!」
「有栖が支えてくれたから立ち上がれたと思う。今の俺がいるのは有栖のおかげってことだな」
「そうだよ!だからこそお兄ちゃんはきちんと決着をつけることが必要だから頑張ってね!」
「そうだな、頑張るよ」
俺はふと思ってしまう、新城颯馬という男は何を考えているのか全くわからなかった。
「綾さん大丈夫ですか...?」
「俺は大丈夫だけど楓ちゃんは家とかで大丈夫なの?」
「兄もあまり帰ってこないので...」
どうやら兄である颯馬のことはあまり気にしていないらしい。
それなら良かった、と少しほっとしてその日は改めて楽しんだ。
今日は楽しんだ分明日は運動をしないといけないな...と思った。
新城颯馬、彼の行動の意味を知るのはまだ先のことだった。
新城颯馬、何を考えているのかわからないですね。
千里から綾のことは聞いてます。
約束は一応しているので体育祭が終わってからまで出番はほとんどないと思って大丈夫です。
ここから体育祭の方に持っていきます。




