『綾と父の長電話』
俺は坂上先生の元でカウンセリングを受けていた。
「髪の毛は薄まっている気配はないね」
「そうですね、今のところ白くなったままです」
「最近身近な事で悩み事とかある?」
「特には...と言っても意味が無いですよね」
チラリと坂上先生を見るとこちらを見て微笑んでいた。
俺と坂上先生は1つだけ約束事を決めている、それは悩み事があればすぐに言うということだった。
最初は何故?と思ったが悩み事は話すだけでも楽になってスッキリすることが多い。
今までも悩み事などは話して相談して解決することが多かった。
「坂上先生が思う青春とはなんですか?」
俺は坂上先生に突然そう声かけた。
「青春かぁ...まぁ僕は勉強一筋だったからそういうのには無関係なんだよね...」
坂上先生は困ったような笑みを浮かべて答えていた。
あまり思い出したくない記憶なのだろう。
「そうですか...」
「なになに?恋の悩みなの?」
「いえ、恋愛は当分嫌なのでする気はないです」
「そうかい、他に悩み事は?」
「それくらいですかね」
実際に今1番悩んでいるのは青春についてだった。
俺は青春をしたいともう一度高校へ通うようになったが、それが本当に意味があるのか、青春をしているのか全くわからなかった。
「嘘だよね?まだ何かありそうだけど」
坂上先生は的確に俺を読みとっている、ここ1年で完璧なくらいに、俺が言っていること嘘か、本当かを見分けれるくらいまで上達していた。
才能の差を見せられる感じだったけどこれに何度救われただろうか。
「最近少し短気で...」
「それはどういうことに対して?」
そこから先は色々話していた。
俺が最近短気になってきているのは、精神的に色々追い詰められていると、他のことに対して色々と変化が出てしまうらしい。
坂上先生曰くキレかけたらすぐに深呼吸をして、落ち着きを取り戻すことを優先させた方がいいとのことだ。
キレて喧嘩になっても、今の自分の体じゃ手も足も出ないだろうとの判断だった。
仕方ないけど、男としては情けないと思った。
その日は深呼吸の正しい仕方を教えてもらってから家に帰ることにした。
◇
「ただいま〜」
「おかえりお兄ちゃん!」
「お邪魔しています」
家に帰ると、そこには有栖と楓ちゃんがいた。
最近は特に仲良くなってきていたので、兄として嬉しい限りだった。
この間の遊園地も大成功だったらしく、有栖からお土産のキーホルダーを貰った。
なんなのか分からないけど、有栖がくれたものなので、大切に保管している。
「楓ちゃんいらっしゃい」
とりあえずそう声をかけると何度も俺に対して頭を下げていた。
この姿を見ていると、少し微笑ましい感じがして笑ってしまった。
「お兄ちゃんカウンセリングどうだった?」
突然、有栖にカウンセリングについて聞かれた。
「何も無かったけど、まだ治るのは先の話になるらしい」
「そうなんだ〜早く治るといいよね〜」
有栖はそう言っているが俺は髪の毛については何も思っていない、最悪の場合は黒に染めればいい話だと勝手に思っている。
ふと気づく、有栖が言っているのは精神的なことが早く治るといいと言っている可能性がある。
実際、少し不便だったりするのでこっちは早急に治したい限りだった。
「まぁ、そう簡単には無理だけどな...」
そう、実際に治そうとしても治らない、簡単にはダメらしいな。
不便な体になったな、と改めて実感した日だった。
その日は有栖と楓ちゃんも一緒にゲームをしたり、ショッピングで荷物持ちをさせられたり、最後はみんな持ってくれたりしたけど、体力がもたなかった。
それでも久々にこういう休日を過ごした気がする、明日は日曜日だけど、家にいる予定だった。
◇
夜になると1件の電話が俺の元へきた。
「父さんか...」
その電話の主は俺のお父さんだった、あまり電話などかけてくる人では無いのだが俺に何かあったかな?と思いながら出る。
「もしもし...」
『綾か、元気にしてたか?』
「ま、まぁ?」
元気にしていたか?と聞かれて、実際に元気なので嘘はついてない。
『夏には1度家に帰ることになったからな、それまで有栖ちゃんのことよろしく頼むぞ』
「あぁ、わかった。って有栖は十分成長してるぞ、内面的な意味で、俺たちが心配するような子じゃない」
『ハッハッハ!言うようになったな〜』
俺が有栖のことについて反論?をしているとお父さんは愉快そうに笑っていた。
昔から笑う時に声がうるさくなるのが特徴的だが、それでも何か嬉しい時しか笑わないのがお父さんだった。
俺を産んだ、実母が亡くなる時には笑顔すら無くなっていたお父さんとは別人のように思えた。
「有栖は凄いんだよ、父さん。家事全部こなしても平気なんだからな、料理の腕も超上がってきて毎日美味しいから」
『そりゃあ楽しみになってきたな』
俺と父さんは少し長くまで電話をしていた。
久しぶりに電話をしていたことから自分の状況について話す時間が一切なかった。
「それじゃあ、おやすみ」
『あぁ、いい夢見ろよ』
また今度、直接会える時に言えばいいか、と後回しにするのは悪いがそれでも仕方ないよな...と勝手に結論づけた。
迷惑をかけないように外に出て電話をしていたが空を見ると月が見えた。
暗闇の中ポツリと光る月を見て、綺麗だな...と思いながら少しの間眺めた。
番外編②です!
次から3章です。
追記:番外編に章をつけ、サブタイトルを付けました。




