『行ってきます』
「ただいまぁ〜」
「お兄ちゃん遅い!」
その後家に帰ると絢瀬が来ていた。
どうせ、志乃亜に金で情報を売ったことに対しての謝罪かなにかだろうと思ったがどうなのかは知らない。
「絢瀬さんが来てるよ〜?お兄ちゃんに話したいことがあるって真剣な顔で言われたからつい上げちゃった」
「了解〜有栖は部屋にいてくれ」
「ん〜はいはーい」
有栖は本当に察しがいい子で助かる、兄として良い妹を持った気がする。
と言っても、扉の前で盗み聞きしてそうな気もしなくもない。
まぁ聞かれて困る話はあまりしないので多分大丈夫だろう。
「それで話って何?」
「あの、言いにくいんだけど」
「まぁ、予想ついてるから楽に言って良いよ」
「そうだよね、実はお父さんが経営してる会社が倒産しかけちゃって、ある女の子に貴方の情報を渡したら倒産は回避させてあげるって言われたの」
まぁ、知ってるんですけど、しかもその女の子って絶対に志乃亜でしょ、権力振り回して何してんだろあの子...。
「それで、女の子に貴方のことを話したら誰かに電話してお父さんと女の人で話し込んじゃってた。その後お父さんはニコニコだったし、最後に『その女について詳しく聞けますか?』って何か千里に対して怒ってたから、早めに伝えようと思って...」
まぁ知ってたんだけど、そこに対しては初耳だったな...。
後で連絡しておこ...あれ?連絡先持ってないじゃん。
明日連絡貰ってきちんと話そう、志乃亜には関わらないでほしいと思う。
特に千里とは無縁であってほしい、それが今の願いでしかない。
「本当にごめんなさい!」
「別にいいよ?それで倒産から救われて安心して暮らせるならそれで良かった」
「え?私貴方を売ったのよ?」
「知人と自分の家族どっちが大事かなんて言われたら自分の家族選ぶだろ、俺でもそうするから当たり前のことしただけだと思う」
「貴方はそれでいいの?」
「その情報渡した相手は俺の知り合いだから大丈夫、まぁ変なやつに聞かれたら相談してくれれば良いんだけど...ね?」
「わかった。次からはそうするわ」
その後少しだけ会話をし、絢瀬は家に帰って行った。
絢瀬の家は案外近いらしく、見送りは不要とのことだ。
この時間だし見送りをしようとしたが要らないと言われてしまう始末だった。
それはそれでこちらとしては楽なので嬉しいのだが、少し心配になった。
「お兄ちゃんお話し終わったぁ〜?」
「あぁ、さっき終わった所だけど...聞いてただろ?」
「あはは〜バレてた?」
「まぁ聞かれて困ることないけど」
聞いてることは想定内だったし、聞かれて困ることはない。
「だけど、今度からは程々にしてね」
「はーい!それじゃあ夜ご飯にしよっ!カレー作って待ってたんだよ〜!」
「おっ!俺の好物だ、有栖の作るカレー美味しいしな」
カレーを食べ終えた後、風呂に入り、すぐに寝た。
やることは何も無く、明日のために今日も早く寝ることになる。
明日は入学式を除けば実質初日のような気がするから。
◇
朝目が覚めると、時刻は6時前後だった、いつもより少し早いくらいの時刻であったが有栖は朝食を丁度作り終えたみたいだった。
「お兄ちゃんちょうど起こしに行こうと思ってたんだけどナイスタイミング!」
「おぉ、おはよう有栖」
そう言うと「おはようお兄ちゃん!」と満面の笑みで返してくれた、良い子に育っててお兄ちゃんは嬉しいよ。
「「いただきます」」
今日の朝食は和食だった、いつもはパン、目玉焼き、ベーコン、そしてサラダくらいの簡単なものだったが、今日は一段と手が込んでいる。
「今日は一段と手が込んでいるけど何かあったの?」
「お兄ちゃんが、今日も学校頑張れるように早起きしたんだよ!」
なんていい子なんだろう...めっちゃいい子に育っていて反抗期になったらお兄ちゃん自殺案件になるかもしれないよ...。
「それじゃあ今日も頑張れそうだ」
「うん!頑張ってね〜!」
その後数分で朝食を食べ終え、自室にて準備をしていた。
「よし、準備はこれくらいでいいか...」
準備をし終えた俺は着替えて、少しだけ髪の毛を整えていた。
「また白くなった気がする...」
髪の毛の白色は一段と白くなっており、とても綺麗な色になっていた。
俺でも自分の髪か?と疑ってしまうほどに真っ白な髪の毛を見て、黒の時より似合ってる気がすると、ナルシストに目覚めようとしていた。
いかんいかん、俺は平均的な顔立ちなので自惚れてはいけないと思う。
志乃亜は綺麗な銀髪だったな、とふと思い出す。
俺は自分の白髪なんかより、志乃亜の銀髪の方がよっぽど綺麗だったなと思う。
「お兄ちゃん準備まだかかってるの?」
「後ちょっとで終わりそう」
実際には髪の毛なんか、気にしたことがないのだが最初らへんくらいきちんとした身なりで行くべきだろうと思った。
テレビを消し、戸締りをしてから有栖と一緒に玄関を出る。
「それじゃあ」
「「行ってきます」」
そう有栖と声が重なってしまい、お互いに見て有栖はクスクスと笑い俺は微笑んでいた。
こういう日々も悪くないな、そう思った。




