死命を持った少年
そこで彼らと食事をしていた。
そこにはさっきとは打って変わってすごい笑顔を見せている。普通の子供、悪魔の子供には見えない。
ほかの子もそうなのかな。シンを含めて男の子が3人に女の子が3人。
でも、ほかの子も普通の子に見える。
この光景を見ているとあの大男が言っていたことが嘘みたいに感じる。
俺たちはこの子たちが普通の心の優しそうな人間なのだろうと感じた。
だが、科学者からは笑顔は見えない。まるでそこには何もないと思っているように。
次の日、俺はシンと会った場所にいた。そこでのんびりと寝転んで。
なんとなく会える気がしたからだ。感覚で思っただけだけど。
そして、シンは現れた。思った通り。
「こんにちは、お兄さん。昨日はありがとうございました。お礼をしに来ました」
「いいよ、別に」
「そうはいきません」
俺はいいのに彼は気が済まないのか。お願い、お願いね。
でも、お願いすることか。別にないけど……
「じゃあ、毎日暇だから俺の話し相手になってくれないか」
「えっと、僕といるところを見られたらお兄さんが」
俺の心配してくれているのか。自分が悪魔の子といわれているから。
昨日はあんなに笑っていたのに、今は感情にすら出さない。でも、すごく優しいんだろうな。
「別に俺は気にしないから大丈夫だから。そんなこと気にしないから」
「わかりました」
俺とシンはいろいろなことを話した。
歴史の話やこの世界の話はリタが言っていたこととほとんど変わらなかった。
しかし、唯一違ったのは打たれた人は悪魔と呼ばれ、自分も薬を打たれたのだということ。
それ以外にも毎日話した。
快晴の日は。
「シン、俺は結婚を約束した女性がいるんだよね」
「お兄さんはいい人だから、その女性は幸せ者ですね」
俺はいい人か、そうなのかな。シンは感情に出さないけど心の中では笑っている気がする。
「そうかな、こないだ刺された時なんて怒鳴られたりひっぱたかれたりしたけど」
「それは、それほど大切に思っているってことですよ」
「そうか、シンはいないのか。そういう子は」
そう聞くとシンの顔が赤くなった。
初めて感情を表に出してくれた。こんな反応するんだ。
そしているんだ。どんな子だろう。
雨の日も。
「お兄さんは仕事とかやってないんですか」
「やってるけど今はほかのやつにやってもらってる。休暇みたいなやつ」
幻滅したかな。あんなにいい人って言ってくれて仕事を休んでいるとか。
少しかわいそうなことをしたのかもしれない。
いい人を演じるべきだったのかな。
暑い日も。
「熱いな」
「熱いですね」
二人で汗をかいて木陰で涼んでいる。少しずつだけどシンは俺に感情を見せてくれている。
「こんな日には冷たいものを食べたり飲んだりするのがいいんだよな」
「でも、そんなことしたらお腹壊しますよ」
それはそうだなと苦笑いした。
涼しい日も。
「シンは将来の夢とかないの?」
「将来の夢ですか。世界を救うことですかね」
世界を救うか。大きくていい夢だな。
「シンならかなえられると思うよ」
「そうですか」
シンはうれしそうに笑った。それは、自然な笑いだった。
「お兄さんは夢とかあったんですか」
「俺か、シンみたいには大きくないけど、小さいころは幼馴染を絶対に守るって幸せにすることだったかな」
「それは今の婚約者さん?」
「うん。一回守れなかったから今は守れて幸せにできているのかなって」
「大丈夫ですよ。お兄さんですもん」
このころにはシンは俺に心を開いてくれたのか笑顔などを見せてくれるようになった。
まあ、隊のみんなにからというと。
「アーレ、いつになったらコスモス探したりするの?早くしないと飲み込まれるんじゃないの」
「パトス、今は大丈夫だ。まだ、今は」
他にも似たようなことは言われるが、本当に大丈夫だとおもう。
シンがこの世界の何かにかかわっていることは確かだ。
それは何かはわからないけど、話に来てくれている間は大丈夫だろうと、俺の中で確信していた。
そうこう隊のみんなに言い聞かせて2週間ほどたったある日。
「お兄さん。実はここに来れるのは今日が最後になるかもしれないんです」
突然、切り出された話だった。だが、それはいつか来る話なのだと思っていた。
「そうか、今日でここに来てくれるのは最後か」
「はい。僕、ここにきている間はとても楽しかったです。だからまた、ここに来ます」
シンの目から涙をながしながら言っていた。俺もシンと話すのは楽しかった。だから、俺も泣きそうになる。
「最後になるかも知れないんで、信用しているお兄さんに話しておきたいことがあります」
シンは涙を拭いて、真剣な眼差しで話し始めた。
「僕、死ぬかもしれないんです」
急に重くなったぁ。なんで死ぬんだよ。だから、今日来るの最後かもしれないんだ。
「僕、家族がいるんです。みんな孤児で、父さんが助けてくれたんです。みんな兄弟みたいに思っているんです。でも父さんに前にも言ったUPVという薬を打たれたんです、みんな」
父さんってあの科学者か。ひどいことを。
やはりものとして扱っていたのか。
「それで、明日にもう一回打ってコアって場所に行くんです。でも、そこから帰ってくる人はほとんどいないらしいんです」
この世界はそのコアという場所によって五素さえも消す力からがあるのか。
待てよ。それってまさか。
「で、僕は死ぬのが怖いんです。あと、兄弟と好きな子を失うのも」
「好きな子って兄弟の中にいるんだ」
シンはうなずく。あの女の子三人の中にね。
「死ぬのは怖い。誰だってそうだ。わかった。死ぬのが怖くなったら俺が助けてやる、兄弟も好きな子」
「えっ、どうやって?」
「もし、怖くなったら助けてと心の中で叫ぶんだ。そしたら僕が救い出してあげる。よし、元気出して世界を救ってこい。また、会えるために」
「はい、また会いましょう。お兄さん」
「うん」
そういって元気にシンは帰って行った。
俺はシンの姿が見えなくなったのを見計らってみんなのところに向かった。
読んでくだりありがとうございます。
バイオワールド編も折り返しに来ました。
次回もお楽しみに!!