運命の始まり
「何でもしますから、僕たち二人ともこないだの雪崩で両親をなくしてしまって……」
俺たち二人は雪積る街中を走り回っている。何人もの頭を下げるが、
「お前らなんか養う余裕なんてない」や「うるさい、どっか行け」と言われてほうきなどで追い返された。
でも、絶対に足を止めようとは思わない。
俺はこの子……、メーテを守るんだ。
2人の家族を奪ったあの雪崩の……。たまたま、2人で森の奥に行っていて助かったときに俺は覚悟を決めた。
父さんたちを亡くした時の悲しみは大きかった。でも、俺が悲しんでいたら誰がメーテを守っていける。
メーテも悲しいだろうし。
朝から晩まで頭を下げては断られを繰り返していつの間にか1週間ほどたっていた。
体中、傷だらけだった。
「ねぇ、少し休まない。気を張り詰めすぎだと思うんだけど」
彼女に言われるがままに裏路地で座った。
確かにここ1週間は休みもせずに街中を走りまわっていたからな。
「アーレ、寒いね」
凍えそうな声でメーテが言ってきた。体感的に10℃もないと思う。
雪も前より強くなっている。
「ごめん、大丈夫?」
「うん」
満面の笑みを向けてくれる。これが心の支えになっている。
しかし、それも長く続かなかった。
それもそうだ。厚くはない洋服、追い返されたときに負った傷、1週間ほど水しか口にしていない。
なんだか、何もかもどうでもよくなった。
今まで感じたすべてのことにたいして……
この町には俺たちみたいな人を助けてくれる人はいない。
いや、もしかしたらこの世界にいないのかも。
俺たちは絶対に報われない。
駄目なことはしなかった、悪いことはしなかった。
ただ普通に過ごしていた。
こんな人たちは報われないのだろうか。
あのとき、森に行かずに雪崩に巻き込まれて死ぬべきだったかな。
あれ?なんだろう。死ぬのが怖いと感じない。
この世界にあきれたのかもしれない。何もかもに……
「アーレ!」
突然の声に俺は近くにあった配管に頭をぶつけた。
俺は周りが見えていなかった。
メーテはとても心配そうに覗き込む。
「どうしたの?嫌な顔をして」
「いいや、何でもない」
何もないような返事をした。
こんなことメーテに言って余計心配させるわけにはいけない。
俺のせいでこの子を悲しませたくない。
日も沈み、一段と寒くなってきた。
メーテが肩に頭を乗せてきた。
肩から体温が伝わってくる。暖かく感じた。
「ねぇ、アーレ。私、あなたが好きで結婚したいと思っていたの。こんなことになっても頑張れたのは、あなたがいたからなんだ。でも、もうダメみたい。手と足に力が入らない」
「俺もだよ、メーテ。好きだ。君がいたからここまでくじけずにやれたんだ」
うれしかった。でも、涙は出なかった。
もう、あまり頭も回らない。
「最後に俺のどこが好きか教えてくれない?」
聞いている自分が恥ずかしかった。でも、一度聞いてみたかった。
俺の好きな人はどこを好きでいてくれたのか知りたい。
「あなたがいつも優しくして頑張り屋なとことか、あとその赤い目と短い黒髪かな。じゃあ、私の好きなとこは?」
とてもうれしそうに話していた。それも今まで見たことのない満面の笑みで。
「長い黒髪に黒目、いつも笑顔で周りを幸せにしてくれるところ」
すごく恥ずかしくなってきた。顔も見れないくらいに。
俺、どんな顔しているんだろ……。
「生まれ変わったら、次こそは結婚しよう」
「うん。絶対。忘れないでね」
朝日が差し込む中、眠りについた。
必ず来世でまた出会い恋に落ちて結婚する。幸せになる。
絶対に……。
読んでくださりありがとうございます。
次回から本格的に話に入ります。
次回もよろしくお願いします。