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異世界転生に夢見るのは勝手だけど、現実ってこんなものだよね? いやいや、送る方の問題か。




 トラックに轢かれそうになり、避けた拍子に勢い余って電柱に激突。気がつけばテンプレのように白い世界で女神(自称)にあったのは14年前……。


 私は今、異世界で生活している。


 いわゆる異世界転生ってやつだ。



 本来なら女神(推定年齢40over)とのやり取りを詳細に語りたい所だが、取ってつけたような設定の冒頭なぞ読者(?)は「ふーん」と思う程度で、すぐに忘れてしまうだろう。大抵の場合は読者が異世界転生だったんだと思い出すのは最終話ぐらいなのだろうから、ここは泣く泣く割愛させて頂こう。


 まとめるのならば、女神(化粧濃すぎ)に異世界転生をススメられたので「転生先での最強の力をよこせ!」と言ったら軽いノリで「オッケー♡」と快諾されただけの事だ。


 その時の女神(ツインテールが許されるのは15歳までだ【怒】)のウィンクに殺意を覚えたのだが、その気持ちを詳細に語ると呪いの言葉が10万文字を超えそうなので(以下略)。



 すったもんだがあって、ようやく異世界で新しい生を受けた訳だが、まぁ予想通り赤ん坊からのスタートだった。

 『見た目は赤ちゃん、頭脳は大人』なんて地獄でしかなかったと言っておこう。




 私の成長過程も面白おかしく話したいのだが、これまた別段普通だったので省略させて頂く。


 幼少期に「これってチートじゃね?」と特殊能力に気付いたりだの、実は勇者や賢者の親類で才能を受け継いだり、英才教育を受けたってオチがないからである。


 王族でもなければ貴族でもない、小さな集落の農家。それも3人兄弟の次男だった。


 姉も妹もいない時点で私のテンションは駄々下がりなのだが、まだ両親は若いので歳の離れた妹に期待したいものである。


 ちなみに周りにいる同年代の子供も野郎しかいないのだが、あの女神(推定Bカップ、谷間盛りすぎ)は物語を盛り上げる気はあるのだろうか? 



 おっと、私とした事がどんな世界に転生したのかを説明するのを忘れていたようだ。


 まさに中世ヨーロッパ! と言いたいところだが、そもそも私は中世ヨーロッパなど詳しく知らない。


 というかどう見てもそんな感じではない。


 私の感じ取った雰囲気で言うならば、おそらく江戸時代の農村ってこんな感じかな? って世界だ。

 もちろん江戸時代と平安時代の農村の違いを説明しろと言われても私には無理だ。そんな知識はない。


 江戸時代と比喩したが、別に村人がチョンマゲとか(江戸時代でも農民はチョンマゲではないだろうが)、和風な服装って意味ではない。


 着ているのは中東を彷彿させるゆったりとしたローブが主流だし、ある意味現代っぽい髪型である。


 しかも黒髪が多い。たまに白髪や日に焼けたような茶髪がいるだけで、私の夢見た青やピンクといった奇抜な髪色をもつ者は皆無だ。


 まずは女神(矯正下着締めすぎ)に現代ライトノベルのテンプレを教えるべきだと深く後悔したものだ。


 そして肝心な事だが、この世界には男心をくすぐるような魔法なんて存在しなかった。


 魔法で無双? あれは空想だからね。夢見てるんじゃないよ? と言わんばかりだ。


 せめて竜は? 魔物は? と思ったものだが、あいにくそんな都合の良い敵役も存在していなかった。


 いや、この時点ではそう思っていたと言っておこう。

 



→→→→→


 ターニングポイントが訪れたのは、この世界で5歳を迎えた頃だった。


 魔法やチートといった淡い期待に裏切られたと思いつつも、兄や1歳を迎えたばかりの弟と幼少期を過ごしていたある日。当たり前のように私の背後にいる存在に気付いた。


 幽波紋(スタンド)ではない……。実体のある背後霊とでも言えばいいだろうか。


 全身は真っ黒。目や口のない推理漫画の犯人っぽいやつだ。


 私より一回り小さな体躯。小太りというのか丸々していてちょっと可愛く見える。


 視線が絡むと(目は確認出来ないが)恥ずかしそうに隠れてしまう。


 他の人には認識されていないようで、兄に聞いても見えないと首を横に振られてしまう。


 誰の後ろでもなく、私の背後にだけいる存在。


 別段恐怖は感じなかったし、きっと女神(豪華な貴金属をジャラジャラと身に付けてるって神様に必要なの?)からの贈り物なんだと妙に納得したのをよく覚えている。


 手を差し出すと捨て犬のように戸惑いながらも近づいてくる。たまらなく可愛い仕草だ。


 私はこの黒い存在に『ポチ』と名前をつけた。


 理由は特にない。


 それからポチとの生活が始まったのだが、実に幸せなひと時だった。


 ポチは喋ることは出来ないのだが、その行動や表情(真っ黒)を見ていると何が言いたいのか分かる気がする。


 ペットを可愛がる人の気持ちを少し理解した。


 両親や兄、弟にはやはり見えないらしく、「ポチ、ポチ」と誰もいない空間に話しかける私は心配されたものだ。





→→→→→


 6歳にもなるとこの世界でも学校(寺小屋?)に通うようになるのだが、小さな集落。同年代の子供などみんな顔見知りだ。当たり前だがときめく出会いはなかった。


 というより、私と兄を含めて6人は少な過ぎだと思う。


 全員男だし。


 私の±4歳に女子がいない事は陰謀だと思える程だ。


 ちなみに4歳年上の兄には1歳年上の女の幼馴染みが、4歳年下の弟には1歳年下の女の幼馴染みがいる。


 まぁ、弟についてはまだ喋ることも出来ない年齢なのだが、羨ましくないとは言えない。


 そんな劣情を持つ私が同年代の子供(1歳年上の生意気そうな男児)と遊ぶよりも、ポチと一緒にじゃれ合うのを優先するのは致し方ない事だろう。


 いや、本当にポチは可愛いのだ。


 その頃には一緒の布団で寝るほどの仲だったのだ。


 ここまで懐かれたりするのは前世も含めて初めての事なので、溺愛するのも仕方ないだろう。


 特に最近は私を守ってくれる存在だ。


 例えば階段から足を踏み外せばそっと支えてくれるし、頭上から木の実が落ちてくればすかさず払い除けてくれる。


 私を守護する分身と言って過言ではないだろう。








→→→→→


 月日は流れ、私が8歳の時に事件は起こった。


 生活の大半をポチと遊ぶことに費やしてきた私だが、一応学校に2年も通うと友達だって出来る。むしろあの小さな教室(世界)でボッチでいる事は難しいのだ。


 比較的話をするのは1歳年上の生意気そうな男児こと『ジャイオ』と1歳年下の小判鮫っぽい『スネアン』だ。


 彼らは前世でいうところの小学生みたいなもので、頭脳は大人な私にとっては幼稚さは感じるものの、そこは田舎あるある。森に入って鳥を罠で捕まえたり、木に登っては実を取って食べさせてくれたりと、私の知らない色んな遊びを教えてくれる存在だった。


 ジャイオは見た目に反して「お前のものは私のもの!」とも言わないし、スネアンもこの集落一の金持ちの家なのにそれを自慢する事なく謙虚な奴だ。


 事件の発端はそんな友達2人といつもの如く森に遊びに行った時のこと。調子に乗ってついつい奥深くまで入り込んでしまった。


 一応大人達からは森の奥には入るなと言われていたのだが、ダメと言われれば余計にしたくなるのが子供。


 お約束のように、我ら3人とポチは巨大生物に遭遇した。


 体長2メートルはありそうなイノシシ(っぽい生き物)だ。


 あれだね。


 人間想像もしてない恐怖に出会うと体が固まるって本当だね。


 ガクガクと身体は震えるし、失禁もするものだ。


 そんな恰好の餌食を見て、鼻をフンスカさせながら突進してくるイノシシ。


 ガクブルしながら短い異世界生活の走馬灯が見えた瞬間、背後にいたはずのポチがイノシシに向かっていた。


「――ポチ!?」


 恐怖の金縛りが解かれポチに向かって手を伸ばそうとした刹那、ポチは見事な正拳突きでイノシシを吹っ飛ばしていた。


 さすがは世界最強の力。


 イノシシは泡を吹いてノビていた。


 私が顔をくしゃくしゃにしながらポチに駆け寄ろうとすると、ジャイオとスネアンが感嘆の声を上げる。


「すげぇー! シズータってビッテの騎士みてぇ!」

「すごいよ! シズータさん!」


 ――今更だが私の名前はシズータ。決してバウスの使い手であるシー◯とパ◯ーが合体して出来た子供ではない。


 今はそれは置いておこう。


 その時私は気づいたのだ。


 ポチは他の人には見えない。


 つまりジャイオとスネアンには私が腕を伸ばした瞬間に、イノシシ(オットコヌシよりは小さい)が吹き飛ばされたように見えたわけだ。


 私は褒めて褒めてと駆け寄るポチの頭を撫でくりまわしながら、ふとジャイアン……じゃなかったジャイオの言ったビッチならぬビッテの騎士を記憶から掘り返す。




 ――ビッテの騎士


 よくある英雄モノの御伽話なのだが、どうやらこの世界には実在してるらしい。勧善懲悪、悪を滅する正義の味方。


 アルメと呼ばれる超常的な力を使い、遠くの敵を触らずに吹き飛ばし、いかなる攻撃も弾き飛ばす超人。


 平たく言えばスターでウォーズする騎士様だ。


 本来見返りを求めないヒーローも、欲望に身を落とし欲望のまま利己的になると、極悪面に落ちたとされ『ガオナァ』と呼ばれる。


 ……極悪面って。字面で見ればただの人相の悪い人じゃないか。せめてパクリでよいので暗黒面(ダークサイド)と呼んで欲しいものだ。


 しかしビッテの騎士ねぇ……。


 考えれば考える程に――ポチやんけ!


 幽霊の正体見たり枯れ尾花。


 こう胸にストンと落ちた訳だ。


 きっと同じように異世界転生した人にはポチのような存在がいて、現地民からは超常的な存在に見えたのだろう。


 そんな異世界人(ヒーロー)は、もてはやされているうちにジェダイな騎士気取りになったのかもしれない。


 すでに私の中で求めていた『世界最強の力』なんてどうでもいい部類に入ってたんだけどなぁ。


 ポチ可愛いし。


 むしろそれが周りにバレると面倒だと思った私は、ジャイオとスネアンに誰にも言うなと念を押し、2人も何度もコクコクと頷いて了承してくれた。





 それからというもの、ジャイオとスネアンは私を尊敬の眼差しで見るようになったものの、他言することは無かった。平和な生活が続き、私は私でポチとの友情を育んでいた。


 そう。


 ビッテマスターと呼ばれるあの男がこの集落に来るまでは……。












【登場人物紹介】


シズータ……前世はサラリーマン。トラックを避けるほどの反射神経の持ち主だったが、あえなく電柱に激突して死亡。赤ん坊時代で1番の地獄は、夜な夜な両親がいたしてしまう事だったとか。それでも彼はまだ見ぬ妹を信じて耐え抜いたのだった。


ジャイオ……村1番のガキ大将。ヤンチャではあるが聞き分けはよく、村人からの評判は意外といい。両親に溺愛されてる彼の口癖は『俺はカァちゃんのペットじゃないっつーの!』


スネアン……村1番の金持ちの息子。とはいっても他に比べて畑の広さがちょっと大きいだけである。寝癖がひどく前髪が突き出ていることが多いのだが、本人は面倒くさがって直したりはしない。几帳面に見えてズボラな性格。


ノヒカ……本作のヒロイン。登場予定は今のところ無い。


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― 新着の感想 ―
[一言] ヒロイン登場しないんかい。
[良い点] 久しぶりに在り処さんの作品、嬉しいですねえ。 そして、さすがセンスは鈍っていませんな! おもしれえ。 とりあえず、女神に対するヘイト溢れすぎ(笑)。
[一言] >ノヒカ……本作のヒロイン。登場予定は今のところ無い。 wwww このスピード感好きです!w 続きも楽しみにしております!
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