第7話 皇蟲
戦闘シーンはまだまだ苦手かもです。
次話、金曜日か土曜日には更新出来るように頑張ります。
森のある程度奥まで来てみたものの、昨日のように大量の虫達に囲まれる事もなく、たまに仲間を呼ばれても精々数匹集まる程度だった。
念のためMPは温存し、借り物の剣を使って戦ってはいるがステータスが上がったおかげで問題なく斬り捨てていく事が出来ている。
2日目は1日がかりで初日と同程度の数を狩って森を出た。
その夜、狩った数を聞かれたのでおよそ50前後とだけ告げる。
恐らく初日分の数は多少勘違いしているのだろう。後3分の2位で終わる。ペースが早いな等と励まされた。
ルヴィスの見た目も若干成長しているようには見えるが、昨日ほど一気に成長しているようには見えなかった。
恐らくレベルが上がった事でレベルが上がりにくくなったのだろう。
ちなみに俺は今日1日で3レベル上がった。
『ユーリ』
レベル 21
力 160+80%
素早さ 210+80%
丈夫さ 1800+80%
体力 530+80%
賢さ 150+80%
HP 680
MP 190
スキル
企業戦士
依頼に対するステータスの超高補正。依頼に対する獲得経験値の増加、成長率への高補正
ラーニング
知識、技術の習得に対し高補正。対象により被弾時に習得する場合あり。
空間収納
任意のアイテムを収納、取り出しが行える。収納量はMPに比例し、収納分のMPを常時使用。取り出す事で元に戻る
神の加護
幸運と試練、成長の加護、神の知識の代弁者
属性適性
風 10
風纏 斬風 暴風陣 風神乃剣
水 10
水撃 水刃 水流擊
雷 10
雷纏 紫電 雷刃 紫電雷纏
闇 10
暗玉 暗幕
光 10
小癒 浄光 癒光 光乃矢
とまぁ新たに3つの魔術と魔法を習得した。
理解した効果を考える限り、かなり高性能なものだ。
明日は一気に奥まで進んでレベルを飛躍させたいと思っているのでとても心強い。
そして3日目。
早朝から森へと入った俺は監視の目が届かないであろう所まで進み、剣から槍へと装備を変えて一直線にある場所へと足を進める。
それは森に入り、それでも尚、その姿が見える場所。
神樹の元へと向かうつもりだ。
前にここに来た時と、今の違いはあの樹の枝を持っているかどうかが最大の違いだと俺は睨んでいる。
事実、もしも最初にこの森を突っ切ろうとした時に今みたいにあの蟲達が襲いかかってきていたとしたら、恐らくはすぐに死んでいたはずだ。
だが、あの時には蟲達は全く襲ってきたりもしなかった。
だから俺はそうゆう進化を遂げた普通の虫だとばかり思っていたんだ。
もしも推測通りであの神樹の枝を持っていれば蟲達に襲われないのであればルヴィスや他の奴隷達を救った後、この森は追っ手を巻くのに最も適した場所になるはずだ。
そのためには今のうちにそれなりの数の神樹の枝を集めて空間収納にしまっておく必要がある。
幸い昨日は魔力回服薬を使用しないで隠して保管出来たし、今日は昨日よりも2本多く追加で貰っておいた。
回服薬も同じように多く貰ったし、何よりも今なら企業戦士のスキル効果で俺のステータスは補正込みでレベル60台に匹敵するかそれ以上になっているんだ。
今日で依頼達成をしてイーストフォレストに戻り、奴隷輪を無効化して皆でこの国を出る。
方法はある程度だが、頭に描いた。
そのためにも下準備だ。
俺は先ず1本の魔力回服薬を飲み干し、昨日覚えたばかりの魔術、紫電雷纏を発動させる。
魔法と違い、魔術に分類されるものは常時発動型となり、武器の創造や身体能力の向上等ステータス以上の能力を発揮する事が出来るようになる。
今回発動させた魔術、紫電雷纏は雷纏の完全なる上位互換だ。
効果は雷纏のものの強化に加え、瞬間的な身体速度の激増、システム的な反撃、防御動作の設定が出来るようになる。
つまり不意打ちに対して対策がとれるのだ。
外周部の蟲達の攻撃力を考えればここから先の蟲……いや、怪物の攻撃を甘く見るわけにはいかない。
「あの神樹までの距離を考えれば途中休憩や足止めを喰らうわけにはいかないからな。魔力回服薬の効果を考えれば紫電雷纏を使い続けることは可能なんだし、出来る限りの最速で向かおう。」
途中見つかる蟲達は極力無視し、進路上邪魔な虫は槍を一薙ぎして雷の効果と槍の攻撃力で爆散させる。
出発から2時間程度は出現する怪物も外周部にいた蟲達が殆どで、特に苦労することもなく全速力で駆け抜けることが出来た。
しかし……それを越えてから現れ始めた兜虫型の怪物や蠍型の怪物、鍬形型の怪物は防御力が高く、槍を無造作に薙ぐだけでは倒せなかった。
苦戦するほどでは無いものの、きっちりと甲殻の隙間を狙うか、魔法を撃ち込まなくては倒すのに時間が掛かってしまい、全速力を維持する事は難しくなってきていた。
また、蟻のような人形の怪物に至っては此方の槍を躱す者までいた。
「ちっ……神樹まで全速力で行ければあと1~2時間で行けるってとこなのに……。」
周囲には厄介な人形の怪物や兜虫、鍬形、蠍等が群がり始めていた。
1匹1匹に時間が掛かり、奴等が仲間を呼ぶ速度の方が早くなってきたのだ。
「纏めて吹き飛ばす!暴風陣!」
風属性の範囲魔法を撃ち込み、自分を中心に半径30メートルの空間に風の刃を産み出し荒れ狂わせる。
鋭利且つ風の流れで各々の弱い部分を容赦なく斬り刻み、一気に包囲網に穴を空けた。
この魔法は強力且つ消費MPも少ない高性能な魔法だが、敵味方の区別がつけられない事がネックだ。
……まぁソロの現状では関係ないが……。
さて、周囲に敵が殆ど居なくなった隙にまた全速力で神樹へと進んでいく。
既に魔力回服薬も3本目を使っている。残りは3本……。急がなくては……。
そんなこんなで走り続け、更に一時間。4本目の魔力回服薬を飲んだ時に“それ”は現れた。
“それ”は今までの虫とは明らかに違っていた。
隣に立てば見上げなければ見えない頭、何メートルあるか分からないほどの胴体の大きさ、顎部からは触手のように無数の口が出てきている“芋虫”だった。
恐らくはこれが皇蟲だろう。
領兵長の話では森に5匹確認されている皇蟲のうちの1体にして幼生を放つ唯一の個体だ。
皇蟲は此方が身構えるよりも早く、その口から触手状の口を使って攻撃してきた。
「!?くそっ!」
紫電雷纏の効力でかろうじて反応し、その触手に捕まることはなんとか避けられたが、腰に着けていた借り物の剣を奪い取られてしまった。
鞘にも入れず、この数時間ずっと身に付けていた剣は電熱で赤くなり、一時的に切れ味を増しては居たが、剣身部以外も含めて絡みとられ、バラバラにされた。
「(なんてパワーだ!)」
触手もまた所々斬り傷が出来てはいたものの持ち手のいない剣では切断は出来なかったようでその体液が滴り落ちて、地面を焼く。
「やっぱ皇蟲の幼生と同じく体液も強酸性か……。捕まってもアウト、恐らくはこの槍でも斬りつけたら武器破壊をされそうだな……。」
俺は武器による攻撃は分が悪いと考えて槍を腕輪へと戻す。
本当ならあの剣を使って攻撃しつつ様子をみたかったけど、予想よりも遥かに攻撃速度も早いしな……。
ここは魔法を頼りにした方が正解かな。
皇蟲は此方へ何度も触手を振るうが紫電雷纏を使用していれば不意打ちでも躱すこと位はなんとかなっていた。
「先ずは小手調べに……暴風陣!」
不可避の風の刃を無数に産み出し、無差別に斬り刻む。
皇蟲の防御力はさほどの高さでは無いようで頭を中心に無数の斬り傷とそこから大量の体液が辺りに撒き散らされた。
しかし、致命傷にはならないようだ。
斬り落とした触手も即座に再生し、体液を飛び散らした身体の傷もみるみるうちに塞がっていく。
領兵長が話した話の中に皇蟲と呼ばれる5匹には驚異的な回復力……むしろ再生力と呼べる能力があると言っていた。
これまで神樹の恩恵を受けたくても受けられず、5匹しかいない皇蟲を討伐出来ないのも全てはこの再生能力が原因らしい。
また、怪物達の心臓とも脳とも言える核もこの巨大な体躯の中を流動的に動く事でその場所を特定する事は事実上、不可能と聞いた。
「わかっちゃいたつもりだけど厄介極まりないな……。一度にこの巨体を全て吹き飛ばす魔法は無いし、せめて核を露出させられれば……。」
昨日覚えた光乃矢は必中の矢だ。
核を一度認識すれば後は魔法が勝手に核を撃ち抜いてくれる。
問題は……どうやって核を露出させるか……だな。
今の最大の範囲攻撃力は暴風陣が一番高い。
それで貫けないなら局所型の魔法で貫くしかないけど……。
荒れ狂うような触手の攻撃を躱しながら最高攻撃力を誇る風神乃剣を発動させるのは厳しい。
範囲型と違い、単体型は座標を固定させる必要がある上に風神乃剣は暴風陣の3倍近く消費するから無駄撃ちをしていたら一気にMPが枯渇してしまう。
さて……どうしたものか……。
(お……さ……。お兄……こえ……か。き……た……返事……さい!お兄……!)
「(何だ?声が……?)」
(聞こえ……か?私……。ルヴ……です。)
「ルヴィス?いや、まさか……こんな所にいるわけが……。」
(お兄さん!ルヴィスです。聞こえますか!?)
「ルヴィス!?間違いない。今確かにルヴィスの声が……。どこにいるんだ……?」
(私は檻の中にいます。レベルが上がり、新しいスキル 心の絆を手にいれて……ってそんなことより!なんでそんな怪物と戦ってるんですか!?無理しないでって言ったじゃないですか!)
「悪いが今は君と楽しくお話をしている場合じゃないんだ。すまないがこの事は領兵達には言わないでくれよ!」
(あ……待って下さい!せめて私も力になりたいんです。)
ルヴィスの声の直後、俺の目の前の地面から一気に壁が産まれた。
その壁は触手の一撃を受けて尚その形を保っていた。
(昨日覚えたばかりの技です!任意で壁や刺を作り出します!だから私にも指示を下さい!)
遠隔でこんなに遠くに魔法を及ぼすとは思わなかった。
この力なら……。
「わかった!なら奴の身体を固定してくれ!後は俺がやる!」
ルヴィスは言われた通り、皇蟲の身体に地面から産み出した岩のの刺を十何本も産み出し、動きを一時的に固定する。流れ出る体液が岩の刺を溶かして行くが、完全に溶けきるよりも、ルヴィスの刺を産み出す速度の方が早い。
俺はその隙に2本の風神乃剣を撃ち込み、皇蟲の身体を縦に3つに斬り分けた。
一瞬の内に皇蟲の身体からは先程までとは比べ物にならない量の体液が流れ、地面の刺を含めて全てを溶かしていく。
しかし、直ぐにその身体は再生し、無傷の状態へと戻っていくが……
「視えた!光乃矢!」
再生が終わる刹那、俺は目的の核を見付け、一筋の光の矢を放つ。
放った光乃矢は一直線に飛翔し、皇蟲の頭から尻尾の先を撃ち抜いてその巨躯を貫通した。
『ん~……。やっぱり気になるなぁ……。調べる……やっぱいっか♪必要以上に関わるとつまらなくなるしね♪見守っていてあげるから……頑張ってね♪』