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第3話 策略

第3話投稿になります。

よろしくお願い致します。

胸糞悪くなるような罵声を浴びせながら、貴族風の男が鞭で少女を打ち付ける。

何度も鞭に打たれ、泣き叫びながら謝っていた少女が下から打ち据えられた鞭の威力で仰向けに倒れ、俺の側まで跳ばされて意識を失った。

俺は咄嗟に少女の脇に座り、少女を抱え、ぐったりと意識を失っている少女に先程買取り商の所で買ったばかりの回復薬を傷になっている場所に振りかける。

正直半信半疑ではあったが、即効性があるようで目に見えて傷が少しずつ癒えていく。


「おい!我輩の奴隷に何を勝手に薬を与えている!」


その様子を見た貴族風の男が、気に食わないといった表情を露にしながら、俺の側まで歩み寄って来ると、鞭を鳴らしながら此方を見下ろしてくる。

俺は、その男を下から睨み付け、少女を地面にそっと下ろして立ち上がった。


「あんな非道な様子を見せられりゃ誰だってそうするだろう。大体、大の大人が子供相手にやることじゃねぇだろ!」

「はっ!奴隷だと解っているのか?出荷前に躾をしなきゃ買い手なんざつかないのさ。それともなにか?貴様が買い取るとでもいうのか?」


奴隷。この世界には奴隷なんてものが有るのか。しかし胸糞悪い奴だ。

とはいえ、この手の輩は恐らく金で解決するのが1番話が早いだろう。

値段の相場がわからないのが厄介だが……。


「……良いだろう。だったら俺が買い取ってやる。まぁ子供だし貴様の話じゃ調教前なんだろう?銀貨50枚でどうだ?」

「話にならんな。我輩を舐めているのか?その奴隷は変異種だぞ?購入時点で金貨1枚もかけて購入しているんだ。」


貴族風の男は鼻で笑うようにこちらを見下しながら俺を追い払うように手を振ってくる。

馬鹿な奴……購入金額ばらすとか最低金額で買えますよって言ってるようなもんじゃねぇか。まぁ、これが嘘でもっと安く買ってきたっていうなら見上げた商魂だが……。


「変異種か。確かに珍しいな。だったら金貨3枚出そうじゃないか。それなら文句はないだろう。」


そう言い、男に金貨を渡すと男は驚いたような表情でこちらを見てくる。そして即座に厭らしい笑みを浮かべ、金貨をまじまじと見つめていた。


「問題ないならこの子は俺が貰っていく。文句は無いな?」

「まぁ……良いだろう。さっさと連れていけ」



男は更にニヤニヤと笑いながらそう言い、金貨を持ってその場から去っていった。


……胸糞悪い奴だ。

俺は意識を失っている少女に目を向けるとほとんどの傷が既に癒えていた。

少女を抱きかかえて、2人が待っている場所へと向かう為に歩き出す。待ち合わせ場所はもうすぐそこだし、2人に一声掛けたら今日は町の探索は諦めて宿屋でこの子を休ませるとしよう。

さて、2人にはなんて説明したものかな……。

考えている間に待ち合わせ場所へ着く。

何だかんだで結構時間がたってしまっていたので、既に2人共その場に待っていたようだ。


「あら。その子はどうしたんですの?奴隷のようですが。」

「あぁ……木材が売れたお金で買い取ったんだ。」

「へぇ……そうですか……。」


2人に少女を買い取った事を告げると、サーシャもケインもあまり深くは追究してこなかった。

俺は少女を休ませたかった事もあり、2人に宿屋の場所を聞き案内してもらう。

宿屋自体は結構な数がこの町にあるようで、実際待ち合わせ場所の傍にもあった。

宿屋の2階に部屋を取り、少女をベッドに横にならせた。

少女は大分衰弱しているようで、意識を失ってからそれなりに時間がたっているにも関わらず、まだ意識を失ったままだ。

俺は、一先ず少女をベッドで休ませると、サーシャとケインに事の経緯を伝え、この世界の情報をもっと聞くために下へと向かった。

もう少しこの世界の情報を聞かないとな……。

ケインにはあまり俺が転生者で無知なことは知られたくは無いが、正直、情報が無さすぎる。


一階のロビーには事前に事の経緯を説明すると話をしていたので、サーシャもケインもロビーのソファーに座って待っていた。

念のため、あの子を購入した金額や木材の売値については伏せつつ、経緯を説明する。

2人は特に驚いた様子もなく、奴隷について教えてくれた。

その情報によると、奴隷は色々な国に居るが、基本的には犯罪者が多いらしい。

国によっては他種族を強制的に奴隷にする事もあるそうだが、この国では、一応そういった事は禁止されているそうだ。

また、子供の奴隷は大抵が借金等で身売りされた場合が多い。

中には例外的に子供でも本当に重犯罪者も居るらしいが……。


そして奴隷は例外無く奴隷輪と呼ばれる首輪を着けられ、主が死ぬか、主となるものだけが知っている解除コードを入力されない限りは主に逆らう事が出来なくなる。

逆らおうとしても首輪から全身に電流が流れ、麻痺状態にされた上、かなりの苦痛を強いる機構になっているとの事だ。

また、解除コード入力の正規の方法以外で外された奴隷輪には、装着者に奴隷痕と呼ばれる紋様を残すらしい。それは主が死んだ場合にも適応されるが、総じて奴隷痕が出来た人間は迫害……中には私刑を行う者すらいるらしい……の対象として蔑まれ、奴隷輪が着いている時よりも酷い扱いを受けてしまう事になるらしい。


って事はあの男は売却したつもりで実質売却していないようなものって事じゃないか。

……明日にでもあの子の奴隷輪を外すためにあの男を探すしかないか……。


「色々と教えてくれてありがとう。明日、ギルドとかの案内もよろしく。今日の宿代は俺が払っておくな。」

「それは構わないけれど、あの奴隷の子も連れ歩くのかしら?」

「……連れ歩く気ならば止めた方が良い。」

「そのつもりだったんだが、なにか問題があるのか?」

「規則上の問題では無いのですけれど、ギルドに奴隷を連れて赴くのはやはり体裁が悪いのですわ。評判が悪くなる……と言えば理解出来まして?」


まぁ確かにそれもそうか。依頼者にしても奴隷を使役しているような屑に何かを頼んでは弱味につけ込むのでは無いかと考えるのも理解できる。


「なるほど。確かにあまり見た目に良いものでは無いよな。……わかった。それなら先にあの子の奴隷輪を解除出来るようにあの子を買った男を探すよ。」


2人には明日、あの子の奴隷輪が解除出来たら、改めてギルドへの案内を頼む事を伝え、俺は少女の分の食事を受け取って部屋に戻った。

部屋に戻ると少女は意識を取り戻していたようで、ベッドから部屋の隅へと移動して頭を抑えながら丸まっていた。

震えている……。恐らく今までの経験からベッドで寝ていた事で叱られると思ってるのだろう。

実際、服に隠れていて解りにくいが、彼女の身体には無数の傷痕があった。回復薬を掛けてあげたかったが、流石に服を脱がすわけにもいかないし、古傷にも効果が有るのかも不明だったので、止めておいた。


「目が覚めたのか。身体の調子はどうだ?」

「……お兄さんは誰ですか……?ご主人様は……?」


出来るだけ怖がらないように優しく声を掛けたが、彼女は震えながらこちらを見上げ、か細い声で問いかけてきた。

……まぁ無理もないか。身体を見る限り、よほど怖い目にあったんだろうし……。


「あの男から君を買い取った。とりあえずは君を故郷まで送ろうと思うんだけど……身体の調子に問題がなければ食事をとるといい。」


俺はテーブルに食事を置き、少女へ手招きをする。

なかなか少女はこちらに近付いては来なかったがやがて食事の匂いにお腹が鳴り、手招きに応じてテーブルに着いた。


「……本当に食べても良いのですか?食べようとしたら叩いたり食事を捨てたりしないですか……?」

「そんなことをしても俺にはなんの得もないだろ?冷めない内に早く食べるといい。」


俺の言葉に少しは安心したのか少女は恐る恐る食事を食べ始めた。

最初は恐々とこちらの様子を伺いながら、恐る恐る食事を食べていたが、よほど空腹だったのか直ぐに箸やスプーンも使わずに手掴みで一気に食事を掻き込み始める。

……よほど食事を取らせて貰えなかったんだろうな……。

途中途中喉に食事を詰まらせ、その度に俺は水を少女へと渡していた。


ものの10分程度で大の大人が食べるような量を食べきった少女は直ぐに食べ終わった食器を纏めて片付けようとして手が止まった。


「……申し訳ありません。こちらの食器をどこに片せばよろしいでしょうか……。直ぐに片付けをしますので叩かないでください……。」


恐々とした様子で俺にそう言い、震えながら頭を下げている少女の頭にポンと手を置くとビクッと大きく少女は跳ね、そのまま土下座をして何度もごめんなさい、ごめんなさい、叩かないでと繰り返し大きな声で謝っていた。


「片付けなんか別にしなくていいし、怯える必要もないよ。食事は満足したかい?」

「は、はい。私なんかに食べ物を恵んでくださりありがとうございます。なんでもしますから痛いことはしないでください……。」

「しないってば。まぁ満足したなら良いけど、もし足りないようなら言ってね。おかわりを持って来るから。」

「いえ……もう十分です。それで私は何をすれば良いのでしょうか……?掃除ですか……?それとも何か荷物を運べば良いですか……?」


やはり少女はなかなか警戒を解こうとはせず、俯いたまま、ビクビクと身体を震えさせながら返答していた。

俺は普段よりも声音に充分注意をしながら、彼女に声を掛け続けた。


「何もしなくていいよ。あ、そうだ。君の名前は?」

「……私の名前でしょうか?……私は既に名前は無くなりましたので……ご主人様のお好きなようにお呼びいただければ問題はありません……。」

「うん、俺としては君の元々の名前が知りたいんだけどな。」


俺の問いかけに少女はどうしたら良いのかわからない様子でキョロキョロと視線をさ迷わせ、やがてか細く、消え入りそうな声で名前を教えてくれた。


「……ルヴィスです。」

「ルヴィス……。良い名前だね。俺はユーリ。今日から君を故郷へ帰すまでの間よろしく。」

「ユーリ様……ですか。粗相の無いようにがんばります……。どうかよろしくお願いします……。それで……私は何をすれば良いでしょうか。」

「ルヴィス、君は確かに俺が買ったかもしれない。だけれど、別に奴隷が欲しい訳じゃないんだ。だからルヴィスは普通にしていていいんだよ。明日にはあの男にその奴隷輪も外させるから。今日はゆっくり休んで?」


ルヴィスに回復薬も渡し、身体の傷痕に掛けてみてと伝え、お風呂も沸かし、入るように促した。

ルヴィスはお風呂に入るなんてと断っていたが、ゆっくりとお願いすると恐々した様子は変わらないが、やがてお風呂に入った。


風呂から上がり、ベッドで休むように伝えた時もやはり同じように断っていたが、どうにか部屋の隅の床で横になろうとしていたのをベッドへ寝るように説得し、ベッドへと入っていった。



彼女が寝やすいように俺も隣のベッドへ入り、その日は早い時間から休んだ。かなり疲れが貯まっていたようで、直ぐに深い眠りへと落ちた。





翌朝、俺とルヴィスを起こしたのは多数の足音と部屋のドアを乱雑に叩く音、そして……


『強奪犯ユーリ!貴様は完全に包囲されている! 無駄な抵抗は辞めここから出てこい!』


という身に覚えのない怒声だった。

『あらら♪……彼もよくよく貧乏くじを引くなぁ♪そういう星の元に産まれてきたのかも知れないね~♪』

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