第13話 神々の思惑
いつも読んでくださりありがとうございます。
第13話、更新が遅くなり、大変申し訳ありませんでした。
次の話で第一章を終了と致します。
その一撃は確かにアンラ・マンユの胸を貫き、俺の身体を纏った雷は槍を通じ、その牙をアンラ・マンユの全身へと一瞬の内に駆け抜けた。
槍を引き抜き、活動を止めたアンラ・マンユへ最大限の注意を払う。
「やった……のか?」
そう呟いたその瞬間。大地から響き渡るような気味の悪い脈動が世界を包み込んだ。
『ヨくも……よクも……妾に……。楽には殺さヌ!神の力を思いしルが良イ!』
身体がドロドロに溶け、腐臭を漂わせたアンラ・マンユの身体がビクビクと蠢き、漆黒の液体となる。
その液体は辺りに散らばる瓦礫を飲み込み、全ての物を腐敗させ、更にはその質量を吸収し、体積をどんどんと増大していく。
「……嘘だろ……。こんなもんどうしろっていうんだ……。」
瓦礫が飲み込まれてるって事は多分物理じゃどうにもしようが無いのかも知れない。
さっきから奴の身体を照らしてる炎も見る限りはどうにも効果は無さそうだし……。
「だからといって諦める訳にはいかないよな……。」
もう残りのHPも少なくなってきているせいで、足元もふらついてきてはいるが、ここで食い止めなければ最悪、城どころか街や住民全てを飲み込まれかねない。
俺は最後の力を振り絞り、再度紫電雷纏を最大出力で展開した。
その力を槍へと集中し、広範囲を薙ぎ払うように漆黒の液体へと振り払う。
「……ははっ……ちくしょう……。」
しかし、振り払った槍は持ち手を残してその姿を消し、漆黒の液体へと吸収されてしまった。
予想通りではあったが、物理だけでは無く、なけなしの力を注いだ紫電雷纏をも全く効果を表す事も無く吸収されてしまうのは予想外の結果だった。
「こりゃ……どうしようも無いな。HPも残りは100を切っちまった。……せめて、ルヴィスだけでも逃げ延びてくれれば良いけどな……。」
既に周りを囲まれ、逃げ場もない。
HPの残りは少なく、MPは0。武器も溶かされた。
詰みだ。
『妾の一部にナルが良い。奴の使徒を消シ、こノ世界に災厄の時代を迎えサせヨう』
漆黒の液体から人型に形造られた人形が現れ、漆黒の液体の一部を触手のように操りながら俺を捕まえようと蠢く。
既に紫電雷纏も継続使用は出来ず、MP枯渇による虚脱感まで有るなかギリギリで触手を躱していくが、周りを囲まれ、逃げ場もない中では何時までもは躱しきれない。
遊ばれているのはわかっていたが、少しでもと足掻き続ける。せめて少しでも彼女の、ルヴィスが逃げ切るだけの時間を稼ぐ為に。
しかし、その願いは僅か数分しか稼ぐことも出来ず、遂に触手は俺の身体を捉えてしまった。
『さァ、サァ!妾の一部になるが良いぃぃぃ!』
触手は俺の身体を捉えて直ぐに漆黒の液体へと変化し、あっという間に全身を包みこむ。
まるで弄ぶかのように鎧や服から少しずつ溶かされ始め、遂に俺自身の身体からも溶かされる激痛を感じたその瞬間、俺の体内から一条の光が走り、周囲の漆黒の液体を吹き飛ばした。
その光は球体を形作り、アンラ・マンユの本体であろう人型の塊を残し、周囲の全ての“闇”をまるで飲み込むかのように高速で動いて消し去っていく。
周囲に広がっていた“闇”は僅か数秒でそのすべてを光の球体に飲まれ、消えさると、光の球体は俺とアンラ・マンユの間へと降り立ち、その姿を少年の、自称神様へと変えた。
『アンラ・マンユ、君、“ここ”で何をしてるんだい?』
『スプンタ・マンユッ……!何故貴様がッ……!?』
『わかっているだろう?僕達創造神はこの世界を創造した後、お互いに直接の関与を禁じた筈だよ?』
『グッ……。妾の邪魔をしにわざわざ出てきおったと申すかッ!』
『君がまだ諦めないと言うのならば僕が相手になろう。結果は……わかっているよね♪』
スプンタ・マンユと呼ばれた自称神様の少年がその手に光を集め始める。
アンラ・マンユもまた、その手に闇を集めてお互い睨み合いが続いた。バチバチと音をたてながらお互いの集めた光と闇の残滓がぶつかり合い、周囲の大地を弾け飛ばしていく。
音がなるごとに地面には数メートル台のクレーターが出来上がり、既に周囲には無数の穴が空いていた。
『……確かに妾とて貴様との対消滅は避けたいの……。じゃがこの世界を厄災の時代へと導く事が妾の使命じゃ!厄災の種子は残させて貰うぞ!』
アンラ・マンユはそう叫ぶと手に集めていた闇を天へと放つ。
放たれた闇の光は上空で一旦制止すると、闇の光の塊が7つに別れて至る所へと飛び去った。
『それは確かに僕が関与出来る領域を越えているね。さて……じゃあ君は……どうすれば良いか、わかるよね?』
『言われずともわかっておる!貴様も早く神界に戻るが良いわ!全く……いつもいつも邪魔をしよってからに!あぁ!!忌々しい!』
『ばいばーい♪また後でね~♪』
アンラ・マンユは忌々しそうにそう言い残すと、その全身を闇の塊へと変化させ、空へと消えていった。
『さて♪ユーリ君。ダメじゃないか。彼女をこの世界に現界させるなんて……。お陰で随分と世界が闇へと傾いてしまったよ?』
俺は全身を蝕む激痛に耐えながら身体を起こし、自称神様、スプンタ・マンユの前へと立ち上がる。
全身は焼け爛れ、装備も殆どが無くなってしまったが何とか生きてはいる。幸い直ぐに死んだりといったことはなさそうだ。
「……すまなかったと思っている。」
『ま。しかたないけどね♪彼女は君の身体に宿っていたみたいだし♪君の怒りがきっかけになったのは確かだけど♪』
「……どうすれば良い?」
『あらま。物分かりが良いね~♪君にはこれからも彼女がこの世界に撒いた7つの種子を滅ぼして貰うよ♪僕もまた、この世界に直接の関与を禁じてるからね♪』
スプンタ・マンユは俺にこの世界の創成の話を俺に語り聞かせた。この世界は彼等2柱の創造神が造り出した世界で、スプンタ・マンユは光を司り、この世界に希望や正義、命を造り出した。
そしてアンラ・マンユは闇を司るものとして、この世界に絶望や悪、死を造り出したそうだ。
やがて世界には様々な種族や命、そして疫病や死が産まれ、一通りの世界の理を造り出した2柱は、互いにこの世界への直接の干渉を禁じ、この世界の上位へとあたる神界へと上がり、この世界には間接的に関与のみを続けていた。
しかし、世界はどちらかに偏る事がほとんどで、神たる2柱が去った後は光、闇の傾きが一気に顕著に現れるようになっていった。更にはどちらへ傾き過ぎたとしても、この世界は崩壊へとその運命を辿る事となる。
故に、傾きが強くなる度にスプンタ・マンユ、アンラ・マンユの2柱からの干渉は世界に強く作用する。
世界が闇へと片寄れば希望を、逆に世界が闇へと片寄れば絶望が世界へと放たれる事になるのだ。
今は希望に偏った世界になってはいるが、スプンタ・マンユの話では、まだ天秤の針は光側の限界までは行かないらしい。
しかし、あることをきっかけに、アンラ・マンユは天秤の針が大きく傾く事を危惧し、干渉の隙を伺っていたのだろうとの話だった。
『ま、決定的なのは君の転生なんだけどね♪君の本来の素質は光に大きく偏るものだったから♪』
「ん?ちょっとまて。って事は何か?つまりはあんたの判断でこんな事になったって事か!?」
『あはは♪ごめんね♪まぁ最後の引き金は君なんだからよろしくね♪あ、そうそう。僕ももう神界に戻るけど、今回の僕らの降臨で君や彼女、アンラ・マンユが喰らった全ての者達の魂力が一気に無くなったから、出発するときには気を付けてね♪じゃ、まったね~♪』
「はぁ!?ちょ、ちょっと待て!おい!」
光になって霧散した場所に俺の声が虚しく響き渡ったのだった。
『全く、貴様は何故いつもいつも妾の邪魔ばかりするのじゃ!さっさと済ませることが出来んかったではないか!』
『君はいつも干渉をしすぎなのさ♪全く……毎度毎度言わせないでよね♪』
『ふん。じゃが妾が放った7つの種子が代わりに世界に災厄を与えてくれるわ。お主の時代ばかりでは不公平じゃからな。』
『さてさて♪どうなるかな♪もう干渉をしちゃ駄目だからね?』