第 12話 決戦
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昏くて静かで寒かった。
なのに頭だけはルヴィスを殺された事への怒りと、護ることが出来なかった自分自身への怒りで五月蝿いくらいに血の流れる音が鳴っていたんだ。
頭に響いていた声に従っていると、寒さも煩さも和らいで心地良く感じて……そう、心が晴れていく。そう感じてたんだ。
その声が、失ってしまったルヴィスの声によく似ていて……彼女の無念を怒りを憎しみを俺が晴らすんだって……。
いや、言い訳だよな。
だって彼女は優しくて強いから。
最初に見たときはただ可哀想だと思って助けた。
その後も彼女を故郷に帰す約束を果たそうと思っていただけだ。
あの森に連れていかれた日の夜、彼女の意識に触れたあの時から本当に、心から彼女を護りたい。そう思うようになった。
彼女の心に有った悲しみや憤りは、俺が今まで生きてきた中で最も強い感情だった。それなのに彼女はその気持ちを押し込めて、他者に見せたり、ましてやぶつけたりもしなかった。
それどころか俺を気遣うようなあの娘が、復讐なんて望むわけがない。
だから……これは俺自身の憎しみを晴らしているに過ぎない。
彼女が……ルヴィスみたいな娘が死ななければならない世界なんて間違っている。
それを当たり前だと思っているやつなんて皆皆皆死んでしまえばいい!!
あの兵長が止めてくる。あんたは違うと思っていた。ルヴィスを護った、そして俺を救ってくれたあんたならあんな奴等とは違うと思っていたのに!
もういい。全て……キエテシマエバ……。
俺の意識が何もかも消えようとしたその時、俺の全身を柔らかくて暖かな温もりが包み込んで、穏やかで心に響く声が聴こえた。
その暖かさは凍えていた俺の身体を温め、その声が頭に五月蝿いくらいに鳴り響いていた血の音を静める。
心に語りかけてきていたあの声も聴こえなくなって、昏い視界には光が射し込んだようだった。
暖かい……。
眼を開くとそこにはルヴィスの姿が有った。
幻……?
「ユーリさん……正気に戻ってください……。」
「ルヴィス……なのか?死んだんじゃ……?」
「私は生きています。ユーリさんが助けてくれたんじゃないですか。」
確かに俺は彼女に極光癒を掛けた。
でも彼女の傷はふさがっても失ってしまった血までは戻らなくて結局意識は戻らなかった。
身体も冷たくて……死んでしまったんだと……。
「ごめんなさい……。心配を掛けてしまいました。だけど、こうして私は無事です。だからもうこんなことは止めましょうよ。」
ルヴィスの顔色は青白く、生気もあまり感じない。出血は止まっていてもやはり失ってしまった血が戻っていないのだろう。
……こんなこと……。
そうだ。俺はアンラ・マンユを現界させて、王やヴァインを倒そうとしたんだ。
王やヴァインはどうなったんだ?
辺りを見渡すと漆黒の龍が目に入る。
それと達磨になって呻き声を上げているクズ王。
後は俺の傍にいる領兵長ハンクだけだ。
他にも十数人の兵やヴァインがいたはずだけど……。
「正気に戻ったか。ならば早く陛下への攻撃を止めるのだ。どんな事をされても我らが王なのだ。……陛下を失うわけにはいかん。」
ハンクがそう言い募ってくる。正直な所、俺個人としてはあんなクズは死んだ方が世のため人のためになると思うのだが……。
「……アンラ・マンユ、もういい。元居た世界へと帰れ。」
数秒間何も起こらなかった。継続して王からはグズグズと肉が腐る嫌な音と、その都度響く王の叫びや呻き声が響き続ける。
?そんな筈は……悪神乃降臨は一時の間だけ、術者の魔力を依り代に神の一柱を召喚し、使役するだけの魔法の筈だ。
術者の意に沿う筈だが……。
「アンラ・マンユ、俺が止めろと言ったんだ。早く止めるんだ。」
『くすくすくすくす。妾に命令?ユーリよ。お主何様のつもりじゃ?』
「なっ!?意思が!?」
『妾はこの世界の創造神じゃぞ?既にお主達の魂力も手に入れ、妾を縛る楔も抜いた。もはや妾を縛るものは存在せぬ。妾は妾の意思で、いや……創造神としてこの世界へ破滅を授けるのじゃ』
馬鹿な……。魔法の説明にはそんなことは何も……。
そう思ったその瞬間、王の全身をアンラ・マンユが貪り尽くした。
徐々に闇が形作っていたその姿が、爬虫類のような……いや、空想上の生き物である龍そのものへと具現化されていく。
その姿は玉座の間の天井を突き抜け、夜の闇の中でもより濃い闇の龍として世界へと産声を響き渡らせる。
『さて、ユーリよ。お主にはこの世界へと招き入れてもらった借りがある。
じゃからこの場は見逃してやろう。代わりにこの町の生き物は例外無く全て貪り尽くしてやるがの。』
「ま、まて!止めるんだ!」
『くすくすくすくす。喜ぶがよい。お主の願いの通り、この世界の者達全てを屠ってやるのじゃからの。』
俺の……せいで?この世界の全ての人間が……死ぬ……?
そんなこと、させてたまるか!
生きていたルヴィスを今度こそ……護るんだ!
だから……
「アンラ・マンユ!俺はそんなことは認めない!お前が止めないと言うならば、俺が止めてみせる!」
俺は即座に神乃審判を発動させた。
裁きの光は数多にも降り注ぎ、アンラ・マンユの全身へと撃ち込まれた。
「まだだ!風神乃槍!雷神乃鉄槌!」
“あれ”はそんなもので死ぬような敵じゃない!
だからこそ俺はMPの残量を全く気にせずに今の最強攻撃魔法を連発し……そのMPを使いきった。
『終わりかの?多少は傷は負ったが、その程度ではなんともならんのぉ。諦めるがよい。』
諦められる訳が無い!MPが無くなったなら直接!
「ハンクさん!済まないが彼女を……ルヴィスを連れて逃げてくれ!あいつは……俺が責任を持って討伐するから!」
「バ、バカを言うな!貴様1人でどうにかなる相手ではない!」
「奴は俺が呼んだんだ!その責任がある!……頼む!彼女を……ルヴィスを死なせたくないんだ!」
俺は腕輪になっていた槍を武器化し、尽きたMPで発動出来ない筈の魔術を無理矢理発動させた。
体外に放出する事は出来そうにはなかった。
でも紫電雷纏や海神乃鎧は命を対価に発動出来るようだ。
発動と同時に自分自身でわかる位に命の残量が減っているのがわかる。
「……頼む。」
「……わかった。だが絶対に死ぬんじゃねぇぞ。貴様には言いたいことが山程有るんだからな!」
ハンクは俺の様子に渋々ながらもルヴィスを抱えて撤退してくれた。
『くすくすくすくす。もうよいかの?最後の足掻きで妾を楽しませておくれ。』
2人が俺の元を離れて数分の間アンラ・マンユは動く事無く2人が逃亡するのを見逃していた。俺は奴が逃がしはしないと考えていたが、アンラ・マンユはわざわざ宣言をした上で、龍の咆哮と同時にその躰を宙に浮かせると、一気にその躰ごと俺へと突進し、その衝撃で玉座の間は跡形も無く崩壊した。
命を削り、発動させた紫電雷纏のお陰で辛うじて反応できた俺はその顎を躱す事は出来たが、続く尾の一撃が強烈に俺の身体を打ち付けた。
血反吐を吐きながら尾の一撃の直後に槍を振ることで反撃を試みるも傷も浅く、ほとんどダメージを入れられない。
更には打ち付けられた衝撃で吹き飛び、崩壊していく城へと突っ込んだ。
「……かはっ……ゲホッ……ゲホッ……。クソ、肋骨が何本かイッたな……。」
突っ込んだ場所は城の食堂のようだ。
魔術を無理矢理使用しているお陰でなんとか無理矢理身体を動かす事は出来そうだが、一撃喰らっただけでこのダメージじゃあ正直勝ち目は薄い。
さっき放った魔法はどれもダメージは通っているんだから、少なくとも倒すことが絶対に出来ないなんて事は無い筈だが……。
『告。悪神、暗黒神に分類されるアンラ・マンユは光に対して特に弱く、光源を問わず、明るい場所であればその真価を発揮し得ません。』
神の加護が弱点を教えてくれる。神乃審判は連発出来ない魔法では有るが、効果時間が長い魔法でもある。
だからこそ、続けて放った風神乃槍や雷神乃鉄槌も一定以上のダメージを与えることが出来たそうだ。
とはいえ、既に命を削り魔術を無理矢理発動させている状況では神乃審判は使用できない。
何か光源になるものは……。
『くすくすくすくす。かくれんぼかえ?ならば城ごと焼いてやろう。』
不意に声が響く。
咄嗟に近くに山積みにされていた大きな麻袋を連続でアンラ・マンユに向けて投げ、槍も使用して大量に撃ち込んだ。
万が一この城全体へと範囲攻撃をされてしまえば逃げているハンクが巻き込まれかねない。
そうなればルヴィスもまた、命を奪われてしまう。
ならば俺のいる場所を教えた方がましだ。
『無駄な抵抗じゃの。燃え尽きるが良い。』
食堂に向け、アンラ・マンユは漆黒の炎を吐き出す。
範囲を限定された炎は食堂を焼き尽くすが、ギリギリのタイミングで躱す事が出来た。
しかし、食堂のガス管へと引火して爆発が起き、その衝撃でまたもや吹き飛ばされたが、漆黒の炎とは別に赤々とした炎も燃え盛り、アンラ・マンユの身体を明るく照らした。
『ぬ……ぐぅ……』
不意に明かりから遠ざかろうとアンラ・マンユが身体を動かし、更に城が崩れた。
その崩れた破片が大量に散らばる麻袋へとあたり、周囲に大爆発が巻き起こった。
どうやら麻袋の中身は小麦粉だったようだ。
城の崩壊で落ちてきた破片が小麦粉を巻き上げ、厨房の炎が引火する事で粉塵爆発が発生した。
咄嗟に海神乃鎧を発動し、爆炎を防ぐとモロで大爆発を受けたアンラ・マンユが地に堕ち、その姿を変化させていく。
巨大な龍の姿が崩れていき、大蛇と女の上半身とが半々になったような姿へと変化した。
所謂ラミアのような姿だ。
俺は咄嗟に海神乃鎧を解除し、最大出力で紫電雷纏を使用し、文字通り電光石火の槍の一突きをアンラ・マンユの胸へと撃ち込んだ。
『アンラ・マンユ……。神たる君がまさか直接介入するなんて……。代償をいただくからね。』