第 10話 将軍
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昨夜、ルヴィスには今日の計画と解放者のスキルについて全て伝えておいた。
恐らく今日、あのクズへの謁見のあと、制限は有るだろうが、少しは自由に出来る時間も有るだろう。
そのタイミングで城内の奴隷達を解放しておき、俺が王を討ち取ると同時に集団で脱走、郊外で合流した後に神樹の森へと退避し、そこから比較的奴隷制度に関して排他的だという鉱人族の国へと亡命するつもりだ。
神様の依頼を考えるのであれば、城だけでは無く、全ての奴隷を解放するべきなんだろうが流石に人数や退避のタイミング、戦闘要員的に厳しい。
確実に犠牲者が出てしまうからな。
俺は馬車で運ばれながらずっと計画について検討を重ねていた。
最大の問題は集団脱走の時に少なからず犠牲が出てしまう事だ。
王を討ち取る段階で城の警備は俺へと集中するだろうが、流石に全兵士が集結するとは限らない。
更に俺自身がその包囲網を突破する必要がある。そこで突破が出来なければ逃げた奴隷達もやがては捕縛されるか、殺されてしまうだろう。
どう突破するか、また、王へと怪しまれずに再度近付くにはどうするかを考えているとやがて馬車が町まで戻り、町の前で止まった。
怪訝に感じていると馬車から降りて近付いてきた兵長に、俺とルヴィスは2人とも檻から出された。
「まだ城どころか町にも入って居ないみたいだが、なにかあったのか?」
「門番から陛下が他国の王へと会議に他国へ向かってからまだ城に戻っていないと聞いてな。その為、明日の昼までお前達を城に連れて行く事が出来ないのだ。」
「何故だ?別に王が居なくとも城には入れるんじゃないのか?」
「お前らはまだ将軍閣下にも会っていないだろ。陛下不在の際に将軍閣下が把握していない者を城に入れることは出来ん。」
要するに警備上の問題って事か。
って事は城に入るのに今夜は町か町の外で待たなければいけないって事になるのか。。
「まぁお前がかなり頑張って出来た時間だしな。褒美だと思って今夜くらいは町でのんびりすれば良い。昼までに自ら城へと出頭してもらうがな。どうせ奴隷輪がある以上は逃亡も出来ないならば特には問題もあるまい。」
「見張りも無しで放置してくれるって事か?」
「先に伝えておくがお前達の奴隷輪には既に陛下が制限を掛けているからな。変な事は考えない方がいい。……例えば城への攻撃や反乱の煽動、逃亡、命令違反も制裁対象に入るな。無論男女の営みに関しても範囲内だ。金に関しては多少渡してやるから大人しく宿で休むのだな。」
まぁ制限も掛けずに奴隷を外に出すわけもないか。
最もルヴィスに関してはその全てを外した訳だが、あのクズを油断させるためにも今は俺の分の奴隷輪の効力を外す訳にはいかない。万が一主人にだけ解るような仕掛けでもあれば奇襲が出来ないからな。
そういえばルヴィスの方で外れているのがバレてしまう可能性があるな。その場合はその場で開戦するしか無いか?
……とりあえず今は買取り商から金を回収しておくか。共通貨幣らしいしあって損はない。それに装備も見繕っておきたい。
よくよく考えてみれば貨幣位なら空間収納に仕舞えば大して嵩張らないしな。
町に入り、宣言通りに領兵達は城へと戻っていった。
既に夕方から夜に差し掛かっているから、大体半日位は自由に動けるってわけか。
「ルヴィス、まずは買取り商の店でお前の装備を見繕おうと思うんだが、他に行きたい場所はあるか?」
「私は特には……ユーリさんに任せます。明日の計画に必要なんですよね?」
「まぁ計画もそうだが、武器なしではなにかと不便だろうしな。」
門の側に買取り商はあるので直ぐに店へと到着し、入り口を開けると受付の親父が此方を見て目を見開いて寄ってきた。
「おい!アンちゃん、その首輪はどうしたんだ!?」
「あ~……いや、色々あってこの国のクズ王に奴隷にされちまってさ。今回たまたま自由時間が出来たから親父に預けたお金とこの娘の装備を見繕って貰おうかなって。」
「そりゃ元々アンちゃんのもんなんだから構いやしねぇけどよ。しかし奴隷って……坊主、一体何やらかしたんだ?」
俺はざっくりと経緯を親父に説明すると、親父は額に手を当てて盛大なため息をついた。
「よりにもよって人狩りのサーシャ・バールストンとケイン・バールストンと関わるとか……あんだけ騙されんなって言ったろうが!全くアンちゃんは……。で、実際どうすんだ?奴隷輪をつけられちまったんじゃ一生奴隷のままなんだぞ?」
「そっちに関しては考えがあるから大丈夫だ。とはいえ暫く親父の店に来れそうもないからな。それで預けた物を返しといて貰おうと思ってきたって訳だよ。」
親父は肩を竦めると店の奥へと行き、金貨の詰まった袋を持ってくる。
そして俺の時と同じようにルヴィスの事を観察し始めた。その視線が奴隷輪に止まると、親父は怪訝そうな顔をし、問い掛けてくる。
「こいつは……。おい、アンちゃん、“これ”は説明してくれんのか?」
「……見ただけで何かわかるのか?」
「舐めんじゃねぇ。買取り商としてやっていくなら鑑定のスキルは必須だぜ。嬢ちゃんの奴隷輪は既に効力を失っているだろう。イミテーションかとも思ったが材質や作り、呪いの残滓を見る限り、間違いなく本物だっていうのに効力だけはきれいさっぱり消えてやがる。」
「……出来れば内密にしてもらえると助かるんだが……ダメか?」
「訳有りか……まぁ別に構わねぇけどよ。あんま無茶すんじゃねぇぞ。」
親父は奴隷輪が無効化されている事について内密にすることを約束してくれた。
正直このスキル“解放者”はあまり公にはしたくないからな。
ちなみにルヴィスの適性武器は杖と槌らしい。槌に関しては戦闘よりも鍛冶能力が有るからこその適性だろうとの事だからメイン武器は杖になるのだろう。
「杖か……アンちゃんは運がいいな。つい2日前に最高級の杖が売り込まれたから良いのがあるぜ。」
そう言うと親父は奥から何やら宝石が10以上はついた杖を持ってきた。
宝石は1つ1つの色が違う。それでいて派手過ぎない、なんというか……厳かな、いや、神秘的な杖……と表現すれば良いだろうか……。
確かに最高級って言うのも頷けるな。
「親父、その杖は買えるのか?」
「そりゃ売り物だからな。まぁ金貨100枚って所だ。銘は神王の杖、装備品としてのランクは驚きの伝説級だぜ。」
装備品のランクについては前回槍を買った時に少し聞いたな。
粗悪級品〉三級品〉二級品〉一級品〉特質級品〉伝説級品〉神域級品
が通常の装備のランクになる。
例外的に呪術級品が有るが、呪術級品はその代償を考慮しなければ伝説級品以上の性能は必ずあるそうだ。
それこそ身体の一部を引き換えに神域級品以上の性能を発揮するような装備も確認されているらしいな。
……っと。考えがそれたけど、この装備はそのランクが伝説級。普通店で買えるような品物じゃない、文字通りの最高級品だ。
ここで買わない手は無いだろう。
必要無くなれば売れば良いし。
「わかった。金貨100枚で買おう。確かに滅多に手に入るような代物じゃないしな。ちなみに効果はわかってるんだろ?」
「毎度あり。そりゃ鑑定スキルがあるからな。効果は単純な魔力の増大効果と魔法ストックだな。但し、魔法ストックの方はともかく魔力増大の方は化け物みたいな性能を持ってやがる。なんせ元のステータス値を5倍に引き上げる効果があるからな。」
「ご、5倍!?伝説級ってのはそんな高性能なのか!?」
5倍って……チートみたいな高効率ステータス増強効果のあるスキル“企業戦士”よりも1つだけとはいえ遥かに越えた強化が出来るとは……。
武器だけでも高ランクの物を持っているやつは警戒しなきゃダメだな。
「いやいや、この杖は伝説級の中じゃスキルが少ない分弱い方だと思うぜ。まぁ正確には少ないんじゃなくて1つのスキルが封印されているみたいだけどな。」
「これが弱いのかよ……てか、封印っていうのはなんなんだ?」
「さぁな。鑑定はあくまでも鑑定だから封印されている事しかわからねぇよ。」
「……多分ですけど……魔法石が4つ既に死んでいるからだと思います。魔法石は武器の命ですから。」
!?……ビックリした。ずっと杖を見たまま黙っていたルヴィスが急にこんな話に割り込んで来るとは思わなかった。
「この4つの魔法石は神王の杖の根幹に当たる大事な魔法石です。1つ1つの魔法石だけでも伝説級……中には神域級の物を使用しているんです。」
「へぇ……嬢ちゃん、随分詳しいじゃねぇか。何でそんな事がわかるんだ?」
「……この杖は……我が家の家宝です。数年前に魔法石の力が失われてしまい、その上、盗難にあった大事な家宝……です。」
つまり……この杖は元々ルヴィスの一族の物って事か。
なら……。
「……アンちゃん、先に言っとくが値引きはしねぇからな。」
……ばれたか。
「そんなことしないさ。だが、変わりにこいつを売りに来た奴の事を教えてくれないか?」
「私からもお願いします。親父さん、誰がこの杖を?」
「……いや、そりゃ教えてやりたい事はやりたいんだが……全身甲冑姿だったから顔は見てねぇんだ。」
「そう……ですか。どこの甲冑かとかも……?」
「この国の奴じゃあねぇな。甲冑の材質もありふれたもんだが、製法自体がこの国のものとは根本的に違うし、少なくともこの国の職人が手掛けた物じゃ無い。」
親父から聞けた情報はその位だった。ついでに防具も見繕って貰ったが、ルヴィスの服は本当に高級品らしく、特質級に分類されるものだから、親父の店にはそれ以上の防具は無いそうだ。
俺の防具はオーダーメイドをしてはいるが、急ぎで欲しい事を伝えると、しぶしぶルヴィスの防具と同じ、特質級の部分鎧を見繕ってくれた。
そして他に用事の無くなった俺達は宿屋で夜を過ごし、翌朝、城へと向かった。
ちなみに神王の杖と残りの金は俺の空間収納にしまい込んである。
奴等に見付かればどうせ取り上げられるからな。
城に着いて少し待ち、王の帰還と共に城の中へと案内された。
そして王の間へ通されると、そこにはまだ20才そこそこにしか見えない童顔の剣士と、倒れ臥している領兵長が居た。
「よくぞ逃げずに余の前に帰ってきたな。我が奴隷よ。」
王はそう言うと俺達を睨み付ける。
それと同時に室内を警護していた領兵達が、俺とルヴィスを無理矢理にひざまづかせた。
「それでよい。して……うぬ等は余の依頼を3日で遂げたそうだが間違いは無いな?」
「そんなことよりも兵長さんの手当てをしてやったらどうなんだ?このままじゃ死んじまうぞ。」
「余が聞いている事をそんなこととはどういう了見じゃ!!貴様も其奴と同じように斬られたいか!?」
怒号が玉座に響くと、領兵達が即座に俺の頭を床に押し付けようとしてくる。
しかし……今の発言は頭にきた。そこで倒れている兵長は態度は悪いながらも俺達に対して随分と気にかけてくれたんだからな。
俺が抵抗しなかったからこそ、無抵抗にひざまづいただけで、本来領兵程度のステータスで今の俺をどうこうする事なんか出来ない。
俺は頭を床に押し付けようとしてくる領兵を突飛ばし、兵長に対して癒光を使用する。
その上で王に対して思い切り威圧を掛けた。
「……そこまでだ。」
俺はその声を聴いたと同時に床に押さえ付けられていた。
「全く。やはりハンクの奴は奴隷の調教がなっとらん。こいつに頼んだ奴隷だけはいつもこうして反抗的な態度をするのじゃからな。ヴァイン将軍、ハンクは処刑、その奴隷には立場を弁えさせるのじゃ。」
「……御意。」
ヴァインと呼ばれた男は俺を解放すると剣を抜いて此方を挑発するように指で来いと合図をしてきた。
俺はハンク兵長から借りたままになっている剣を抜くと紫電雷纏を発動させる。
さっきは一瞬姿を見失ってしまったが、この状態であれば見切れるはずだ。
「……ゆくぞ。」
俺が構えるのと同時にヴァインの姿がその場から消える。
紫電雷纏を使用して尚、その姿ははっきりとは見えなかった。
しかし……多少ぼやける位になら……。
振り下ろされた剣は俺の髪を少し掠めたものの横を通り過ぎ、床へと突き刺さる。
紫電雷纏の効果で反応速度も上がっている俺は、目の端で捉えた僅かな動きに反応し、回避することが出来た。
勿論、攻撃を避けられた隙だらけの身体へと、剣を薙ごうとしたが、その時、全身をまたもや強力な電力が流れ、身体が痺れて動けなくなった。
「……馬鹿め。」
ヴァインの蹴りが炸裂し、俺は数メートル飛ばされ、ルヴィスの前へと転がった。
「ヴァインよ、殺しはするでないぞ。」
「……御意。」
ヴァインは仰向けで動きが取れない俺に対して、ゆっくりと歩いて近付き、その剣を高々と振り上げた。
(ヤバイな。こいつ、強い。多分殺さないように気を付けてるんだろうが、あの斬撃を無防備に喰らったら……っくそ、解放者を使うしかないか……)
俺は解放者を発動させ、奴隷輪の効力を無くす。
即座に反撃に移ろうとして……身体の麻痺が取れていない事に気付いた。
その一瞬が運命を分けるのだった。
『あ~……奴隷輪の効果を想定しないとか……迂闊だね~♪このままだと……不味い事になりそうだなぁ……。』