幕間 ハンク・シュレッダー
今回はユーリが神樹へ向かって居る間の事を領兵長ハンク・シュレッダーの視点で描きたいと思います。幕間の為いつもよりも短いですが、よろしくお願いいたします。
水曜日、本編を更新できるよう頑張ります。
今日で3日目。
今回の戦闘奴隷は今までの奴隷と違い随分と前向きにレベル上げを行っているようだ。
今までの奴等は大半が今の状況に絶望しているような奴等だったが、今回の奴隷、ユーリとルヴィスだったか……あの2人は眼の光が全く違う。
ルヴィスも初日の昼間こそ絶望に眼の光が陰っていたが、何をきっかけにしたのか、夜にはユーリと変わらぬ光を灯していた。
今までの奴等でも、数少ない絶望していない者は脱走を企ててばかりでレベル上げもなかなか進まないような者が多かった。
もっとも……この森に来る頃には覇気は無いものの、国に従順になっていたし、諦めて今の状況を受け入れているといった様子が通例だ。
……そういう意味でも奴等は特別か。
属性適正最大値が5つ。更には結構な防具も身につけているある意味で即戦力の奴隷だ。
そりゃいきなり捕獲された他種族の奴隷たちとは違うよな。
初日こそ知識不足で危なかったが、2日目には危なげなく狩りをしてきたみたいだしな。
今日も既に森の入り口から見えるような位置にはいないし、少し奥に行っているんだろう。
「ハンク兵長、そろそろ交代の時間です。代わりますよ。」
「ん?あぁ……そうだな……。いや、もう少ししたら頼むからまだ休んでいていいぞ。」
「またですか……。……兵長、差し出がましいとは思いますが、あまり奴隷に肩入れしない方が良いかと思います。」
「わかっている。別に肩入れしているつもりはないさ。たが陛下から預かった大事な人員だ。無駄にするわけにはいかんだろう?」
「いや、まぁ……あの女奴隷に何かあったら、陛下に処刑される事もあるのは自分も存じてはいますが……奴は所詮、戦闘奴隷でしょう?兵長が無理をしてまで護ろうとする必要は無いように考えますが……。」
「……そうだな。だが、少なくとも森の外周部で危険を感じる場合には救出に向かえ。……良いな?これは命令だぞ。」
「はっ!」
実際、陛下も奴がどうなろうと気にもしないのだろう。
しかし、だからといって兵団自体も奴隷達に対して関心が無さすぎる。
いや……実際、国民の大多数がそういう考えになっているのは理解しているし、俺も別に表だって反対するつもりは無いが……やはりどこかおかしいと感じてしまう事は否めない。
見張りを替わり、ふと、檻に入れたままのルヴィスを見ると、彼女はその場に座って何やら祈りを捧げているようだった。
彼女は鉱人族の突然変異体と陛下から聞いている。
通常、鉱人族は背丈が低く、褐色の肌をしている。男でも女でも力が強く、容姿としては、お世話にも我々から見て美しいと言える種族では無いが、彼女は身長も鉱人族にしては随分と高く、肌も白い。
唯一紅い眼だけが鉱人族特有の特徴では有るが、俺から見ても息を飲むような美しさだ。
何よりこの2日で随分と成長して女らしくなった。
最初見たときはまだまだ子供で、精々が女の子と言えるようになったばかりといった見た目だったのに、今では年頃の娘といった容貌になっている。
「お前も考えてみれば不憫なものだな。この地より帰れば陛下の慰み者として長い時を過ごすことになるのだから……。まぁでも命があるだけましかもしれないか……。」
つい、不憫に思い、声をかけてしまったが、彼女は俺の話にも全く動じる事も無く、祈りを捧げ続けている。
確か、鉱人族は炎と大地の神を奉る種族だったが、彼女も他の鉱人族と同じように炎と大地の神に祈りを捧げているのだろうか。
……いや、何らかの魔法か魔術でも使用しているのかも知れないか。パーティーメンバーへの付与魔術であれば距離があろうとも発動し続ける事も可能だろうしな。
「無理はするなよ。お前に何か有ればあの男も嫌がるだろう。」
「……私に何かご用がお有りなのでしょうか……?」
っと。あまり歓迎はされちゃいないか。まぁそりゃそうだよな。
「すまんな。別に用があるわけじゃない。ただ熱心に祈っているようだったから少し気になっただけだ。」
「……私が今出来ることは祈ることだけですから。」
彼女はそう言った後、また粛々と祈りを捧げ続け始めた。
……なるほど。奴もこの娘もどちらも希望を捨ててはいないのはお互いがお互いを希望として捉えているからかも知れないな。
出来ることならば陛下の奴隷から解放されればいいと思うが……いや、その考えは陛下に対しての非礼に当たる……。
奴隷達は死なない限りはその全てが陛下の物となるのだ。
そして俺はこの国に仕える兵士、その俺が陛下へ仇なす訳にはいかぬのだ……。
例え、俺個人が納得のいかない事だとしても……な。
その日の夕方、あの男は無事に帰ってきた。
驚いた事に、本日の狩りでノルマを遥かに超えたそうだ。
事実確認は正確には出来ないが、彼女の成長度合いを見る限りは偽り無しと判断した。
翌日の朝一に城に帰るとあの男に伝え、休むように指示を出した後に、部下達にドロップ品の確認や回収を行わせた。
全く……。何度も俺の予想を越えてくる男だな。
翌朝、野営地を出発し、昼頃にはイーストフォレストまで帰りついたが、その夜、俺は、国を揺るがす大事件に遭遇し、重大な決断をすることになるのだった。
「ルヴィス、急に通信が途絶えたみたいだけど大丈夫か?」
『あ、なんでもないです。兵士の方が私を心配して話しかけて来ましたので……。心配掛けてしまってごめんなさい。』
『あ、僕の場所取られちゃったよ♪次はダメだかね~♪』