百芸を極めし者
注)ナカノムラの短編ですけど、エロとおっぱいとシリアルが含まれていないです。
あと、セリフとか一切なく淡々と進む形式です。
その男に一芸を極める才能はなかった。
だからこそ、彼は百芸を修めたのだ。
彼は魔王を倒す勇者の仲間であった。
彼の他にも勇者には仲間がいた。
魔法使い。
剣士。
僧侶。
弓使い。
そして、勇者。
誰もが当代一の実力者。並び立つものがいないほどの者たちであった。
だが『彼』は違った。
確かに一流と呼べるほどの実力は有していた。
けれども。
魔法使いほど魔法は使えず。
剣士ほど剣を扱えず。
僧侶ほどに回復もできず。
弓使いほどに弓も使えず。
そして──その全てを使う勇者には全てにおいて劣っていた。
事実、戦闘において彼の戦績は他の者に比べて格段に低かった。僧侶は基本的に回復魔法しか扱えないが、例外的に邪悪なる存在──悪霊や不死人──に対しては絶対的な優位を保っており、その分野においてはやはり僧侶には叶わなかった。
そして──これより挑むのは魔王の城。
単なる『一流』では足りない。それこそ人間の域を超えた能力でなければ太刀打ちできない場所。
ゆえに──彼がパーティーを追い出されるのは自明の理であった。実力で劣っている『彼』を仲間に入れておく余裕がなかったからだ。むしろ、足手まといであった彼を庇う余裕が無くなれば、もっと自分たちは強くなれると信じていた。
勇者の言葉に他の仲間たちも同意した。皆、『彼』の事を疎ましく感じていたのだ。
ただ唯一──僧侶だけが勇者の言葉に異を唱えた。
『彼』は必ずこのパーティーには必要な存在であると。
僧侶の必死の説得により、勇者は『彼』の追放を思いとどまった。
この後に勇者たちは知る事になる。
『彼』という存在がどれほどのものかを。
魔王城に突入してから、戦いは困難を極めた。
強力な魔物に凶悪な罠。
油断をすれば一瞬にして全滅するほどの危機に何度も直面した。
しかし──その全てを勇者たちは乗り越えた。
そして、最後に待ち受けていたのは魔王とその直属の部下である四天王。魔王はもとより、四天王はそれ一人でもまさに一騎当千の実力を有している。勇者たち個々人では太刀打ちできず、四天王一人にパーティー全員で戦ってようやく勝利を収められるほどの猛者であった。
確実に言える事は、魔王と戦いながら同時に四天王を相手にするのは勇者たちには不可能に近かった。
──それを可能にしたのは『彼』だった。
確かに、勇者パーティーの面々は才能に溢れた者たちだ。持ちうる一芸に関しては並び立つ者がいないほど。
対して『彼』は一流の実力を有していながらも、個々の能力に関しては同等の能力を秘めた者も探せばいくらでも見つかる程度。
その事は『彼』自身も十分に理解していた。専門分野においては、仲間の誰に比べても一歩も二歩も劣っているのだと。
だからこそ、彼は『百芸』を会得した。
魔法使いに一歩劣る程度に魔法を習得し、
剣士が戦えば苦戦する程度に剣を扱え
僧侶には届かずとも回復魔法を操り、
弓兵ほどではないにしろ卓越した弓の腕を持ち、
そして──個々の能力では勇者に叶わなかった『彼』は、勇者よりも『己の能力』を扱うのが上手かった。
『彼』はありとあらゆる手段をもってして四天王を足止めした。
時には剣を振って相手を迎え撃ち、またある時は魔法をもって攻め立て、隙あらば弓を持って狙い撃ち、傷を追えば回復魔法で態勢を立て直す。
四天王の相手を引き受けた『彼』は四天王を倒すには及ばず、だが四天王も彼に倒すには及ばなかった。油断せねば負ける相手ではなく、だが背中を向けて良いほどに『彼』は弱くなかった。
『彼』には隙がなかった。勇者パーティーの誰に及ばなくとも、誰よりも多芸な彼に弱みがないからだ。
勇者パーティーの面々はここにきてようやく思い知った。
『彼』は確かに『功績』という点に限ればパーティーで最弱であろう。しかし、百芸を収めそれを自在に操る彼は『時間稼ぎ』という点においては仲間の誰よりも上手かったのだ。
戦う力が一番低く、そして生命線である僧侶は必然的に敵から狙われる立場であった。そんな彼女を他の仲間が駆けつけてくるまでの時間を稼ぎ、守り続けてきたからこそ。『彼』の戦う姿を誰よりも身近で見てきたからこそ、僧侶は『彼』の持つ『一芸』に気がついていたのだ。
一芸を極める才はなく、
されど百を修める才はあった。
だからこそ『彼』は『百芸』を『一芸』とし、その『一』をまた『百』と重ねつづけた。
積もりに積もった芸を『自在に使いこなす』という『一芸』を磨いてきたのだ。
勇者が魔王に止めを刺すまで『彼』は見事に四天王を相手に戦い続けた。そして、仲間たちともに残った四天王を倒し辛く長い戦いは終わりを迎えた。
──後年。
勇者とその仲間たちは魔王討伐の功績により、長く語り継がれるようになる。
そしてその中には当然『彼』の存在もあった。
冠された名は────百芸を極めし者。
人物紹介
──『彼』
百芸を極めし者。
一芸を極める才能がなかったので百の芸を学んでそれを自在に操る術をひたすら極めてきた努力の人。特定分野においては仲間の誰にも勝てないが、実はなんでもありあり総力戦だったら仲間の誰よりも強い。魔物相手にはバランスの良さより一点突破の方が効率的に倒せるが、全方位能力ゆえに『時間稼ぎ』という分野に関しては凄まじい強みを発揮する。
なお、魔王討伐後は僧侶さん(女性)と結婚。
──僧侶(女)
おっぱいが大きい女僧侶。
死んでなければ誰でも完治できるし死にたてホヤホヤなら蘇生すら可能なイカれた回復特化性能の持ち。まぁ、他のメンツも別分野に関しては化け物性能を有しているので悪目立ちはしない。でもおっぱいは大きいのでそこだけよく目立っていた。
ただし、直接戦闘においては紙装甲で誰かに守ってもらわないすぐ死ぬのでよく『彼』に守ってもらっていた。なので、その『彼』の強さを誰よりも知っていた。魔王討伐の最大の功労者は『彼』の追放を阻止した彼女なのかもしれない。
魔王討伐後は『彼』と結婚した。