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隷属の姫と緋色の少年  作者: ここなっと
4/5

離れる心

今回も本編に入るための導入部分です。主人公出てくるのここだった………。

天を焦がす焔ーー灰塵の焔と名付けられた現象が起きてから3年が過ぎた。灰塵の焔は周囲1000kmに衝撃波による破壊を撒き散らし、その外側でもひどい爆音や衝撃をもたらした。世界そのものにその方向を轟かした、と囁く人もいる。当時、フィリスたちがいたのは500km程度離れた位置だったのだ。減衰はされていたが、それでも十分すぎる威力が届いていたのだ。


当然、発生地に何があるのかを調べた。その結果、巨大なクレーターが生じていることしかわからなかった。誰が、なんのためにあの一撃を放ったのか、それはわからずじまいだ。もっとも、紋章術で扱える威力の上限を遥かに越えているので、人が扱えるものでないことは確かだ。つまりあれを撃ったのは魔族である、と誰もが推測した。


しかし、現在ではその推測は完全に否定されてしまった。灰塵の焔、それが生じた日を境に、魔族が完全に姿を消してしまったから。現在あの焔は勇者が魔族を倒すために放った一撃だと推測されている。勇者ならあの威力にも納得がいき、魔族が消えたことも説明がつくからだ。今まで探しても見つからなかった勇者が突然現れ、しかもいきなり魔族すべてを消してしまうことなんてありえない、とフィリスは推測していけれども。


ちなみに歴史上、魔族はもっとも強大な力を持つ魔族を魔王と定め、その魔王を討伐するとその他の魔族もきっぱりと姿を消すとされていた。フィリスはそこにも嘘臭いと感じている。なんだ、そのご都合主義は、と。少なくとも自分が魔族なら魔王が倒されても、いなくなりはしない。不意打ちでもなんでもいいから勇者を討ち、可能であれば自身が覇権を握る。


しかし現実は魔族の姿は消えた。これなら本来魔族は一人しかおらず、それが討たれた、と説明された方が納得する。もっとも、複数の魔族が確実に確認されているのでこの推測も意味をなさない。


「ほんと、わけわかんない」


ぶす、とフィリスが頬杖をついて述べる。


「まあそうだよね。俺も魔族に関してはわからないことだらけだ。紋章術とは違う、魔術と呼ばれる力を共通して持っている、魔族を統べる者を魔王と呼ぶ、くらいかな、間違いないのは」


それに苦笑しながら返すのはユーリス。お互いに魔族に関する推測を重ねているのだ。あまりにもわからないことが多すぎて、ユーリスとしたらいまだに無視しきれない驚異であると考えている。それはフィリスも同じ考えだ。


「それでも今ある情報から推測するしかないんだよね。もう魔族はいないし、実際に戦ったことがある人から話を聞こうにも兄さんたちがわからない人を王宮に入れるな、って突っぱねちゃうし」


やれやれ、とユーリスが肩を竦める。


「脱走する?」


と、フィリスが何気なく口にする。


「さすがに俺がそれをやるのは問題かな?下手したらただじゃすまない」


ユーリスが頬を掻きながら答える。ちなみに”俺は”なのはフィリスが王宮を抜け出す常習犯だからである。当然、王宮内では手に入らない情報を持ってきたりする。ただ、基本は幼い子供なので集められる情報は一般的なことばかり。魔族の情報なんて誰も教えてくれないし、そもそもそんな情報を持っている人がほんの一握りなのだ。


そのフィリスが持ち帰る情報の中には当然、王宮の評価も混じってくる。その評価は、控えめにいっても最低である。フィリスはそのことを現国王と兄であるユーリスだけには話した。他の人に話をしたところで無駄であろうことはすでに十分理解していた。ユーリス以外の他の兄もロクでもないのだ。そんなのがユーリスよりも上位の王位継承権を持っているとなるとフィリスは頭が痛くなる思いだ。それはどうやら現国王とユーリスも同じようだが。そんな評価が当たり前の場所に、顔が知られていrユーリスが現れたらどうなるのか、想像するのは難しくない。


ちなみにフィリスは王位継承権を持ってはいるが、その実態は隠し子扱いである。そのため表に顔を出すことはないし、存在を知られてもいない。そのためちょっといいところのお嬢さん扱いで町に出ることは不可能じゃない。それに仮に襲われても13歳にして天才的な紋章術師であるフィリスは特に苦なく相手を撃退することができた。これはユーリスのような紋章を持たない人からしたら羨ましいばかりである。


「かといって、私一人じゃ集められる情報なんてたかが知れてるんだよね………」


はあ、とフィリスがため息をつく。


「やっぱり外部の人の話を聞くべきだよ」


フィリスがユーリスに同じことを再度言う。


「だから誰にーーいや、待てよ」


無理だ、といいかけて急に思案顔にユーリスはなった。


「そういえば今日、ギルドの有力株が謁見するって聞いたような」


「それだ!」


ユーリスの呟きにフィリスは指を鳴らす(鳴らなかったが)。そのまま飛び出していった。


「あ、おい、確かに話は聞いたけど、俺と同い年だって話だぞ………?」


ユーリスの呟きを聞いたものは誰もいなかった。


フィリスは一気に王の謁見の間にたどり着く。毎日暮らしている王宮だ。中で道に迷うことなんてない。かなり広いのは間違いないけれども。閉ざしている謁見の間をいきなり開けるーーなんて真似はせず、扉に耳をつけ紋章の力で音を集める。音だって空気の振動だ。フィリスにとって操ることは難しくもなんともない。


『貴様、我が国に仕える意思はないというのか!』


聞こえてきたのはそんな怒声である。声の持ち主をフィリスは知っている。いつもフィリス相手にねちねち愚痴をこぼしてくる宰相だ。あまりいい覚えはないので思わず顔をしかめる。


『どこかの国に身を落ち着かせるわけにはいかない」』


それに答えるのは知らない人の声。男女の区別がつかないような、中性的な声である。話し方からしておそらく男性、それもまだ声変わりをしていないくらいじゃないのか、とフィリスは疑問を浮かべる。


しかも落ち着かせるつもりはない、ではなく落ち着かせるわけにはいかない、ってすごい言い方である。


『とにかく俺の用件は先程告げたものだけだ。これ以上のものはない』


どうやら来ている人物の用件はすでに終わってしまっていたらしい。踵を返す音がして、フィリスは慌てて近くにある柱の影に隠れる。


隠れた直後に扉が開く。そしてフィリスの方に歩き始めた。ちなみに王宮の出口は反対である。なんでよ、とフィリスは内心愚痴る。まあ広い王宮だから迷うのは仕方ない。だからといって、謁見の間出た直後に道を間違えるとかさすがに理解できない。


すぐに相手がフィリスの前を通過する。幸い相手は気づかず、通りすぎようとした。


「っ」


小さくフィリスが呻かなければ。突然、灰塵の焔が生じたあの日、あのとき感じていた何かしらの予感が再びフィリスを襲ったのだ。あの一件でしか生じたことのない、謎の予感。親愛とも、拒絶ともつかない、謎の感覚。当然、相手も気づく。気づいて驚いたような表情でフィリスを見る。


かなり若い男性。フィリスとそう歳が離れているようには見えない。遅ければまだ声変わりしていない年齢だろう。顔つきは幼いながらも冷徹さを漂わせている。左目を眼帯で覆ってしまっているので完全な容貌をうかがうことは出来ないが、赤い右目は異様なまでに鋭い。その上、その右目には縦に裂傷がある。そう歳が離れていない人間ができるような目じゃない、とフィリスは直感的に感じる。その上で、生物的本能が警鐘を鳴らす。逃げろ、と。同年齢で代で最高峰の紋章術師と呼ばれるフィリスですら本能的危険を強制的に理解させられる、そんな化け物だと。


「君は………?」


少年が口を開く。フィリスは沸き上がってくる恐怖を圧し殺し、できる限り友好的に挨拶を返す。


「フィリス。あなたは?」


基本的に性を名乗ることを許されていないフィリスはそれだけを名乗る。少年は少し考え、名乗る。


「俺はヤイバ。一応、冒険者をやっている。現在はCランクだ」


一応なんだ、とフィリスは心の中で思う。ちなみにギルドについて言われても、実のところフィリスはそこら辺のシステムを知らない。だからCランクと言われてもピンと来なかった。


「君は”面白いもの”を持っているね」


とヤイバがフィリスの左手に目を向ける。そこに描かれている紋章を指しているのは明白だ。ちなみにヤイバは両手とも抜き手の手袋をしていて紋章は見えない。もっとも、持っていないのをごまかしている可能性もあるのだが。


「これ、知ってるの!?」


思わずフィリスが食いつく。いままでなんの情報もなかった謎の紋章。それを知っているかのようにヤイバは話す。だから聞かずにはいられなかった。


「冒険家としたら紋章は隠すものだ。相手に余計な情報を渡してしまうからな。珍しいものならなおさら」


ヤイバはその質問には答えず、忠告をする。答えるつもりはない、ということだ。


「俺としたらこの国は好きになれそうにない。民がこの干魃で実りが少なく苦しんでるってのに、自分達の食いぶちが減るからってより一層税を引き上げるなんてな」


それからなぜかそんなことを言う。が、フィリスにはその情報は驚きだった。干魃が起きているのは知っている。だからこそ、領主や国王の手腕が問われるのに、ここで税を上げる。あまりにも暴挙過ぎる。話の真偽はともかくとして、無視できるないようではない。


「まだ国王はましだが、その周辺が腐りきっている。あれじゃ、どんな賢王でも手腕を奮えないだろう」


それだけ言うと、ヤイバはじゃあな、王女様、と足早に出口とは反対方向に進む。フィリスはそれを注意することはできなかった。たった数言言葉を交わしただけで、フィリスの余裕は完全に失われていた。


紋章について。干魃からの増税、最後の王女様の一言。最初の二つはまだいい。調べればどうにかなるはずだから。だが、完全に情報が握りつぶされている王女に関する情報を持っている。思わずフィリスは駆け出し、まだ謁見の間に残っているであろう父の元を訪れた。

ヒロインの成長が早い?導入なので………。本編では17として活動します

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