なんでなんで姫
前回作品からだいぶ時間開けたんでやる気なくなりました(笑)
新作を思い付いたんでゆるゆると更新していきます。
「ねえ、なんで空は青いの?」
まだ5歳ほどだろう、少女が近くにいる白く長い髭を蓄えた壮年の男性に尋ねる。
「どうしてだろうね」
男性は苦笑いをしながら答えをはぐらかす。答えを知らないのか、それとも知っていて教えないのか、その様子からは予想することができない。もっとも、実際に空が青い理由を説明するとなると科学的根拠が必要になる。それを幼い少女に説明したところで理解できるとは到底思えない。
「それじゃわかんないよ」
少女が頬を膨らます。そんな少女の様子に男性はぽんぽんと頭を優しく叩く。よく見れば、少女とその男性は似ている。親子であることが伺えた。
「わからないことはたくさんあるのだよ。少しずつ、ゆっくりと、着実に知っていけばよい」
「いま知りたい!」
優しい男性の声に少女は不満の声をあげる。
「陛下!」
男性が少女の不満に口を開こうとしたら、別のところから声がかけられる。
「………何事だ?」
すると男性は先程の優しい声とはうって代わり、威厳のある声を響かせる。顔つきも優しいものから威厳のあるものへと一瞬で切り替わる。
「イティケ公爵が来城なされました。陛下にお話があるそうです」
「緊急性のあるものか?」
「はい。なんでも公爵領に魔族が現れたらしいです。イティケ公爵は命辛々逃げおおせたようです。領地を取り戻すため、陛下にご助力を願いたい、とのことです」
それを聞いた男性の顔がより一層厳しいものになる。
「あいわかった。すぐに向かう」
すぐに男性は頷き、もう一度少女の頭を撫でてから歩き始める。
「フィー、少々用事ができてしまった。また後での」
「おとーさん?」
それだけを言い残し、男性は足早にその場から消える。男性に話しかけていた兵士は男性の姿が完全に姿がきえるまでその場で跪いていたが、男性の姿が完全に消えると立ち上がる。そして、軽蔑の色を浮かべた目を少女に向けた。
「まったく、なんで陛下は『これ』のことばかり気にかけてるのかねえ」
それは決して人を見る目ではなかった。
「フィーはフィーだよ!」
その視線に怯えることなく、少女ーーフィーと呼ばれている少女は言い返す。
「どーでもいーわ。所詮『不純物』なんだ。とっとと城から失せろ」
吐き捨てるように兵士は言うと、男性のあとを追いかける。
「フィーは『ふじゅんぶつ』じゃないもん………」
少女が小さく呟く。その声は誰にも聞こえることはなかった。
その世界はとても危険な世界だった。世界中に魔物、魔族と呼ばれる人類にとっての的がいた。彼らは見境なく人を遅い、蹂躙した。それでも人は負けなかった。
なぜなら人類には希望があったから。”勇者”、と呼ばれる存在がいたから。眉唾だと思うかもしれない。それでも、確かに勇者は存在した。勇者は一人で魔族を退け、人類を救った。
だが、魔族もそれに負けなかった。一度、表舞台から姿を消したが、何百年の時を経て、彼らはまた地へと舞い降りた。舞い降りて、恐怖を、絶望を振り撒いた。当然、以前魔族を退けた勇者はいなかった。
だが、同じ勇者はいなくても別の勇者は現れた。再び現れた魔族に誘われたかのように、ふらりと現れた勇者はまたもや魔族を退け、消えた。
それでも魔族は退けられただけ。滅ぶには至らず、何度も現れては人類に恐怖と絶望を振り撒き、その度に勇者は現れ、魔族を退けた。何度も、何度も。
やがて、人はそれになれた。何度も繰り返してきた魔族の蹂躙、勇者の輝き。直接それを見ることは叶わなくても、歴史に何度もこの二つの存在は刻まれた。そしていま、再び魔族は現れた。300年の時を経て、15年前に姿を表した。人は当然恐怖し、勇者が現れるのを待った。
だが、今回に限り勇者は現れなかった。勇者を語るものは現れても、それは本物足り得なかった。
それでも人々は楽観視した。いずれ勇者は現れる。現れて魔族を退ける、と。
フィリス=アイン=セトラティア。通称フィーと呼ばれるその少女はそんな、勇者なき魔族の時代に生まれた。セトラティア帝国、その第四皇女として生まれた少女は、ただただ好奇心が強かった。
ーーなぜ空は青いのか。
ーーなぜ鳥は空を飛べるのか。
ーーなぜ植物は鳴かないのか。
ーーなぜ魔族は人を襲うのか。
ーーなぜ勇者は現れないのか。
興味を持ったこと、わからないことはとにかく聞いた。誰にでも聞いた。それに答えてくれたのは、ただ父一人だけ。それ以外は誰も答えようとするどころか、フィリスをいないものとして扱った。フィリスは王の血と共に、どこぞと知れないモノの血をひいていたから。決闘がすべてだと言われる国において、半分高貴ではない血が流れている、というのは欠点でしかなかった。どんなに賢くても、どんなに優れていても、ただ血が汚い、というだけで不当に扱われた。虐待などはなかったが、恵まれてもいなかった。
それゆえに疑問を持つ。本当に正しいことはなにか。間違っているのはなにか、と。ただ知ることですら間違いだと言うものもいれば、知らぬことは罪だと言うものもいる。
フィリスは矛盾を感じた。矛盾、という言葉は知らなくとも、何かが噛み合っていない、ずれている、ということは理解できた。その上で自分なりの答えを出した。
ーー知りたいことを知ればいい、と。
いろいろわからないことや公開していない設定が多々あります。しばらくは幼少時代が続きますが、主な年代はフィリスが17の時に始まります。