境界魔道戦争 Episode1「出会い」其の六
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一通りの話を聞いた俺は、妙に納得してしまった。確かに、無銘にそれほどの価値があるのならルナの態度が険しいものになるのも合点がいく。
もし、俺がルナではなく違う危険な人物と最初に接触していたら、何も知らない俺は最悪殺される。詰まるところ、
「カモがネギをしょってきたようなもの...か」
「君は理解が早くて助かるよ。こちらも余分な説明をしなくてもいい」
よくよく考えると、俺は非常に危険な状態にいたのだ。もしかするとということを考えてしまうと、背中に嫌な汗が流れてくる。
「そこでなんだが、新藤工君。一つ提案がある」
「提案、ですか…?」
「あぁ、君にとっても有益な提案だ。どうだろう?」
そう言った男性は片目だけ開いて、俺の返事を待つ。
「内容を聞かない限り、決断することはできません」
「ほう、君はやはり用心深いね。うん。非常に君が気に入った」
そう言って男性は、一人満足げに頷いた。
「あ、あの...」
「ん?あぁ、提案の内容だったね。すまないな、また話が逸れてしまった」
男性は俺の言葉を遮ると、姿勢を正し、提案の内容の説明を始める。その姿は凛としていて、畏れすらある。それほどまでに威厳がある話し方だった。
「我々は君を保護し安全を保障する。場合によれば、君を元の世界に返させていただこう。その代わりといってはなんだが、君の力を、我が家、及び我がギルドに助力を尽くしてほしい。勿論、無理強いはしない。だが、君にあてがあるとも思えない。よく考えて欲しい」
俺の安全とその力の交換条件か…。
今の俺が断ることは、あまり良い選択ではないだろう。だが、この提案には一つ重要な事項が抜けている。
「一つ条件があります」
「ほう、聞こうじゃないか」
「安全の保障、それは俺だけでなく、この刀、無銘も含まれることです」
俺の安全を保障するから、刀を差し出せ。などと言われたら困る。仮にも俺はこの刀の主だ。だったらその最低限のことはしなければならない。俺はそう思い条件を追加した。
「くく、あはは、はははは!!」
「ちょっと、お父様!?」
俺の条件を聞いた男性は高らかに笑い始めて、ルナがそれを諌める。
「いや、すまないね。私の言う君の安全の保障はその『黒キ武器』も含まれていたのだが…。言葉足らずで申し訳ない」
「はぁ、ありがとうございます」
それのどこに笑う要素があるのだろうか…。全く分からない。
「その条件を加えるだけで、君は我々に従うのかね?」
「従いはしません。先ほどご自身が仰っていたように、俺たちはあなた達に助力、という形を取らさせていただきます。なので、あくまで対等の関係という形になります」
俺が必要な事項を伝えると、男性は顎に手を置き、ふむ。と唸ったが、その口角が上がっているのが隠しきれていなかった。
「よかろう。我々はその条件を飲む。此処に口頭ではあるが、約束をさせていただく」
そう言った男性は椅子から立ち上がり、俺の前まで歩いてくる。俺の前で動作を止めた男性は、そのまま、静かに約束の内容を反芻する。
「これより、我々『アイルバーン家』及びギルド『聖光騎士団』の長、ヒュエゴ=アイルバーンは君子、新藤工とその武器、無銘の安全、及び我々との対等な関係を保障する。又、新藤工を『アイルバーン家』の使用人、『聖光騎士団』への加入を承認する」
「________はい?」
「________え?」
使用人?ギルドへの加入?どういう事ですかぁ!?
えーと、俺は確かに助力するとは言った。だが、なぜこうなった。ただ一つ言いたいことがあるので、ルナと一緒に叫んでみよう。せーの、
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!???」」
こうして俺はアイルバーン家の使用人に、ギルドの加入が決まってしまった。