境界魔道戦争 Episode1「出会い」其の三
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「覚悟していただきます!!」
「え!?ちょ、まっ!!」
少女は腰から提げた剣を抜き、俺に斬りかかってくる。
「ま、待てって!!」
「問答無_____」
「そこまでじゃ!!」
少女が斬りかかるために振り上げた剣が、聞き覚えのある、澄み渡る声が制す。少女だけでなく、俺もピクッっと動きを止める。
聞き覚えのある声、それは今まで聞いていた、脳に響くような声ではなく、明らかに俺の耳を通して聞こえてきた。
「小娘、武器を収めよ」
「貴女は....」
「収めよ」
「ぐっ」
少女は聞こえた声の主を見て、喋ろうとするが、覇気を含んだ声に圧されて、剣を引っ込める。
俺は声のした方を振り向く。そこには_____
「童、お主の力はしかと見せてもらった。まだ物足りないが…、ワシの主に相応しい力であった」
少女、というより幼女だった。いや何というか少女と幼女の境界にいるというか、容姿は完全に幼女なのだが、佇まいが完全に大人びていていた。
髪は黒く、肩まで伸びている。服装は黒を基調とした和服風で、肩を出し、ミニスカートみたいになっている。
「貴女は一体、何者ですか…?」
「ワシか?ワシの名前は無い。じゃが、人からはこう呼ばれておる。『黒キ武器』と」
「なっ!!」
険しい顔になった少女は幼女(見た目)に正体を問う。幼女は口角を上げ、勿体ぶるように、名乗る。
黒キ武器?何だそれ?少女は酷く驚いているようだったけど。
「本当に『黒キ武器』なんですか…?」
「何じゃ、疑うのか?小娘」
「疑うも何も_____」
そう言って少女は幼女と俺を交互に見やる。
俺は訳もわからず、幼女を見る。
「そうか、では証明してみよう。____童!こちらへ来るのじゃ」
「俺?」
「はようせんか!」
少女に証明するのに何故俺なのだろう?と思ったが、幼女の有無を言わせぬ圧にしぶしぶ、幼女に向かって歩き出す。
「右手を出せ」
幼女は俺が目の前に立った瞬間に、ただそれだけを言った。俺は言われるがまま右手を差し出す。
その手には幼女の手が乗せられる。
「これからワシが言うことを復唱せよ」
「わ、分かった」
そう言うと幼女は目を閉じる。
『これより契約の義を執り行う』
『我、新藤工。汝、無銘を我が刃とす』
『汝、黒キ刃を我が為にふるえ』
『ここに、我が名と汝の名を以て、契約の義を終える』
俺は幼女の言ったことを一言一句逃さず、復唱する。_____刹那、俺と幼女の足元に黒い魔法陣が展開され、身体を風が吹き付ける。
魔法陣は光り輝き、俺の視界を奪ってしまう。
俺の手に残っていた人肌の温もりが消え、冷たい無機物のような感触が手に収まる。
「あ____」
「これは....」
視界に自由が戻り、俺は手の中に収まっている何かを見下ろす。
それは刀だった。柄も刃も全てが真っ黒に染まっている、そんな刀だった。
『仮ではあるがこれがワシの姿じゃ。ご主人』
黒い刀から先ほどの幼女の声が聞こえてくる。ってそんなことより____
「ご主人?」
今、俺の耳がおかしくなければそう聞こえたはずなのだが....。
『?何がおかしい?ワシはご主人の刀じゃ。なら、ご主人をご主人と呼んで何がおかしい?』
「どういう事だよ…?」
『まぁ、今は分からなくて良い。取り敢えず、ワシのことはこれから無銘と呼ぶのじゃ』
「は、はぁ...」
なんていうか無理矢理押し通された感じがするけど、今更言ったってもうどうしようもないんだろうな。
『して小娘よ、これでワシが黒キ武器だと理解したか?』
「.....はい、どうやら本当にそのようですね。とんだ失礼を致しました。申し訳ございません」
「え?」
何これ、どうなってんの?急に少女の態度が緩和したというか、一気に納得してくれたというか...。
「新藤工さん、でよろしいですね」
「え、あ、はい」
名前言ったけな?と思ったが、そういえばさっきの『契約の義』だっけか、それで自分の名前言ってたな。
「私はルナ=アイルバーンと言います。貴方はこの世界について何も知らないご様子。屋敷まで案内させていただきます。....よろしいですか?」
よろしいですか?と聞いている割には、俺に拒否権は無さそうだな。まぁ、こうしているよりも情報も手に入るし、連れて行ってもらうに越したことはないので、俺は少女____ルナについて行くことにした。