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境界魔道戦争   作者: ザックス
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境界魔道戦争 Episode1「出会い」其の一


-1-


「はっ、はっ、はっ、はっ」


まだ、朝日が完全に昇りきっていない薄暗い空の下で、リズム良くコンクリートの地面を蹴って走っている。鳥のさえずりが聞こえ静かな風が頬を撫でる。

そうして目的の場所に着いて足を止める。


「もうこんな時間か」


まだ春休みの感覚が抜けきっていないのだろう。時間が経つのが早く感じてしまう。腕時計を覗きみると、時刻は午前5時を指していた。

これから戻って筋トレをして、シャワーを浴びて_____。


「間に合いそうだな」


今日から学校が始まってしまう。初日から遅刻はさすがに格好がつかない。鍛錬にかける時間が減ってしまうのは残念だが、背に腹はかえられない。

俺は家までの道のりを先程のランニングと同じリズムで走っていった。



「_____47、48、49、50」


腕立て伏せ、上体起こし、スクワットをそれぞれ50回ずつ行って、ストレッチに入る。

広い道場に俺一人だけいる。とても静かで、不気味でもある。

この道場は死んだ祖父の道場だ。

祖父は武道家だった。剣道、柔道、空手、弓道、薙刀、合気道など様々なものに精通していた人で、それぞれ道場を持てるくらいの実力を有していた。

両親はというと、二人共警察官で、本庁の方で働いている。

つまり今はこのバカでかい家に俺は一人で暮らしている。

ストレッチも終え、シャワーを浴びるために道場を出ようとする。が、それは叶わなかった。


「あれ...?」


来る時はすんなり入れた、引き戸がピクリともしない。なにか引っかかったのか?そう思ったが、それはすぐに否定される。なぜなら、引っかかっているとしたら、少しでも、戸は浮くはずである。だがこの引き戸はそれすらも起こりえない。


「______!!」


突如背中に何かの気配を感じ、慌てて振り返る。そこのあったのは、見たことのない、一振りの刀だった。何故か、自分を取り囲む空気は重く、一つ一つの動作に力が働いているように感じる。それほどまでに強力な違和感を放つ刀だった。

だが____。何故か俺の足は止まることなく、刀に向いていく。今、あの刀を取ってしまうと、何か良からぬことが起きてしまうのでは?と思ったが、自分の意志とは無関係に働いているこの身体には意味をなさない。

遂に、俺は刀を手に取り、拾い上げる。

ずっしりと、刀自体の重さが直に伝わってくる。

何故、こんなとこに刀が...。そんな疑問が頭をよぎったがその疑問はものの数秒で驚きに上書きされる。


『ふむ、ワシを持てるのか、童よ』

「___________え?」


ふと、少女のような幼い声色で凛と透き通った声が聞こえてくる。

........は?

待て、今どっから声が聞こえた?

辺りを見回すが誰もいない。と、なると.....。


「空耳か」


そうだ。そうに違いない。そうでなきゃ、幻聴だ。やっぱ俺疲れてんだな。練習メニュー変え________。


『何が空耳だ。聞こえておるだろう』

「............」


また聞こえた。本格的にやばいのでは?俺。何か聞き間違えじゃなかったら、この刀から聞こえたんだけど。ま、まさか、ね。そんなことあるわけ。


『童、お主の目の前にある刀じゃよ』

「............」


よし、落ち着こう。まずは深呼吸だ。吸って〜吐いて〜。よし、幾分か落ち着いたので、一言言わせてもらおう。


「刀が喋ったーー!!!!!??」


そう叫んだ俺は、刀を落としそうになり、慌てて持ち直すが、刀は特に気にするようなこともなく変わらないトーンで話しかけてくる。


『何をそんなに驚く?刀が喋るなんぞ大して珍しくもないだろう』


いや、珍しいどころか初めて聞きました。


「いや、初耳だけど」

『そうか、ならば認識を改めるが良い。刀は喋るとな』


んな無茶な。この刀、やけに高圧的だな。


『しかし、童よ、お主魔力がないように思えるが....。一体何処の者じゃ?』

「は?魔力?」


何を言っているんだこの刀は、いやそもそも刀が喋っていること自体わけわかんねぇってのに。

俺のことなぞどうでもいいような感じで、刀は呟くように喋る。


『魔力を知らない?さてはお主、異界人か』

「は?」


もう訳が分からない。帰ろう。そう思って、刀を置いて、入口まで戻る。再度引き戸に手をかけるも動くことは無い。


『無駄じゃよ』


背中から先程の刀の声がする。振り向くと、横にしておいてあった筈の刀が垂直に立っていた。

俺はそのことに驚きつつも、刀が言った『無駄』という意味を問い掛ける。


「無駄とはどういうことだ。お前がやったのか?」

『無駄とはそのままの意味じゃよ。その扉は開かない。何故なら、此処はお主の潜在意識そのもの

なんじゃからな』


刀は二つ目の問いには答えずに一つ目の問いに答える。


「俺が戻る方法は?」

『ない』


きっぱり言いやがったよこいつ。


『よいか、この空間は、お主の世界と、べつの世界の中間にある存在、故にお主は世界間の迷子なのじゃよ』

「世界間の迷子?」

『あぁ、そうじゃ。お主は、お主の世界から別の世界への転移中にこの空間に迷い込んだ、というわけじゃ。この空間は一方通行。往く者は追わず、去るものは全力で拒む。それがこの空間じゃ』


頭が、思考が追いつかない。刀が言ってる事の意味を理解できない。別の世界?迷子?この空間?何が一体どうなってるんだよ...。


「俺は、俺の世界に戻ることは叶わないんだな」

『あぁ、じゃが、別の世界に往く方法はある』


だろうな。さっき刀は、一方通行だと言った。ならば、別の世界へ往く方法はある。ここにいつまで仕方ない。

俺は覚悟を決めて、刀に向き直る。


「教えてくれ、その方法とやらを」

『....よかろう。それでは、目を閉じよ』


俺は言われるがまま、目を閉じる。


「とじたぞ」

『次に、自らの名を言え』

「俺は、新藤工(しんどうたくみ)


そう言うと、突如身体が浮いているような気分になる。風が背中から吹き付けて、気持ちがい______

ドシャ!!

そんな音を出しながら、俺の背中に衝撃が走る。


「いってーー!!」


あまりの痛さに思わず目を開けると、そこには...。


「す、すげぇ...」


街中で見ることが少なくなった、緑1面。ファンタジーチックな建物、車なんてのも走っていない。

____そうか、此処が、


「異世界、なのか...?」

『ようこそ、異界の地〈リシュテルノア〉へ』


そう言った刀はどこか楽しげだった。


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