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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

私の主は王国の皇帝

作者: 紫ヶ丘

途中、視点変更あり。

ざまぁ要素薄め。


エーデル王国には同じ日に産まれた二人の王子がいる。

王妃の子であるノーブル、側妃の子であるナビール。

同い年ということもあり二人は何かにつけて比べられた。

結果、圧倒的な差でナビールに軍配が上がった。

顔だけは二人とも国王に似ているためまるで双子のようだが中身は天と地ほどの差があるとプライドの高い王妃ですら認めるほどナビールは優秀だった。

このままいけば確実にナビールが王太子となりノーブルが側で支える事になっただろう。

誰もがそうすることがこの国にとって最適だと考えていた。

しかしそうはならなかった。

十歳になり王位継承権を得たナビールがあっさりとその権利を放棄したのだ。

王国内は揺れた。

激震と言っていいほどの衝撃に襲われた。

国王は努めて冷静にナビールに尋ねた。


『どうして王位継承権を放棄したのだ?お前こそ次の国王に相応しい。もう一度よく考えてみなさい』


ナビールは答えた。


『面倒臭いからヤダ』


そう、ナビールは優秀であったが重大な問題があった。

一つ、かなりの面倒くさがり屋であること。

二つ、かなりの気分屋であること。

三つ、多方面において無関心であること。


なおも説得を続ける国王に対しナビールは言った。


『私を国王にしようとするならこの国消すよ?』


評定の間が凍った。

文字通り床一面、大臣達の膝元まで氷に覆われた。

流石に王族のいる雛壇までは凍らなかったがそれはナビールの胸三寸。

この国にナビールを止められるほどの実力者はおらず国王や実母であっても止めることは出来ない。

またナビールならこの国一つ、いや、大陸一つ消すくらい造作もない事だと誰もがわかっていた。

その結果、全会一致でノーブルが王太子になった。





それから八年。

ナビールは不機嫌だった。

調査報告書の結果が目に余る内容だったのだ。


「──兄上は何をしているのか」


面倒くさいとありありと顔に浮かべながらも立ち上がる。

同じ日のほぼ同時刻に産まれた二人の王子は厳密に言えばナビールの方が兄なのだが王妃とナビール三歳が共謀してノーブルが兄だと陛下に認めさせた。

私は知っている。

ナビールが兄とは譲るもの守るものという内容の本を読んだ結果起きた茶番だと。

面倒くさいから兄は嫌。

つまりはそういう事なのだ。

ナビールは優秀だ。

兄のノーブルが今日卒業する学園に十歳で入学し半年で卒業資格をもらって卒業した。

入学して間もなく学園生活が面倒くさいと悟り早々に普通を止めて実力を遺憾なく発揮したのだ。

全学年のテストで満点をとり、内容が身に付いているかのテストで特進科の生徒相手に授業を行い教師よりも分かりやすいとの評価を得て満場一致で大手を振って卒業したのだ。

すり寄って甘い汁を吸おうとした輩もこれには驚いた。

繋がりを持つ暇もなく金の卵は卒業してしまったのだから。

ナビールがこれから向かう先、それは八年前に卒業した学舎だ。

彼が動くとき、それはいつも自分のため。

恐らく恐怖が強襲するだろう学園にそっと手を合わせた。





今日は学園の卒業式だ。

卒業生を主役に華やかなパーティーが開かれるのはこの学園の伝統である。


「ノーブルさまぁ!このドレスぅ私に似合ってますかぁ?」


ふわりとドレスの裾を翻してうふふと可愛らしく微笑む私の天使。


「ああ、可憐なそなたにとてもよく似合っている」


「わぁっ!エミリ嬉しぃ~!このドレス、ノーブルさまに誉めて欲しくて着てきたんですぅ~!」


「ありがとう嬉しいよ。──一曲どうかな?」


「もちろんですぅ!あ、でもぉ、エミリちょっと怖くてぇ~」


「怖い?」


「アーテルさまがぁ、またエミリに意地悪してきたらって思うとエミリ泣いちゃうかもぉ」


アーテル・ワイス侯爵令嬢。

私の婚約者であり学園一の才女だ。

そういえば何故私は彼女のエスコートをしていないのだろう?

大切な婚約者を放り出して何故エミリー嬢と話しているのだ?


「ノーブルさまぁ!この髪飾りどうですかぁ?私の瞳に合わせてみたんですぅ!」


瞳。

そう、エミリーの瞳はとても美しい。

私は何を考えていたんだろう?


「エミリー、安心してくれ。そなたは私が守る。──ダンスの前にけりをつけよう」


「ノーブルさまぁ!エミリ嬉しい!みんなもぉ一緒に付いてきてくれるぅ?」


「ええ、もちろん」


「俺が守ってやるぜ」


「証人もいますし大丈夫ですよ」


「姉が迷惑かけてすみません」


将来私の側近になる者達が頼もしく答えてくれる。

多少エミリーと仲が良すぎるきらいがあるがギスギスするよりも良いだろう。


アーテルは直ぐに見つかった。

可憐なエミリーと真逆の美しい女性。

厳しい王太子妃教育だけでなく王妃教育も始まっていると聞く。

──私はどうして彼女をエスコートしていないのだろう?


「ノーブルさまぁ!どうしたんですかぁ?」


おかしい。

こんなにも愛らしいエミリーを鬱陶しく思うなんて。

振り払いそうになった腕を誤魔化すように下げる。


「──アーテル・ワイス侯爵令嬢、」


言いたくない。

私はどうなっている?

何を言おうとしているのか?


「ノーブルさまぁ!はやくぅ!」


吸い込まれそうな魅力的な瞳。

そうだ、私はアーテルに婚約破棄を──


「──兄上?」


パキンッ。

世界が割れた音がした。





「これはどういう状況ですか?」


ナビールがノーブルとアーテルの中間点に立ち双方に尋ねた。

既に面倒くさそうだ。

最後まで持つのだろうか?


「ナビールさまぁ!エミリぃ、アーテルさまにいじめられでぎゅあ!?」


馴れ馴れしく触れようとした女が一人防御魔法に弾かれて吹っ飛んだ。

ナビールの服には虫除けというには少々過激な魔法が掛けられている事は公然の秘密である。

知らない方が悪い。

触る方が悪い。

満場一致であの女が悪い。


「──兄上?前々から申し上げておりますよね?私に迷惑をかけるなと。──お忘れですか?」


うっそりと笑うナビールと顔色を無くしたノーブル。

俯きかけたノーブルの顎をすくうように目線を合わせるナビールの目は笑っていない。


「いや、覚えている」


声が震えなかった点は評価できる。

ナビールにも合格点をもらえたようだ。


「ではご説明いただけますか?兄上は婚約者のいる身にも関わらずあの女をエスコートして現れた。それが婚約者にどう思われるか、周りからどういう印象を持たれるか、兄上ならばお分かりですよね?」


「──とても、軽率だった」


「そうですね、軽率でした。──もし仮に、万が一にも無いでしょうが、兄上があの女に唆されて婚約を破棄などしていたら──わかりますよね?」


「ああ。このような場で問題行動を起こしたこと、多くの者に迷惑を与えたことを重く見て──廃嫡も、あり得た」


周囲がざわつく。

何を驚くことがある?

王家が結んだ婚約を王子といえど言葉一つで破棄できるはずがないしそんな事をしようものなら反逆罪で裁かれかねない。

そうなればノーブルの廃嫡は確実。

だからナビールは動いた。


「そうです。廃嫡もあり得たんですよ。──兄上は王太子。そうでなければ困るんです、私が。──兄上、結婚を控えて感傷的になっているようですが周りにそれを見せるのは如何かと思いますよ?心優しい兄上ならばお分かりですよね?万が一にでも兄上が廃嫡されたらこの国がどうなるか。──滅ぼしますよ?国も民も周辺国も残らず全て消しさります。私はね、馴れ馴れしくすり寄ってくる輩が面倒なんです、鬱陶しいんです、そもそもこの国なんてどうでもいいんです。──この気持ちお分かりいただけますか?」


「ああ、痛いほどわかる」


「それは良かった。流石は兄上です。遅くなりましたが兄上、卒業おめでとうございます。さて、では本題に入りましょうか。──学園長!」


にこやかな表情を一転させ叱責するように壇上で狼狽えていた学園長を呼び出す。


「はひっ!?──は、はい!!何でございましょう?」


転げ落ちるようにナビールの前に跪く。


「──この度の責任、どう取るつもりだ?」


「──せ、責任でございますか?」


「ほう、学園に責任がないと?そう言いたいのか?」


「も、申し訳ございません!な、何分疎いものでどのような責任でございましょうか?」


「──」


キレた。

いや、半ギレか。

学園長の真下に金色の魔法陣が浮かび上がる。

真っ青に固まる学園長。

裁きの陣。

この範囲内にいる者は偽りを述べる事は出来ない。

もし偽れば組み込まれた魔法により即座に明らかになる。

公的な場合は青い光を放つ規定の陣を用いるが今回はナビール印の特別製のため何が起こるか分からない。

偽れば命を落とす可能性もあり得る。

学園長の全身から滝のような汗が吹き出した。

なるほど自覚はあるようだ。


「──兄上にまとわりつく魅了魔法の使い手を放置し、実に学園の五分の一に当たる生徒が大なり小なりその影響を受けて精神に負担がかかっているにも関わらず何の処置もせず、何の対策もせず、何の報告もしなかった事について学園長はどのようにお考えかと聞いている」


「……魅了魔法?」


ノーブルが驚いたように呟く。


「ええ、兄上はもちろん周囲の側近候補達を筆頭に主に男子生徒がかかっているようです。──ご安心を。既に解呪師だけでなく医師や薬師の手配も済ませております。さて、学園長、お答えを」


「──も、申し訳ございませんでした!どうか、どうかこの通りでございます!お許しください!」


床に頭を擦り付け悲痛な様子で謝罪をしているが不合格。

そんなもので誤魔化せるわけない。

むしろ何故それで誤魔化せると思ったのか。

ナビールの苛立ちを表すように金色の輝きが増す。

ひぃっ!?と聞き苦しい声がするが自業自得だ。


「──答える気になったか?」


「わ、私は──その、申し訳ございません!本当に、本当に申し訳なく思っております!ですから、どうか、どうかご容赦下さいますようお願い申し上げます!」


「兄上、先ほど捕らえられた女の名は?」


「エミリー・コット子爵令嬢だ」


あの女は吹っ飛ばされてそのまま意識を失ったので脅威のない今のうちにと不敬罪その他諸々の容疑で衛兵に運び出されている。

行き先は牢獄だ。

更に子爵令嬢と名乗っているようだが正確に言えば子爵家を乗っ取った男爵家の令嬢。

国としては子爵位を認めていないのでコット家は男爵位のままだ。

魅了魔法が禁術と呼ばれる所以は対策が取りにくく耐性が付きにくく何より気付きにくいため。

とはいえ産まれ持ったもの以外はそれほどの脅威はない。

少し魅力的に見えるとか多少求婚者が増えるくらいだ。

魅了魔法持ちだと判明したら悪影響が出ない程度に封じられる事が義務づけられている。


「兄上、ありがとうございます。──学園長、これが最後だ。──エミリー・コット令嬢が魅了魔法持ちだと知っていたか否か?」


もしナビールが子爵という爵位を付けて呼んでいたら自信満々に知らなかったと答えただろう。

ただの令嬢と言った瞬間ぎりりと歯軋りをしたのがその証拠だ。

美しい魔法陣の上で醜く震える私欲に肥えた男がすがるように周りを見渡すが誰も目を合わせない。

一気に老け込んだような土気色の顔。

わなわなと震える口から漏れるのはうめき声のみ。

終わったな。


「──では判決を」


魔法陣が光輝く。

学園長の頭上に映し出される二人の人物。



『──よいか?お前の役目はただ一つ。ノーブル殿下を陥落しアーテル嬢との婚約を破棄させることだ。なにその魅了魔法を使えば簡単なことだ。上手くいけば私の養女に迎えよう。そうすれば爵位の問題もなくなりお前は王妃になれる』


『でもぉ、エミリたっくさんのお友達が欲しいの。ノーブル殿下は確かにいい男だけど彼一人だけじゃ物足りないの!だってエミリ素敵な男性にちやほやされたいんだもん!』


『ならば上手くやるんだな。──そうだ、どうせなら周りの側近達も陥落させるといい。あいつらは金を持っているから好きなだけ贅沢が出来る。お前の魅了魔法があれば例え誰の子を孕んだとしても殿下の子と言い張ることも可能だ』


『うふふ、学園長ったら悪なんだからぁ。でもぉ、エミリお金大好きだから頑張っちゃう!』


『ふっふっふ、ところでエミリよ、今夜空いてるのか?』


『もっちろん!たっぷり遊んであ・げ・る!』


『──私の子が国王か。それもいいな』


『もう~学園長ったら気が早いんだからぁ!うふふ』



これは酷い。

教育者にあるまじき男だ。


「何か言い残すことは?」


「わた、わたし、わたしは──その、そのですね」


なおも存在し続ける魔法陣を消そうとしているのか両手で床を擦りながら時間稼ぎする学園長。

例え魔法を撃ち込んでも消えないのに無駄な足掻きだ。


「どちらにせよその首が落ちるのは確実なのだから全生徒の前で心からの謝罪と共に散ればいいのに。手間が省ける」


「ナビール、それでは駄目だ。どんな者でも等しく裁きを受ける権利があり、罪を償う義務がある。この場で首を落としても学園長に利があるだけで真実は明らかにならない。ナビール、兄としてそなたに頼みがある。学園長が自死しないよう魔法をかけてくれ。そなたにかけた手間も含めこの者に償わせる」


「お、お待ちください!わ、私は!」


「兄上、ご安心を。既に自死させないように術はかけております。それにこの魔法陣は命を奪うものではなく拷問のためのものです。偽れば通常の百倍の痛みと共に指が一本ずつ切り落とされるだけです。なに、途中で気絶しないよう術式に組み込んでありますので多少偽っても少々貧血になるだけですよ。兄上を貶めようとしたこの者に生き地獄を味わせたかったのですが時間切れですね。──まぁこの魔法陣は真実が明らかにならない限り消えないので裁判にもお役に立てるでしょう」


「ひぃっ!?」


空気を読んだ衛兵が学園長を連れていく。

なるほど確かに消えていない。

他にも数人教師や生徒が連行されたようだ。

恐らく共犯者だろう。


「──さて、兄上?仕切り直しをお願いします」


「ああ、わかった」


ナビールの言葉を受けノーブルがアーテルに近づく。


「アーテル嬢、本当に申し訳なかった。婚約者であるそなたを置いて別の女性をエスコートしたことを心から謝罪する。──どうか許してもらえないだろうか?」


「──私と踊っていただけますか?」


「もちろん、何曲でも喜んで」


「ありがとうございます。──全て、許しますわ」


「アーテル嬢、ありがとう。これからもよろしく頼む」


「はい、喜んで」


空気を読んだ演奏者達の音楽にのり二人は踊り出す。

憂いを晴らすかのような息の合った美しいダンスにひかれるように周りも踊り始める。

卒業パーティーがようやく始まった。

会場の片隅に解呪師や医師や薬師の相談所が出来ている。

ノーブルの側近候補達が診察を受けているようだ。

それを見てちらほら調べてもらう生徒が増え出した。

後日改めて全生徒に正式な診察や治療が行われるだろうがこの相談所で少しでも早く不安を取り除く手助けになればいいとの考えだろう。

ナビールは人の心が分からないわけではない。

ただ基本的にどうでもいいだけだ。

ナビールに連れられてテラスに出る。


「──久しぶりに話して疲れた」


「ああ、お疲れ様」


「これで兄上の廃嫡は無くなったな」


「そうだな」


「──あれだけ脅せば私の見合い話も無くなるだろう」


「どうかな」


「無くなるさ。来ても全部断るし」


「──結婚する気はないのか?」


「ない。面倒くさいし」


「そんな事だといつまで経っても独り身だぞ?」


「構わないさ。──なぁ、久しぶりに一曲踊ろうぜ?」


「ダンスは苦手だ」


「大丈夫、すぐ終わるさ」


人気のないテラスに二人。

小さく聞こえる曲に合わせてくるくる回る。

ダンスとは呼べない拙い踊り。


私はホムンクルス。

この世に存在し得ない唯一の個体。

ナビールが三歳の時生み出した偽りの生き物。

男女どちらでもない無性体。

ただ主のためだけに生きる。


くるりくるりと世界が回る。

ここが世界の中心で私の主は王国の皇帝。

僅か十二歳でエーデル国に侵攻しようとした周辺国をその身一つで撃退し、そのまま大陸全土を掌握した唯一無二の存在である。







兄弟仲は良好。

双方マイペース。

おっとりな兄と我が道をいく弟。


ノーブルは無事アーテル嬢と結婚した。

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[良い点] 視点が俯瞰してるからざまぁまでのストレスが薄くてスッキリ読めた。 [一言] 比喩表現って難しいね…
[気になる点] 王国なのに皇帝ってのはおかしいですね。 皇帝なら帝国でなければなりません。
[気になる点] 国王やるのがめんどくさいから兄者やって? むしろやれ! …なのになぜ皇帝やってんの? もしかして… いくつかの国をまとめて(王族はそのまま) 「わたしに仕事させるような状況になった…
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