表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

第三話「待ち伏せ」

以前投稿した物を全体的に修正しました。大筋は変わっていません。 (2017/4/3)


 ポポル村を出て約3時間。

 陽が高くなり、正午頃かと思われた時だった。


「……おい、馬をいつでもすぐ止まれる速度でゆっくり進ませてくれ。俺とアリカはここから降りて歩く」

「えっ? いきなり、どうしたんだっ?」

「この先で何かが待ち伏せてる。だからその手前までは慎重に進もう」

「す、進むのかよっ!?」

「進まなければ目的地には着かないだろ?」

「私たちがいれば心配ありませんよ」


 俺に続いて荷台の反対側に降りたアリカが言った。

 ちなみに待ち伏せに気づいたのは密かに偵察用ドローンを先行させていたからだ。

 ドローンからの情報だとここから約300m先の街道沿い、両側の林に熱源反応が計21体。 賊にしてはかなりの大所帯だ。

 茂みに潜んでいるのか、衛星からの映像では詳細は捉えられない。


「アリカは敵に向かわず、商人と馬を守ることに専念するんだ。追い払うのは俺に任せろ」


 既に、背負っていた木の盾を持ち長剣も抜いていたアリカに言う。


「わかりました。山賊でしょうか?」

「それはまだわからない」


 待ち伏せている相手はまだ林からは出ては来ないので、ドローンの映像でも確認できなかった。


「こ、このあたりは最近、ゴブリンが出るって話なんだっ」

「おいおい、そういうことは先に言っておいてくれ」


 しかしゴブリンとは最初の雑魚モンスターとしてはあまりにお約束過ぎる。

 もっとも最近の漫画とかでは、ゴブリンをナメてると痛い目に遭うってパターンもあるみたいだから気を引き締めておこう。



 そうして待ち伏せ地点の目と鼻の先に来たので馬車を止めさせた。

 みすみす挟み撃ちにされるつもりは無い。

 ここで待っていればいずれ焦れて向こうから出て来るだろう。

 それなら正面だけ気をつければ済む。


「……」



 そして待つこと数分。


 いきなり甲高い雄叫びと共にゴブリンたちがわらわらと林から出て、こちらに向かって来た。

 イメージ通り『ゲームの中のゴブリン』って感じのビジュアルだ。


「ひ、ひぃぃっ!」

「落ち着け。大丈夫だ。アリカは弓矢に気をつけて可能なら叩き落とすんだ。ただし毒矢かも知れないから無理だけはするな」

「はい!」


 そう指示した俺はヘルメットのバイザーを閉めてゴブリンたちの前に進み出て立ちはだかった。

 そう、両腕を開いて、正に「ウェルカム」と出迎えるように立ちはだかったのだ。


 すると突然ゴブリンたちに動揺が走り、その足が止まる。

 俺の行動を不審に思ったからだけではない。

 それでも突進を止めまいとするゴブリンも数匹いたが、それも数歩進んで立ち止まった。

 いや、『立ち止まるしかない状態』になったのだ。


「オリーヴ、出力を更に2レベルアップだ」

「了解しました」


 オリーヴに指示したのは、デュランダルから放射しているマイクロ波だった。

 俺の前面だけに指向性を絞っているし、そもそも人間の可聴域外なので、背後の商人とアリカは何が起こったのかわからずキョトンとしているのが背面カメラでわかった。


 そして頭を抱えてもがき苦しみ、嘔吐している個体も現れ始めていたゴブリンたちは、遂に我慢の限界に達したのか、正に蜘蛛の子を散らすように悲鳴を上げながら一目散に逃げ出したのだった。


 勿論デュランダルならゴブリン程度、こんな手間をかけなくても文字通り赤子の手を捻るが如く力任せに無双して殲滅できるだろうけど、その構図を想像するとかなりスマートではない。

 例えるなら、ゴリラが子供の集団に飛び込んで暴れるようなものだ。

 なのでデュランダルの機能を実際に試しておきたかったのが一番の理由だが、『弟子』も見ていることだし、みっともない戦いは避けたかった。


 ここで銃器を使うのは更に論外だ。

 あれは『この世界』では言わば『魔法』みたいなものだから、魔法使いとかに苦戦するような時でなければ使うべきではない奥の手だろう。

 今回使ったマイクロ波も指向性エネルギー兵器の一種で、魔法みたいなものではあるけど。


 とにかくゴブリンたちの熱源反応はどんどん林の奥へと逃げて行くから一時撤退の様子見ってわけでもなさそうだ。


 ……少し懲らしめ過ぎたか?

 いや、どうせまた人を襲うだろうし、むしろマイクロ波を殺傷レベルまで上げてテストした方が良かったのかも知れないな。

 まぁ、次の機会があったらそうしよう。



「……終わったぞ」


 俺はバイザーを開いて馬車の二人に声をかけた。

 唖然と俺を見つめていた二人に。


 こうして俺の初戦闘は幕を閉じたのだった。

 いや、これは戦闘ですら無いな。うん、やっぱりノーカウントにしておこう。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「あれはつまりデュランさんの闘気でゴブリンたちを威圧したってことですよね? さすがです!」


 再び荷馬車が動き出してすぐアリカが嬉々として言った。

 俺としてはもう少し派手な技を見せたかったんだが相手がゴブリンじゃなぁ……。

 せめて大熊、できればオーガとかトロールとか、そのあたりのデカブツ相手だったら超振動ナイフで一閃真っ二つ斬りとかできたんだが。


「しかしありゃ何つーか、ゴブリンとグルになったヤラセを疑いたくなるレベルだったぜ」

「そう思うのなら仕方ない。俺たちはここからは歩いて行くか」

「それもいいですね♪」


 むしろ楽しそうにアリカが応じた。歩きののんびり旅が好きなのか?


「ちょっ!? じょ、冗談だって。礼はきちんと払うよ!」


 まだ次の村までの行程は半分ほど。この先また何かに出くわさないという保証は無いので商人の反応は当然だし、こちらとしても冗談半分だ。

 とりあえずドローンの先行偵察は続けさせているけど、できれば今日はもうこれで何も無いことを祈ろう。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 祈りが通じたのか、日が暮れ始めた頃、ハデラ村に着いた。

 より王都に近づいているせいか、前のポポル村の倍くらいは大きな村で、村全体を囲う石積み壁も2メートルはある。

 入口も堅牢な門があり衛兵が入る者をチェックしていたので不安がよぎったが、商人が顔見知りだったのか、あっさり通されて村内へと入った。


「一杯奢ってやりたいところだが、せっかく夕飯前に着いたしすぐ捌きたいからな。その分イロは付けといたぜ。ありがとな」

「ああ、機会があったら、またよろしく頼む」


 手渡された布袋を確かめもせず俺は商人と別れた。

 確認したからってボラレたかどうかわからないし、それをアリカに確認させるのも何だしな。


「……おっと、そうだ。アリカの分を」

「私はまだ手持ちがありますし、結局何もしなかったからいりませんよ」

「そうか。まぁ、預かっておく」


 やっと一文無しではなくなったが、さてどうするか。

 やはり剣の一本くらい買っておくべきか?

 だがデュランダルの性能からしたら、そこらの木の棒でも充分だから『必需品』ってほどでもないんだよなぁ……。


「デュランさん、とりあえず宿を決めて荷を預けましょう。買い物はその後でも」

「ああ、そうだな。宿はアリカに任せる」

「任されました!」


 散歩に出かける犬のように楽しげに歩き出すアリカ。

 とりあえず面倒臭い性格の子じゃなくて本当によかった。胸も大きいし。

 例によって情報収集目的のドローンは発射済みなので、俺としては特にやることも無い。

 ただ、そろそろ新しいイベントが起きる頃じゃないか? と思いつつ、アリカの後に続いた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ここも満室でした……」


 さすがに7件目ともなるとアリカですらため息混じりだった。


「一体どういうことなんだ?」

「はい、何でも貴族様のご一行が逗留していて、どの宿もその従者の方たちで一杯なんだとか」


 どれだけ引き連れて来てるんだ。大名行列かよ。


「ちなみにその貴族ってのは?」

「グラーベ公爵領のご子息様だそうです」


 公爵ってことは爵位的には一番上か? となると物々しいのも頷ける。

 しかし『ご子息』か。

 『ご令嬢』なら是非一目見たいと思ったけど男ならどうでもいいな。

 それよりも宿を探さないことには、村にいるのに野宿という情け無い事態になりかねないぞ。それ昨夜と同じではあるけど、二人揃ってはなぁ。


「デュランさん、もう次でダメなら野宿にしましょう」


 諦めるの早いなキミは! もしかして野宿好き?

 とにかく次の宿屋へと向かう俺たち。



 だが、あっさりと野宿は回避された。

 村の奥へ奥へと進んでいたこともあってか、やっと一部屋だけ空きがあったのだ。

 まぁ、同室なこと自体は贅沢できないし最初から想定してたんだが……。


「ベッドが一つしか無いぞ」

「夫婦用の部屋だと言ってましたから、すみませんがそこは我慢してください」


 いや、俺が我慢するのはいいんだが、むしろアリカ的にOKなのか? ……OKなんだろうな。


「そ、それに、夜伽をされるのであれば、むしろ都合がいいですよね!」

「今日は疲れたからナシだ」

「えぇ~っ……」


 やっぱりかよ!

 いや俺だって男だし、正直ヤりたいですよ? アリカは美人だし胸も大きいし。

 でもまだ不安なんだよ。

 童貞だからとかでなく、この装備を全部脱いでしまうことが。

 勿論、さすがに寝る時にデュランダルは脱ぐけど、実はデュランダルの下にはインナースーツを着ている。

 このインナースーツは体にピッチリのダイビングスーツみたいな物だが、実はこれ自体にもパワーアシスト機能が備わっている。

 そもそもこのインナースーツはナノマシンの集合繊維でできてるからな。

 つまりデュランダルにはもちろん劣るが、インナースーツを着ているだけでも超人的身体能力を保持しており、現時点でそれすらも解除してしまうのは正直、怖かった。


 ゲーム設定的には俺の体自体もナノマシンで強化されてる筈ではあるが、それは主にデュランダルとの接続、及び、恒常性(ホメオスタシス)や治癒力、耐毒性等を強化する物であって、超人的な身体能力とは違う。

 そりゃ勿論『局部』だけをスーツから出せはするけど、それもマヌケだよなぁ?


「じゃあ、早速買い物に出ましょうか」


 そう言って旅行服を脱ぎ始めたアリカ。……って、こらっ!

 俺は慌ててアリカに背中を向けた。

 たとえ背面カメラがあろうともそれが礼儀だ。カメラがあろうとも。

 というか恥じらいは無いのか?

 それともセックスOKな仲なら着替えを見られるくらいどうってことないって思考か?

 俺としては多少は恥じらいがある方が嬉しいのだが……。

 いや、それとも俺の騎士道的紳士さが試されているのか?

 あり得るが、だったら尚のことここは見ているべきではないな。

 背面カメラが自動で映像を送ってきてしまうのはセキュリティ的に仕方のないことだが。うん、仕方ない。


 と、俺がそんなことを思ってる内にもパパッと服を脱ぎ、下着だけになったアリカ。

 ……なるほど。現代的なワイヤー入りブラみたいなのじゃないとは予想していたが、布と紐だけで作られた、下着と言うよりはビキニみたいな感じだな。

 それにしてもやっぱり胸が大きい。Iカップは確実にありそうだ。むしろどうやったらそんなに大きくなるのか気になってきたレベルだぞ。

 ……夜伽はともかく、一揉みくらいはさせてもらうべきか?


「お待たせしました」


 着替えを終えたその言葉に、たとえ一部始終を観察していたとは言え、わざとらしく振り返った俺。

 ちなみにアリカは最初に会った時と同じ、如何にも村娘風な服装に着替えていた。それがお出かけ用の服ということか。


「その前に聞きたいんだが、ちなみにこれで武器は買えそうか?」


 先ほど商人から貰った布袋の硬貨をテーブルの上に広げた。


「えーと……金貨3枚に銀貨と銅貨が5枚ずつですか。長剣だと多分安物になってしまいますね」

「なるほど」


 まぁ、目安はわかったから後は店に行ってみてだ。べつに安物でも構わないしな。


「でも大丈夫です。私、値段交渉は得意なので、任せてください」

「程々にな……」


 妙に自信たっぷりなアリカに続いて俺は宿を出た。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 買い物は、アリカの値切りテクに頼るまでもなく、ピンとくる武器が無かったので、

結局マントだけ買った。

 デュランダルだけだと目立ちすぎるから全身を覆えるマントが欲しかったんだ。

 なのでそれほど金を使うこともなく、帰りに大衆食堂でアリカとたらふく食べて宿屋に戻り、もう寝ることにした。

 そう、一つのベッドでアリカとだ。


 二人用のベッドとは言ってもシングルのちょっと幅がある程度で結構狭い。つまり密着に近い状態で寝る羽目になる。

 ……頼むぞ俺の理性。いきなりこんなところで暴走するなよ。

 とりあえず俺はデュランダルを脱ぐと言うか脱着する。

 指示するだけで装甲部が自動で外れ、足下でスーツケース状の収納形態に変型した。


「わわっ!? な、何ですか、それ? 魔法の鎧ですか?」

「……まぁ、そんなような物だ」


 『魔法』って言葉は万能だなぁ。

 って言うか、この世界はやっぱり『魔法』があるのか。想定の範囲内だから驚きはしないけど、何と言うか『お約束』だな。

 とか思ってる間に、アリカは何の躊躇いも無く服を脱いで下着だけになり、そこから寝間着を着るということではなさそうだった。


「……もしかして、それで寝るのか?」

「いえ、いつもは裸で寝るんですけど、これも脱いでいいですか?」


 言いつつ、後ろでまとめていた金髪を一気にバサッと(ほど)いた。

 たったそれだけで、いきなり色気が30%はアップしてしまい、これは非常にマズい!


「っ! ……か、風邪をひくといけないから下着は着ていた方がいい」

「着てるとかえってひきそうですけど、デュランさんがそう言うのならわかりました」


 どんな理屈だ。

 こっちは危うく暴走しかけるところだったぞ……。

 ちなみに俺は先にも言った通り、インナースーツ状態だ。


「よ、よし、じゃあ、ね、寝ようか……」

「はい、寝ましょう」


 アリカを壁側に寝かせて、俺もその傍らに入る。

 やはり腕と腕とがピッタリくっついてる状態だ。

 これだけでもやはり少々、いや、かなり緊張して……。


「……」


 って! アリカのやつ、もうスヤスヤと寝息を立てて寝入ってるぞっ!?

 ベッドに入ってまだ30秒も経ってないのにかっ!?

 そんなんで夜伽とか本当に可能なのか疑わしいレベルだぞっ!?


「……俺も寝るか」


 緊張してたのがアホらしくなった俺は、オリーヴに指示して誘眠機能を使い、すぐに眠りに落ちたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ