魔導仕込み
--- 魔王ドラミスの視点 ---
「私、魔力が無くなったけど、なぜだろうね?」
朝食をしながら、私はカルに聞いてみた。
「ティオは、もともと魔力がないよ。体質なのかわからないが魔力が全然増えないんだよ」
「でも、前に魔法使ってなかった? 剣の刃から炎や氷がでる魔法」
「記憶が少し戻ったのか? でも、それは魔法ではなく魔導仕込みだよ」
カルは2本の剣をもってきた。
そのうち、1本を鞘からとりだすと、剣先から熱を感じる。
「例えば、ティオが前に使っていた火の魔導仕込み火帯剣、使用者の生命力を代償に剣の刃から炎を生じさせることができる」
「私も持っていい?」
「ティオは、こっちの水冷剣を使ってみなさい」
水冷剣を手に持ち鞘を抜いた瞬間、剣の刃から冷気が発生し、体を動かしていないのに疲労感を感じる。この感じは、魔力が残り少ないのに無理矢理に魔法を使う感覚に似ている。剣の柄に力を入れると冷気が強くなるのが分かる。
「長時間、柄を持つと体力を奪われて危険だから、使用しない際は鞘に戻すんだよ」
水冷剣を鞘に納めると疲労感が感じられなくなった。人間は、とんでもないものを発明していたか。
「今日、俺はギルドの案件をこなして金を稼ぐが、ティオはどうする?」
"ぎるど"? それも興味があるが、まずは剣を調べたい。
「午前は、家の中にいるよ。"ぎるど"には午後行かせてもらっていいかな?」
「分かった。俺は、午前中は1人でギルドの案件を少しこなして、昼に戻ってくるよ」
カルが外にでた後、私は水冷剣を手にとり、隅々まで調べる。宝石部分から強い魔力の匂いを感じる。魔力結晶だろうか? 中に精霊の気配がする。なるほど、おおまかな仕組みが分かってきた。使用者の生命力を糧にして精霊が魔力置換を行っているのか。
私は、水冷剣の鞘を抜き、詠唱する。
「凍え咲け、氷点花」
私の前に氷の花が咲いた魔法の成功である。自身に魔力がなくても魔力仕込みを介せば魔法が使える。
「我が障害を焼き払え、焼炎弾」
今度は、無反応である。武器に封印されている精霊の属性にあった魔法しか使えないのか、火と水の魔導仕込みはあるが、風と土の魔導仕込みはなさそうだ。
落運の解除と魂移管を使うには、4属性の魔法が使える状態ではないといけない。あと、2属性の魔導仕込みは、どこにあるだろうか?
今度、外にでかける際は他の魔導仕込みも調査しよう。
「戻ったよ、パンを買ってきたから昼食はこれですませよう」
カルが昼食のため、家に戻ってきた。
「風と土の魔導仕込みは無いの?」
昼食をしながら聞く。
「風と土の魔導仕込みは、所持してないな、店で買うしかないけど、魔導仕込みは高いし、旅の支度準備で買う余裕はないな。」
「なら、私が金を稼ぐ。どうすれば、金は増やせるの?」
「俺は今、ギルドの案件をこなして金を稼いでいるな」
カルが午前に行っていたところか、私も午後に同行するからちょうどいい。
昼食を済ませ、私とカルは、ギルドの施設に向った。
ギルドの施設内に入る。中は薄暗く野暮な男達がたむろしていた。
「なんか、私に視線が集まっているけど」
「女性の冒険者は比較的少ないから、目の保養にしたがるのさ」
カルが壁に貼り付けてある大量の紙を眺めている。私も眺めてみるが、よく分からない。
「とりあえずバウウルフ狩りの案件をこなすか」
街外にでて北の方へ行く、カルが地面を気にしており、やがて立ち止まる。
「バウウルフの足跡が大量についている、ここら周辺にバウウルフが出現するはず。ティオの鞄に、魔物をおびき寄せる誘導香が入っているから、それを使って魔物を誘いだそう。ここら周辺の魔物は俺一人で十分だからティオは後方で支援してくれ」
カルは、私の鞄から誘導香を取り出そうとしたが、後方から、カルに向けて牙が飛んできた。とっさにカルは剣を振り切り払うカルの反応が早い。バウウルフが、既に周囲を囲んでいた。
「誘導香の必要はなかったか、ティオは俺の背中にいるのを倒してくれ」
「わかった」
カルは、とびかかってきたバウウルフ3匹を斬っていく。
私は、火帯剣を抜刀し、呪文詠唱をする。
「我が障害を焼き払え、焼炎弾」
バウウルフを2体を焼き尽くした。カルと私の力量に圧倒されたのか、残りのバウウルフ達は逃げていった。
「ティオ、魔法使えるようになったの?」
私は、しまったと思いつつ頷くが、カルは勝手に納得したようだ。カルは、バウウルフの耳を切る。
「何で、バウウルフの耳を切るの?」
「バウウルフを狩った証拠品にするんだよ、流石に丸ごと持って帰るのはしんどいしね」
そうなのか、だとしたら私が消し炭にしたのは証拠品にならない。だが、カルは私を責めるような素振りをみせなかった。
その後、私達は場所を移しかえて何度かバウウルフを狩っていった。呪いのせいかバウウルフに奇襲される事が多い、カルは誘導香を節約できると言った。私は、氷の魔法を使ってバウウルフを斬り裂いていき、カルは、剣だけでバウウルフを斬っていった。
そして、20匹ぐらい狩ったあと私の体力は限界に達していた。
「今日は、ここまでにするか」
カルが、私の状況を察したようだ。魔法を使いすぎた。歩くことさえ、おぼつかない。
ギルド施設に戻りカルがフロントの人に狩ったバウウルフの耳を渡し、何かの紙を見せる。カルの手に金が渡されているのが見えた。
「いくらぐらいもらったの?」
「200Gだな。綺麗に耳を集めたから値切られることはなかった。」
「さっき、フロントの人に見せていた紙は何?」
「ギルド会員証だよ、これを見せないと案件をこなしても金がはいらないんだよ、ティオも自分の鞄の中に会員証あるよ」
後で、ティオの荷物を全部確認しよう。ギルド会員証があれば私だけでも金を稼ぐことができるのか。
「今日は、まあまあ稼いだし、うまい飯屋でも食べにいくのか」
「えっ飯屋って何?」
「料理を作ることを生業にしている店だよ、プレシアの料理もうまいが、飯屋の料理もおいしいぞ」
プレシア並の料理を作れる人間がいるのか。興奮して、疲労感を感じなくなった。露店市場に近い方向へ歩き出す。豪華な装飾を施した店が何件か並んでいる。特に巨大な店が目に止まった。
「悪いな、そこは高級飯屋だから今の持ち金が無くなってしまう。他の飯屋にするよ」
高級? 飯屋にも順列があるのか、高級は何が違うのだ。料理のおいしさが違うのか?
「ついたぞ、ここの飯屋だ」
そこは、外見的には少し寂れた店だった。看板には山猫飯屋と書いてある。
「おいおい、そんな表情をするな、ここの店は隠れた名店なのだぞ?」
そうなのか? 魔物の強さも見た目で判断されるものではない、カルの言葉を素直に聞き入れる。
「へい、カルさんいらっしゃい!」
奥で、鍋を振っている人が、声をかけてきた。店内には、沢山の人が料理を食べている。
「料理は、"おまかせ"でいいか?」
「うん、いいよ」
「おやじさん、"おまかせ"2つにしてくれ」
カルの質問に、即答してしまったが"おまかせ"とは何だろう? 壁に料理の名前らしきものを書いた紙は並んでいるが"おまかせ"というものは見当たらない。
「へい、料理おまちどうさま! 猛獣肉のうま焼きだよ」
"おまかせ"を頼んだのに別の料理がでてきた。匂いや見た目からして、その料理がうまいと錯覚してしまう。肉を手に取り口の中に運ぶ。
――私の目から何か水のようなものがでてきた。
「おいしい……カルの料理と比較にならないほどおいしい」
周囲がざわついた。
「へい、カルさん、あんた……」
「ちょっと待て、誤解だ」
プレシアの料理を食べたときと同じ感覚だ。なぜ、今までこのような事を私は知らなかったのだろうか? なぜ、人間達は料理や魔導仕込み様々なものを発明できるのだろうか? 人間達をもっと観察する必要がある。
始末するのは、その後にしよう。