08-賞金稼ぎの|初心者《ニュービー》
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
ベティ(テランダの妻)からこの世界について、とにかく気になったことは何でもかんでも聞いておいた。
何しろこの世界には何の説明もなく連れてこられた。妻子を生き返らせるために、生き返らせた後に生き続けるために。この世界のことはできるだけ知っておいたほうがいいと思ったのだ。
とりあえず、簡単な目標を設けてみた。
・生計を立てる。
・盗賊を殺してもおかしくないような職
1分1秒が惜しいが、準備を怠って失敗するなど愚の骨頂。
慎重に、慎重に。綿密に計画を立てなければならない。
犯罪者を殺す大義名分も得なければ、最悪俺が悪者扱いで捕まってしまう可能性がある。
そこで、俺はまず街に出て、冒険者として登録することにした。
テランダに町まで案内させることにした。そうと決まれば俺はここにいる理由がない。さっさと出て行こう。
「世話になったな。」
この世界の常識についていろいろと説明してくれたんだ、だいぶ助かった。
「なに、あたしもこんなに長くしゃべったのは久しぶりだよ。楽しかったから礼を言うのはこっちのほうさ。・・・それに、あたしたち一家のことも見逃してくれたしね。またくるといいよ。」
「討伐しに来なければな。」
いらんことをテランダがはさんでくる。
「じゃぁな。」
「あ、コレ来ていきな。それ、ただの布の服だろう?」
ベティが俺に分厚い皮でできた鎧みたいなのをくれた。
「いいのか?」
「いいのいいの。どうせこの中でそれ使うようなのはいないからね。」
「そうか。・・・ありがとう。」
「気を付けるんだよ。ここから町までには弱いとはいえ魔物もいるんだからね。」
「あぁ。・・・元気でな。」
「はっはっは。うちらは丈夫なのが取り柄だからね。あんたこそ。」
「あぁ。」
テランダの後について、町に向かって歩き出した。
道中は特に何かと出会ったわけではなかった。
何度かただの獣の動く音がして、その度に警戒していたからか街が見えてほっとした。
日本ではこんな体験などしたこともない。そこら辺にいるオジサンだったのだ。趣味って言ったってサバイバルやスポーツ系のことなんてやっていない。体力もそんなにあるわけではない。
まぁ、状態異常・興奮のせいであんまり疲れてはいない。それでも張りつめていた緊張が緩んだのは確かだ。と、テランダが
「悪いが案内はここまでだ。俺たち一家はあそこの街から逃げてきた。あそこに入ろうとすれば捕まって縛り首だからな。」
「そうか。」
「なぁ、せめてマジックポーチは・・・」
「慰謝料だ。返さん。」
「・・・わかったよ。家族に手を出されちゃあたまんねぇ。諦めるとするよ。」
本気で言っているようではない。ただの戯れのような軽口。
「冒険者ギルドは門をくぐって大通りをまっすぐ行けば広場ある。そこに看板がかかっているからすぐわかるはずだぜ。」
「そうか。・・・元気でな。」
「おう。おめぇさんもよ。・・・悪かったな、襲いかかったりなんかして。」
「慰謝料をもらってるんだ、もう謝らなくていい。・・・ただ、襲うのは盗賊だけにしておけ。」
「わーったよ。」
テランダとは森が途切れるところで別れた。
・・・街に行くか。
石造りの門は近くで見るとどこか荘厳な面持ちを感じる。
鎧を着た兵士が二人、門のところで検問をしている。
あそこで犯罪歴だとかを確認するんだろう。
それなりの数の荷馬車が並んでいる。俺もその後ろについて、自分の順番が回ってくるのを待つ。
「次~」
すごくやる気のない声で呼ばれる。
「ん?見ない顔だね、冒険者?」
「冒険者になりに来ました」
公務員の方々(俺ももともとそうだが)にはというより武器持って鎧着てる人に対して軽く気圧されたからだが、敬語で答える。
「へぇー、じゃぁ、ギルド行くんだ。」
「その予定です」
「新人さんだー。あ、ここに手のっけて。ペタッと。」
促されるままに手を載せる。これが判定石だろうか。
「ん。緑だね、おっけー。じゃぁ、通行料200ジルねー。」
「これでいいですか?」
銀貨を2枚手渡す。
「もちろん。ギルドはここの道まっすぐ行って右手にあるよー。でっかい木造の2階建てだからすぐわかるよ。がんばってねー、新人さん。」
「どうも・・・。」
・・・なんというか・・・軽い奴だったな。
街の形は真ん中に広場、そこから大通りが放射状に延びて広がっている。
その広場にギルドがあった。
・・・さて。冒険者になろう。