07-テランダの覚悟
こんばんは、みなさん。
寒くて手足がかじかんでます・・・。
皆にステータスを表示するよう言ったテランダが、顔をこわばらせて言う。
「・・・先に言っておこう。フェイ以外は犯罪歴がある。」
「・・・ぇ。」
「・・・。それで?」
小さな驚きのもとはフェイ。自分を除いた家族に犯罪歴があるなどと実の父親から伝えられたのだから当然の反応だと思う。ベティとフィーはテランダ同様、顔がこわばっている。俺はテランダに先を促す。
「殺すにしても俺だけにしてくれ。」
「・・・・・・。」
正直どうしようか迷っている。俺は別に快楽殺人主義ではない。
愛する妻と娘にもう一度会うため。そのためだけに犯罪者だけを手にかけようとしているのだ。
・・・しかし、どうだ?
犯罪に手を染めているテランダ、ベティ、フィーを殺せば、フェイは生きていけないだろう。
テランダだけを殺したとしても、母親と娘2人で生きていけるのだろうか?
この中で戦闘技術(といっても一般人レベルだが)を持っているのはテランダだけだろう。
もし、ほかの野盗などに襲われたときは?
見過ごそうか、それとも当初の目的通り、殺してしまおうか。
しばらく無言で悩む。
急に黙り込んだ俺に対して不安そうに見てくる4人。
俺はふと、思いついたことを聞いてみた。
「なぁ。アンタら、今までどんなことしてきたんだ?」
「え・・・?」
「だから、犯罪歴があるんだろ?今までどんなことしてきたんだよ。」
「・・・野盗だ。商人や、旅人の追いはぎをしていた。」
「にしては殺しにかかってなかったか?殺人は?」
「していない。・・・あれは脅し文句で、大抵の弱い奴は震え上がって身に着けてるものすべておいていくから使っていただけだ。」
「お前の妻と娘・・・フィーだったか? は何をしたんだ?」
「俺の手伝いを・・・。小さな商隊が来た時に襲うのを手伝わせた・・・。」
「本当だろうな?」
「この期に及んで嘘ついてたりするか。それに、街に入る際の検査でわかるさ。判定石でな。」
「判定石・・・?」
「・・・もしかして判定石を知らないのか?」
「あぁ。」
「アンタ今までどうやって生きてたんだよ・・・」
・・・決めた。こいつらは殺さない。別にこの世界の犯罪者を根絶やさないといけない訳ではないだろう。
そうだな。この一家にはこの世界について質問するヘルプだと思おう。
「・・・殺さない。お前も、お前の家族も。代わりに、お前らにはいろいろと教えてもらおう。」
「本当か!? ・・・しかし、教えるといっても何を?」
ひとまず命の危険が去ったことに安堵するテランダ一家。
「この世界の常識とか。付近の街や地理についても。」
「なるほど。判定石についてもか?」
「そうだな。頼もうか。」
テランダとひとまず話が終わる。すると、フィーが口を挟んできた。
「い、いったい何が目的なんだ!」
「ん?言ったろ?常識を知りたいんだよ。」
「嘘だ!」
「何を根拠に?」
「常識なんだから知っているはずだろう!」
至極まっとうな突込みだと思う。しかし俺はこの世界の人間じゃないしな・・・。
どう返答したらいいものか思案していると、彼女の母親から助け舟が出される。
「フィー、それくらいにしときな。」
「で、でも!」
「やめときな。」
「・・・はーい。」
母親に言われてすごすごと引き下がる。滅茶苦茶こっちをにらんでるけど。
「で、アタシたちは何をすればいいんだい?」
「あぁ、今まで通り過ごしてもらって構わない。ただし、野盗からは足を洗え。」
「足を洗う?どういうことだ?」
「やめろってことだ。二度とするなよ。」
「わかった。」
・・・俺はどうしようか。野宿か、コイツの家に入れてもらうか。
同じことを思ったのだろう、ベティが俺に聞いてくる。
「アンタはどうするんだい?まさか野宿なんて言わないだろうね?うちに泊まるのかい?」
「どちらも選択肢の一つではある」
「野宿はやめときな。いくらこの森だからといったって、魔物くらいは出るんだよ。」
「魔物?」
「・・・ほんとに、アンタは今まで何してたんだい・・・。」
呆れられてしまった。
「判定石も魔物も知らないって・・・バカにしてるのかい?冗談はよしておくれよ。」
「いや・・・本当に何のことだかさっぱりで・・・。」
「しっかしねぇ・・・。常識が知りたいって、何が知りたいのかがさっぱりなんだけどさ。いったい、何から教えればいいんだい?」
「まぁいいや。じゃぁ、判定石からだね。
こいつは、主要都市の外門には必ず置いてあるよ。犯罪歴のあるものが触ると色が変わるんだ。殺人とかの重犯罪はは赤、盗み、傷害、強盗なんかの軽犯罪は黄色にね。
さっきウチのが言ったのは、これを触れても黄色だから殺人等はしていないっていう証拠になる、っていうことさ。」
「正当防衛の場合は?」
「そもそも犯罪じゃないから色は変わらないよ。」
「他に判定石の代わりをしているものは?」
「そうだねぇ・・・・あぁ。冒険者ギルドの高ランク者には確か、討伐対象の判定のために専用の道具があるって聞いたことがあった気がするねぇ。」
決めた。冒険者ギルドとやらに行って高ランクになろう。そうすれば、生き返らせるのも楽になるだろう。
「何か他には?」
「う~ん・・・、特に聞いたことはないねぇ。」
「わかった。次に、魔物については?」
「一言でいえば人間に害をなすモノ。さばいた時に魔石と呼ばれるものが出るよ。魔石については?」
「頼む。」
「はいはい。・・・魔石は、まだよくはわかっていない、研究中の物質だよ。けれど人間の生活には欠かせないものだね。属性のついた魔力を持っていて、宿主の属性がそのまま現れるみたいだね。冒険者が何かを討伐した時、証拠として持って行って買い取ってもらうのさ。」
ここまで聞いて、一つ思ったことがある。
「なぜテランダは冒険者にならないんだ?」
「あっはっはっはっは!アイツに冒険者は勤まらないよ!戦闘がからっきしだからね。図体だけでかくて・・・。農作業が天職の人だよ。すぐにやられて土の下だろうね。」
「まぁいい。それより、時間についてだが・・・。」
地球の常識と、この世界の常識のすり合わせ作業を一日中やっていた。
やっぱおばさんはしゃべりたがりらしい、などと思っていたらすごく睨まれた。エスパーか。
生き返りのために殺した人数:0。
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