03-謎の少女の提案。絶望の中に見出した一縷の望み。
すいません・・・ギリギリで異世界に行けませんでした。次は始まりからちゃんと異世界です。
今後ともよろしくお願いいたします。
やれ事情聴取だ、PTAだと忙しく冬休み期間をすべて事件に持って行かれる毎日と、事件で亡くなった教員・生徒の学校葬と親族だけで執り行う葬儀。様々な準備に悲しむ暇も与えられずに動き回った。
けれど、その忙しさが却ってありがたかった。
きっと、休んでしまえば動けなくなってしまうだろうから。
もう二度と会えない茜里と香弥を想って、動けなくなってしまうから。
だからこそ、不謹慎だと思うけれど。忙しさがありがたかった。
正月頃になるとやっと一段落した。食欲は一向にわかず、たまに水と少量の果物。
茜里と香弥の位牌の前で悄然とうつむいていた。
両親義父母が来てくれたり、親族が家にやってくることもあった。
その時は本当に心配してくれた。日に日にやせ細ってゆく俺を見て、みなつらそうな顔をしていた。
「みんなも忙しいでしょ、俺は大丈夫だから。」
やせ我慢というか、親族と話したくない一心で心配してくれる人を遠ざけた。
――茜里の、香弥の面影を見出してしまうから。
葬式の時、伯父さん一家が訪ねてきた。
伯父さんの娘さんは、茜里や香弥と似ていた。
彼女の顔がインターフォンに移った時、茜里が生きて帰ってきたのかと思って泣き崩れてしまった。
伯父さん叔母さん、その娘さんには悪いことをした。
泣いてしまい、まともな応対はできなかったから、応対は両親に任せた。
娘さんはものすごく居心地が悪そうだった。
今はたまに母が料理を持ってきてくれて、数時間一緒にいてくれる。
これ以上心配させないように、持ってきてくれた料理は胃袋に押し込んだ。
でも、どうしても茜里の料理を思い出してしまう。平穏の象徴だった、3人で囲む食卓が思い起こされる。
そのたびに歯を食いしばって泣くのを我慢した。涙を流すと、人の心は勝手に整理されてしまう。
茜里と香弥の死を、自分が整理を付ける前に涙程度で薄れさせたくなかった。
ただ、そばでつらそうに、でもそのそぶりを見せまいとする母親がいてくれる愛情がとてもうれしく、また母親にそんな顔をさせてしまっていたたまれなかった。
そんな、今までのぬるま湯とは程遠い日常にある日のこと。
初めて、一縷の望みという言葉の意味を、身をもって体感した。
差し入れに来てくれた母親と数時間ただ一緒にソファですわって無言で過ごして、帰り際にこの前の差し入れの入っていた洗っておいた鍋渡し、「心配してくれてありがとう、料理、おいしかった。ごちそう様。」と伝えて別れたある日。
見送りをして部屋に戻ろうと振り向けば、変な黒い靄のような何かが目の前に広がった。
突然のことに驚いて声も出ず、固まっているといきなり
『アンタの奥さんと娘さん、生き返らせる方法があるんだけどどう?』
なんてふざけたことを、「いい物件あるんだけど、一枚かまない?」と誘うような口調で話しかけてきた。
その声を、提案を聞いて腹が立った。
「ふざけるな!言っていいことと悪いことがあるだろう!軽々しく妻と娘の死を軽んじる様なことを言うんじゃない!」
「あらら、落ち着いて。怒らせるつもりは無かったんだケドな~。ごめんごめん。でもでも、ホントの話だよ?軽んじてるつもりなんてないって!」
得体のしれない何かから声がする、という異常事態より、妻と娘の死を軽んじて、あまつさえ「生き返らせる」などとのたまう。そして、悪びれもせずに、俺の怒りを流すためだけの薄っぺらい謝罪。
たちの悪いいたずらに耐えられず、怒鳴り散らしてしまう。
「うるさい!軽んじていないならどうして、『生き返らせる』なんて言いやがる!死んだ人は戻ってこない!どんなに悲しんだところで、どんなに何かしようとも、失った命をもどすことなんてできない!
・・・さっさと消えてくれ!」
「まぁまぁ。話だけでも聞いてよ。」
そういいつつ、黒い靄から生えてくる、足。夢でも見ているのか、と思ったが、
「夢でも幻でもないよ~」
と言ってくる。
何が何だかわからない。
目の前に現れた、黒いぼろ布をまとう、青白い顔をした高校生くらいの少女。
「ねぇ、あんたはさ、不公平だと思わない?なんであんたの妻や娘のように、意図して誰かに迷惑をかけてこなかった人が殺されて、誰かに迷惑をかける犯罪者はのうのうと生きているのか。
今回の事件の犯人は死んじゃった。けれどね、この日本にはまだまだもっとたくさんの、人を殺しちゃうような人がたっくさんいる。ほとんどが心のうちに衝動を秘めてるだけだけれどもね。」
「そんな議論に興味は無い・・・。消えてくれ。」
話すだけ無駄だと思い、拒絶する。しかし、少女は話し続ける。
「そんな奴らが生きている意味なんてないよね?」
「うるさい!それが俺のなんになる!さっさと、消えろ!」
反射的に手を振り上げる。その手を振り下ろそう打とした時、
「犯罪者たちを殺しまくれば、あんたの妻と子を生き返らせてあげるよ♪・・・ワタシの異常さは、アンタがいま目にしたでしょ?」
そう提案してきた。
「ど、どういうことだ?」
「ふふっ、聞いてくれるの?」
「あ、あぁ! 今なんて言った?」
「犯罪者を殺して回れば、アンタの妻子、生き返らせてあげるよ。」
「は、犯罪者を殺して回す?」
「うんっ。別に、手段は問わないよ。でも、アンタが殺さなきゃダメ。必ず、自分の手で始末するの。誰かに依頼して殺してもらったところで意味ないわ。」
「い、いまから・・・なのか?」
「そう。でもね、こんな歪んで住みにくい、きったない世界じゃなくて。
科学なんか発達してなくて、インフラだって整備されてない、疫病だって流行る年もある、こことは関係のない世界だけどね。たぶん、この世界だと生き返ったところでまたいつ死んじゃうかわかんないし。」
「俺はどうなるんだ?」
「ん?あぁ、この世界からいなくなるよ?向こうの世界でたっくさん人を殺して、妻子を生き返らせて。向こうで永住するんだから。こっちは・・・失踪状態で期限切れておしまいかな?」
・・・自分のことを心配してくれている親族はどうなる?
俺のそばにいてくれる母親は?自分が教えていた生徒たちは?気遣ってくれた先生方は?妻と娘の墓の面倒は誰が見る?そんな俺の懸念を見透かしたかのようにこういう。
「あぁ、あんたもあの事故で死んじゃったことにするよ?まだそんな日もたってないし、今なら私でもなんとかなるカモ。
でも、あんまり遅いと・・・」
そういってお手上げのポーズ。
「・・・お前の目的は?何か別に目的があるだろう?」
「まぁ、勘ぐるよねぇ。アタシはね、贄がほしいの!」
「に、贄?」
「そう。贄。生贄の贄だよ。私の力を蓄えるにはどうしても負の感情を持った魂がほしい。で、言うこと聞いてくれたら、貯まった力で死んだ妻子を生き返らせてあげる。・・・どう?そんな悪い提案じゃないでしょ?」
「具体的には何人とかあるのか?」
「お。これは脈あり?」
「大ありだ、ありまくりだ。どれだけ殺すんだ?」
「えっとねー。百人は下らないかなぁ・・・」
「ちゃんと殺せば妻子は生き返るんだな?」
「うんっ!アタシが、責任もって生き返らせるよ!」
「わかった・・・!その話、乗ってやろうじゃないか・・・。」
俺は、茜里と香弥のために、殺す。
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