私と瓶ぞこと珈琲
お久し振りです。って言っても誰だよコイツって思われるかもしれませんね(´・ω・`)
何年ぶりの投稿なんだろうと自分でも数えてしまいました。
「頼む!俺の師匠になってくれ!!」
何言っているんだ、こいつは。
金髪の言っている意味がいまいち分からない。
ししょう、シショウ、C-Show…師匠?
「お断りします」
そう言って踵を返して金髪から離れる。
やはりこの金髪は面倒事しか持ってこないらしい。平和に暮らしたい私にとっては敵だな。
「待ってくれ!桐ヶ谷夜空!」
金髪の声に耳を傾けもせずに歩き続ける。
このままコイツの話を聞いても面倒事に巻き込まれるのが落ちだろう。
「俺は諦めないぞ!桐ヶ谷夜空!」
いや、諦めてください。
実際には口にしなかったが、心境的にそう言わざる負えない。
私が何故三階のB棟の端っこにいたかと言うと、別に金髪から逃げた果てにここまで来てしまったという訳では無い。この階にある教室に用があってここまで来る途中であの金髪に見つかってしまったのだ。全くもって面倒な金髪野郎である。
B棟の端っこの端っこに地学教室に隣接して地学準備室というものがある。私が用事があるのは準備室の方だ。
「みこっちゃーん」
少し古くなった扉を開けると埃っぽい空気が流れて来る。
埃っぽい空気に混じって古本屋のような独特の匂いもやってくる。
「失礼します。ってなんで言わねぇの?先生泣いちゃうよ?」
気だるげだけど何処か色気を感じる丁度いい低さの声が鼓膜を揺らす。
所々寝癖で跳ねている焦げ茶色の髪に瓶ぞこの丸眼鏡をかけた男の先生。名瀬翠琴が本を開いた状態で顔をこちらに向けていた。
みこっちゃんとこ名瀬翠琴先生と出会ったのは1年生の時。
極度に静かな所を欲してしまう傾向にある私にとって学校とは地獄そのものであり、教室は拷問する場としか思えていなかった。
そんな地獄の中に天国を求めてしまうのは最早人間の性なのかもしれないと達観しつつ、静かな場所を求めて学校を彷徨っていた時に見つけたのがB棟の三階の端っこの端っこにある地学準備室だった。
人の気配がないことを確認して地学準備室の少し古くなった扉から中に滑り込む。
中は埃っぽい空気で満たされていてけど案外苦痛ではなかった。地学準備室と言うだけあって地学に関する教材やらなんやらが数多く棚に収納されていたが、それ以外にも数多くの地学に関するものではない小説やらなんやらが陳列していた。
綺麗に陳列した小説に意識が向きすぎていた為かその時の私は人がいることに気付かなかった。
「お嬢ちゃん、こんな所に何の用?」
「っ!?」
これが翠琴先生との出会いだった。
「んで、三島に追いかけ回されたと…」
心底うんざりした様子で眉間にシワを寄せながら言った言葉に音も無く頷く。私の姿を見たみこっちゃんは深い溜息をつきながら寝癖で跳ねた髪をがしがしと掻いた。
「何でそんなクソ面倒くせぇことになってんの?面倒事は全力で逃げる夜空ちゃんらしくないじゃん」
みこっちゃんの言葉に眉間にシワがよる。
「私だってこんな面倒事御免ですよ。でもあの金髪野郎私を見つける度について来るんですよ?しかも何も言わずについて来るとかじゃなくて私の学校生活のダメ出しまでして来るんですから」
私がそう言うとみこっちゃんはさっきよりも更に深いため息をついた。明らかに教師がしていい態度ではないが、こうやって素の状態で接してくれるみこっちゃんが案外嫌いではない。静かな場所も提供してくれる訳だし。
「三島って1年の時からそんな感じだったんだよなぁ…。上級生にも自分がダメだと思った事はダメだってはっきり言って反感買ってたしな」
みこっちゃんの話を聞いて更に金髪のことが嫌になりそうだ。
どこの王道ファンタジーの主人公だと言いたい。
「良く言えば正義感が強い。悪く言えば自分の意見しか正しいと思わない」
そう言いながらみこっちゃんは大きめのマグカップに珈琲を注ぐ。ついでに私の分も入れてくれた。そういうとこ大好き。
「私はあの金髪とは関わりあいにはなりたくないんですよ。どうにかなりません?」
貰った珈琲に口をつけながら聞けば、みこっちゃんは眉間にシワを寄せながら大きめマグカップを手に取った。
「三島の性格上、自分がこうって決めたらやり通すって感じだからなぁ」
低く唸りながら珈琲に口をつける。
珈琲から立ち込める湯気でみこっちゃんの瓶ぞこ丸眼鏡が白くくもる。
マグカップから口を離し、くもった丸眼鏡を外しながら私の方を見る。普段は瓶ぞこ丸眼鏡をしているから冴えない印象のみこっちゃんだが、別に視力が悪いってわけじゃない。理科教師だから科学者っぽいってことで眼鏡をかけることにしたんだとか。
それはいいのだが、何故古めかしい瓶ぞこの丸眼鏡なのかと後1時間問い質してみたい。
だが正直な話をすると、みこっちゃんが瓶ぞこ丸眼鏡をかけてくれて良かったと思っている。
もしかけていなかったらどこのホストですかと言いたくなるような色気ダダ漏れのアブナイ教師として、女子から大人気になっていたことだろう。
それくらい眼鏡を外したみこっちゃんはイケメンすぎると言っていい。
そして今現在眼鏡を外してアブナイ教師となったみこっちゃんは眉間にシワを寄せながら切れ長の目で私を見つめる。
本来の女子ならドキドキしてしまうようなシチュエーションなのかもしれないけれど、生憎私は普通の女子の感性を持っていないため"イケメンだなー"とは思うけど"ドキドキしちゃう!"とか少女漫画のヒロインのようなことは全くもって思わない。
てか、少女漫画のヒロインはなんでそんな簡単にいろんな男子にときめいてんだろうか。不思議でならない。
「夜空ちゃん」
不意にみこっちゃんに名を呼ばれ、思考を止める。いつになくみこっちゃんの真剣な声に自然とこちらも身構える。
「なんですか、みこっちゃん」
返事を返してもみこっちゃんは、相変わらず切れ長の目で私を見つめている。
「諦めろ」
唐突に言われた言葉に私は目を見開いた。
「…は?」
金髪に続いて何を言っているんだこの人は…。
読んで頂いてありがとうございました。