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花が咲く頃

作者: 水樹亜由

私、唯川まどか、大学2年、の入っているサークルはギターサークル。


60人ほどいる中で実際きちんと活動しているのは15人ほど。


後の45人は行事の時だけ出てくる半幽霊メンバーが多い。


私は小さい頃からクラシック・ギターをやってるから真剣にやってるんだけど。


15人ほどの普通メンバー以外には5,6人ほど週1くらいでくる人たちもいる。


そして実は私はその5,6人のだらだらメンバーの一人を毎日待ってたりして。


そいつは週1で出てきたら本当に良い方のレベル。私と学科が違うからサークル以外では会わない。


だから私はなれべく休まないようにサークルへ顔を出す。彼と会うチャンスを逃したくないから。




「まどか~」


「こんにちは先輩」


「せんぱーいここ助けて下さいっ」




部屋に入った途端に色々なところから声がかかる。


とりあえず挨拶をして自分のギターをケースから取り出した。


準備をしながら部屋をさっと見回す。・・・今日も来てない、か。


少し落胆しながらまた皆の元へと戻る。後輩に弾き方を教えてると、突然ドアがばたんと開いた。




「すんませーん!遅れましたー」




ふざけた口調とおちゃらけた感じの挨拶。


ーーーあいつだ。




「崇」


「お、まどか~。お前この曲弾ける?」




あいつ、木野崇は私と同い年の男の子。このサークルで始めて会った人。


だから最初は自然に目が彼を追っていた。そしたらいつの間にか好きになってた人。


明るくて、どんな人からも好かれる感じの男の子。


私のことは殆ど見てくれたないんだろうなあ。実際大学内でも彼はいつも違う女の子と一緒に歩いてる。


私なんかとはぜんぜん違う綺麗形の女の子達がいつも周りにいるの。


だから私はもう「同じサークルのメンバーの同級生」の地位で満足するつもり。だって彼と話したくても話せない子が沢山いるって知ってるし。




「っだー!何で弾けねんだこれっ」


「だから焦りすぎなんだって崇は」


「んなこたあしらねーよ」


「だからここはこの弦もきちんと押さえて」


「んな神業出来るか!」




楽しい時間はあっという間に過ぎていく。今回も、そう。


あっという間に夜になっちゃって食事をしていくかしていかないか、の話になってる。


崇は多分また付き合わないんだろうな。いつもバイトみたい。


私はため息をつきながら支度を始める。皆と別れてから部室を出ると、外に崇がいた。




「あれ、崇」


「お前駅方面だろ?」


「そうだけど・・・」


「んじゃ行こうぜ」


「うん?」




珍しいこともあるんだな、と思いつつも笑みを止められない。


にまにま笑ってたら崇にあきれられたけど別にいいんだ。嬉しいから。


理由は何かなぞだけど崇と一緒に帰れてるし。


駅までの道では一言も言葉を交わさない。だけどその沈黙がまた心地よくて。


このままずっと駅までたどり着かなければいいのに、て思う。


だけど虚しくも、駅についてしまう。




「ばいばい」


「ん。また明日な」


「明日もサボらないでちゃんと来てよね」


「バイトなんだから仕方ないし」


「はいはい」


「これでも来れる日は毎日来てんだけど」


「えらいえらい」


「うわすげー棒読み」


「とにかくまた明日」




冗談を言い合いながら改札口を通った後別れる。


私の家と崇のバイト先は逆方向。崇のうちだったら同じ方向なんだけどな。残念。


いつか堂々と一緒の方向の電車に乗れる日が来れば良いのに、てつい思ってしまう。








「・・・で、あんたは何が言いたいの」


「優ちゃん」




同じ高校出身でサークルも同じの優ちゃんに相談したら呆れた顔をされた。


そりゃそうだよね。呆れるよね。こんな相談でもない相談。


だって自分でもどうしたいか分からないんだもの。




「あんたはどうしたいの?木野に告白したいの?どうなの?」


「分かんないの」


「そんなに好きならさっさと告白しちゃいなさいよ」


「む、無理だよ。振られて気まずくなりたくない」


「あんたさ」




優ちゃんが優雅に足を組みかえる。う、大人っぽい優ちゃんがやると、本当色っぽい仕草・・・


優ちゃんは緩くウェーブのかかってる薄茶色の髪に、整った顔をしてる。


彼女の周りには沢山男の子達がいるけど彼女は興味なしのご様子。




「大体さ、まどかはそうやってうじうじ悩むのがいけないんだから」


「だってさ、嫌なんだもん、関係が変わるの」


「そんなこと言ってるなら知らない」


「でも、嫌なの、振られるの」


「最初から振られるって決めつけないほうがいいと私は思うけど」


「だってほら、見てよ。また違う美人さん連れてる」




構内のカフェでお茶する私達から見える窓の外。


崇と美人さんが窓の前を通っていく。楽しそうに笑いながら。


ガラス越しに見ていなきゃいけないのが辛い。何か芸能人と凡人、みたいな感じで。


向かいの席の優ちゃんが大きなため息をつく。




「あんた今自分の顔見てみたら私の言いたいこと分かるわよ」


「え?」


「酷い顔。ブスって言ってるんじゃないの、ただ酷い表情。辛そう」


「別に辛くないし」


「そうやって言ってて誰かに取られても私知らないからね」


「だって・・・」


「はいはいだってなしっ。でも私ちゃんと考えて言ってるのよ?」


「でも・・・」


「大体ちゃんと崇のこと見てるの?見てればもっと色々見えるのに」


「あ。こっち来る」


「よっまどか」


「崇」


「木野、私への挨拶は?」


「あー・・・よう」


「あんたって本当失礼だよね」




私の横で優ちゃんと崇がぽんぽんと言い合っている。


あの二人も仲が良いんだよね。


・・・じ、自己嫌悪に陥ってきた・・・


何かこれ以上ここにいるとやばいかも。そう思ったからすぐ席を立つ。


行くね、て一応言ってからカフェを出る。後ろから私を呼ぶ声が聞こえたけど、気にしない。


だって何か嫌な子になっちゃいそうで。優ちゃんが大好き。だからそんな風に思いたくないし見たくもない。


だから歩きながらゆっくり考える。きちんと、整理する。








そんなもんなんだよね、きっと。


今まで自分から好きになった人に告白したことなんてなかった。


だって怖い。振られたらどうしよう。気まずくなったらどうしよう。


ううん。


本当はそれが理由じゃないんだ。


怖いんだ。


振られて皆に知れ渡るのが。恥ずかしいんだ、絶対。


だけど崇が他の女の子と歩いていると、悲しくなる。


嫌だな、自分勝手な自分。嫌だな。もう嫌。卒業したい。


いつか、優ちゃんが私にきつく言ってきた。




『失恋が怖い、恥ずかしいなんて、自分勝手だよ。恥ずかしいってことは自分を格好よく見せたいだけ。本当に好きなんていえるの?』




そうなんだろうな。


変わらなきゃ、次に進めない。歩き出せない。




『♪~~~♪~~♪♪』




「もしもし?優ちゃん?」


『私相手にヤキモチ焼いても仕方ないんだからね。友達に嫉妬するくらいならしっかりしなさい』


「え、ちょ、優ちゃーー」


『じゃ、私はもう行くから~。そっちに木野向かってると思うから、がんばんなさいよ~♪』




言いたいことだけ言うと、優ちゃんは電話を切る。


残された私は呆然と携帯電話を見つめるだけ。やっぱり分かってたんだ、優ちゃん。


一つため息をつく。ため息をついた途端に後ろから肩を掴まれる。




「まどか?」


「あーうん・・・」


「お前さっきどうしたわけ?あいつがお前ん事追いかけたほうが良いて言うから・・・」


「えっとね」




今、言わなきゃいけない。勢い、勢いよ!ここで引き下がったら、私は多分一生言えない。


一歩、大人にならなきゃ。優ちゃんに笑って感謝できるようにならなきゃ。


うつむいたまま、声を絞り出す。


ここまで行くともうどうでも良くなる。


心臓はもう爆発寸前。すぐ赤面する私の顔はきっと今も真っ赤。


ああ、今朝の自分はまさかこんなことになるなんて夢にも思っていなかったなあ。




「好き、なんだ、けど・・・」


「・・・」




沈黙。


き、気まずい・・・


何か。何か。何か。お願いだから何か言って、反応して・・・?


沈黙に耐えられなくなって、おそるおそる顔を上げると。




真っ赤になった彼の顔。




「え?」




思わず驚きを声に出してしまう。


手を顔に当てたままだった崇が、ゆっくりと手を下ろす。


そして、花が開く瞬間なようなすっごい満面な笑顔を返してくる。


・・・え?


「俺も、好き」






呆然と固まったままの私は相当面白い表情だったとか。


かなり真っ赤だったとか。


偶然私の告白現場を通りかかった私の友人達は次の日からかいにやってきた。


ちなみに優ちゃんは、「あれほどのアプローチに気づかないまどかは馬鹿」、「振られるって決め付けるなって言ったのに」。




今日も崇と一緒にサークルでギターを弾いてます。

(相変わらず幽霊部員だけど、ね)


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