六十尾 解決
灼熱地獄跡ーー。普段外からの侵入を防ぐ為に古明地姉妹の住む館、地霊殿が蓋をするように建てられており、侵入を防いでいる。しかし、地霊殿を経由せずともこの場所に来ることは可能なのだ。
「やっと辿り着いた。さっきは不意打ちでやられたが今度はそうはいかないぞ」
最初に出会った時と同じ場所に仁王の如く立っている霊烏路空を睨みつけ気合いを入れる為、声を張り上げる。
「うにゅ? 排除したはずなのに、まあいいやもう一度排除すれば」
こちらに気がついた空は間髪入れずに左手から生えた筒を向けてきた。
そして、その筒から超高温の光が溢れ、高密度の束となり放たれた。
「残念だったな。今回の私は最初から本気だ! 起符【嚆矢濫觴の開】」
このスペルカードは来る途中に作った物だ。起承転結から生み出したこの技には後三つの工程を持って完成とする。
「あれ? なんか髪の毛の色変わった?」
「まぁな。ちょっとした雰囲気変えとでも思ってくれ。いくぞ!」
空の言った通り、私の髪色は金色から雪夢と同じ白色に変化している。これが最初の工程だ。
「ふーん。それ以外は何にも起こらないのね!次はわたしの番だよ! 爆符『メガフレア』!」
「そんな速度じゃ当たらないぞ」
「うにゅ? いつの間に私の後ろに移動したのさ!」
「何簡単なことさ。お前の放った技が私を覆ったと同時に私も承符『光芒一閃の光』を発動したのさ」
「ふーん……だから今度は目の色が変わったってわけね。でも! ただ、見てくれが変わっただけでこの大いなる力を手に入れた私に勝てると思わないことだ!」
「いくぞ! 推して参る!」
「弾幕の火力勝負じゃ不利と悟ったの? でもそんな真っ直ぐな拳当たらないよ! それに! 私は近接も強いんだ!」
「フッ それはどうかな? 私は別に近接戦に持ち込もうとしたわけではないぞ! 喰らえェ!」
拳を振う形で打ち出した針状の弾幕が虚をついた空の体を撃ち抜く。この光芒一閃の光は所謂初見殺しと呼ばれる技だ。昔、陰陽師をしていた時に安倍晴明が同じような術を使っていたので参考にしたが……これはなかなか使い勝手の良い物だ。
「ぐうッ!? 」
堪らず距離を取ったか。だが、この技の真髄はーーーー
「光芒『月虹ノ神成』」
そう、超圧縮した妖力を敵にぶち込む必殺必中の技だ。距離などあってないようなものだ。だからこそこの技を編み出した彼の陰陽師は、平安の世に於いて最強の二文字を与えられたのだから。
「不意打ちなどと言ってくれるなよ。戦いにおいてこれも戦略の一つなんでな」
アハっーー。
――― CAUTION―――
「なんだ……この音は?」
突如何処からともなく鳴り響く不快な音。視線は未だ土煙の晴れていない場所を注視しそれ以外の感覚を周囲へと向ける。妖力が空に当たる瞬間、彼女は笑みを浮かべていた。そしてその後にこの不快な音……必ず何か仕掛けてくるはずだ。
「アハハハハ! びっくりしたよ! まさか不意打ちを仕掛けてくるなんて! でも、もう飽きちゃった。これで終わりにするよっ! 爆符『ギガフレア』」
土煙が晴れた先には傷一つない空が笑いながら立っていた。おかしい、確かに被弾した瞬間を私はこの目で見ている。なのに何故だ?
「それよりも無傷云々は置いておいて先ずはこの技をどうにかしないとなーー」
空の放ったギガフレアは先ほど放たれたメガフレアの倍以上の大きさ、倍以上の妖力、そして速度で迫ってきていた。
「うーむ……避けるのは無理か」
そして、目の前が真っ白に染まる。
「侵入者排除 確認」
直撃、そう確信した空は煙が晴れるのを待たずに元いた位置に戻るために振り返っていた。あの妖獣から溢れていた妖力の反応も失せ興味も無くなった空の頭には地上をどう蹂躙するかという物騒な考えしかない。この作戦が成功すれば主人であるさとり様に褒められるとそんなことで頭をいっぱいにさせていた。だからこそ気づくことができなかった。自身の肩に風穴が開いたことを。
「おいおい、闘いの最中に敵に背を向けるのは感心できないな」
「うにゅ? おかしいなぁ、完全に気配が消滅してたのに……なんで生きてるの? もしかしてその髪の毛の長さが関係してる?」
「あぁそうだ、咄嗟の賭けだったよ」
そう言いながら空に見せびらかすように発動したスペルカードを指に挟む。起承転結から成る三つ目の技。
「転符『滄桑乃変・流転』 こいつは守りに特化させた技だ。発動が間に合うかは本当に賭けだったよ。この技は名の通り変化を司る、その副作用で髪が伸びた訳だが……そして、これが最後の工程。結符『臨命終時・幕引き』
「終わるのはおまえのほうだ! 爆符『ペタフレア』アァァァ!」
静と動異なる二つの術がぶつかり合い空間を削る。お互いの全力を持ってこの戦いに終止符とした。
「はぁ……何とかなったな。少しーー疲れた」
危なかった。あと少し、ほんの少しでも妖力が尽きるのが早かったら私が地面に沈んでいただろう。ここまでの接戦久方ぶりだ。
「やっと見つけたぜ!私たちの邪魔をしたあの猫はお前の仲間か? 仲間なら悪かったな。退治したぜ」
「あんたの妹とか言うのに命狙われてるんだけど、どうにかしなさいよ! というか、あんたそんな見た目だった?」
「少し……待っててくれ。今、体力を回復してるから」
先ほど出会った黒白の少女と何処か懐かしく思う紅白の巫女がいつの間にか立っていた。一瞬、やられるかと身構えたが二人にはどうやら敵意はないようだ。それどころか私の心配をしてくれている。
『霊夢に魔理沙、二人とも聞いて頂戴。先程間欠泉が停まったのを確認したわ。二人とも異変解決ご苦労様』
突如巫女の横に浮かんでいた陰陽玉から声が聞こえてくる。どこか懐かしい声の主人は私の存在に気づいていないのか二人に労いの言葉を送っている。
「その声、紫か……久しいな」
少しだけ力が戻ってきた。まさか再び彼女の声を聞くことができるとは思ってもいなかった。何足る奇縁か。
『え、えぇ……本当に久しぶりね。ラグナ、息災だったかしら』
「ぼちぼちさ」
「なあ、紫。話の途中で悪いんだけどよ、今回の異変を解決したのは私達じゃなくてこいつなんだ」
「まぁ、私が楽できたから誰が解決したとかどうでもいいわ。それより紫、スキマ繋げなさいよ早く帰って湯に浸かりたいわ」
『そうだったの……えぇ、わかったわ。それと異変を解決したラグナ。あなたも着いてきなさい』
「ま、待ってくれ! 私は罪を犯し、ここに封印された。それなのに高々異変とやらを解決しただけだ。地上出るのは」
「何言ってんだ、異変を解決した後はパッーと労いの宴会が必要だからな! 異変解決した主役が居ないと盛り上がらないだろ」
「疲れてるのに宴会なんてやらないわよ。やるなら魔理沙、あんたが準備しなさいよね。ほらアンタも早くスキマに入りなさいよ置いて行くわよ」
有無も言わさず引っ張られてスキマへと転がり落ちた私はもう、なるようになれと考えることを放棄した。
そして人知れず行われた地底からの侵略は誰の気に留まることなく静かに解決された。
つづく
2024 0323 修正




