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東方狐著聞集  作者: 稜の幻想日記
幻想郷
81/152

五十七尾 逃走する巫女

 

 なんなのよ! こいつは! 


 突如、現れた全身真っ白から発せられる冷気に圧倒され攻めあぐね、苛立ちを覚え始めた頃。

 横を浮かんでいた武器の一つ、陰陽玉から声が聞こえた。

 今まで黙っていた癖に私が困ると口を出してくる。そんなことを考えながらも自然と口角が上がってしまう。




『霊夢……大丈夫?』



「大丈夫? なわけないわよ! なんなのよあの真っ白!」


『あの子は……雪夢。昔あった大きな異変を解決した一人よ』


「なら異変を解決した奴がこんな所にいるのよ?」


『それは――「人間が我ら鬼を騙すからさ」


 いままで酒を飲みながら観覧していた勇義が紫の言葉を被せて言った。

この鬼とあの真っ白にどんな関係があるっていうのよ。次々と襲い来るつららを弾幕を放つことで相殺しながら真っ白の出方を伺う。

 突然、吹雪のような攻撃が止まる。訝し気に真っ白を見るとあの冷たく見下ろす目でこちらを凝視していた。




「博麗の巫女、お前は何故この地底に来た」


「私が来た理由?それは……地底から吹き出した間欠泉から怨霊が湧き出てきたから怨霊を沸かした奴を退治するためよ!」


「そうか……八雲。貴様が人間に要らぬ悪知恵を教え込んだのはバレているが何か言い残す事はあるか?」


『やはり、そんなことまでばれていたのね』


一体何を話しているのかしら、この二人は?


「我ら鬼族は貴様を信用することは今後一切ないだろう、あの変わり者以外は」


「でも、あんた鬼じゃないじゃない」



「おいーーーー貴様、今何て言った?」

 

 不用心に巫女の零した言葉が真っ白こと雪夢の逆鱗に触れてしまう。その容姿からは想像ができないほどの妖力と重圧がこの一帯に吹き荒む。それは、歴戦の巫女である少女ですら飲み込まれてしまうほどに荒れている。


『れい――!夢。――博麗霊夢! しっかりしなさい!』


 だが、巫女は心底気に食わない相棒である妖怪の鼓舞と、博麗の巫女という自身の誇りによりその膝が身につくことはなかった。

 だが、依然として雪夢から放たれる凍てつく重圧が圧し掛かり足が強張ってしまう。


「悔しいけど、逃げる算段もつけないといけないわね……」


「 逃げる? 貴様はまだ生きてこの地底から出れると思っているのか。お目出度い紅白だ……霞と消えよ」


 ゾクリ――と背筋につららを入れられた感覚が全身を走る。咄嗟に身体をひねり、立っていた場所から離れるとそこには人一人分はあろう大きさの氷のつぶてが放たれていた。


危なかった。あと少し反応が遅れたらあの氷の真下でご臨終だったわ。


「ほう、避けるか。ではこれならどうだ」


 目の前で見えない何かが爆ぜる。しかし、巫女は爆発する寸前で回避行動を取っておりその全てを避けきって見せた。

それを見た雪夢は苛立ちを隠さずに舌を打つ。しかし、すぐにその顔は残忍な笑みを貼り付ける。

 その顔を見た巫女は直感的に全身に霊力を回していた。



「白魔『白い闇』」





  その瞬間世界が真っ白に染まった。






 何なのよこれ! 何も見えないし、感じない。

一体どういう状況なのよ。あいつの奴力すら感じなくなった。一旦霊力を回すのを止めるかーー。駄目ね、止めた瞬間大変なことになる気がするわ。

 既に自身の手元すら見えなくなっている。徐々に身体の感覚も消える。ここまでかという考えすら過ってしまう。


「……まさか、ここで終わるなんて私もついてないわーー。……? これは」



突如、巫女の前に一枚のスペルカードが現れる。それは今まで危機を救ってきた自身の最終奥義と言える一枚だった。なぜカードが勝手に浮いてるのかと些細な疑問を振り払い感覚のなくなったその手で掴み取り普段と同じように静かに宣言する。


「 『 』」





赤と白のが混じっていた世界が真っ白に染まった。





 

 終わったか。人間の癖に私にこの技を切らせるとは敵ながら天晴れだ。惜しむべきは八雲の走狗だということだろうか。



「八雲紫よ、見ていたか? お前が珍玩する博麗の巫女が葬られる様を、これに懲りたなら二度と我ら鬼族に干渉しないことだ。ーーーー次は貴様が誠に守りたい物ーーーー幻想郷を消す」


幻想郷の賢者に対する挑発と宣戦布告。

脅しなどではなく本当に消すという意思の籠った声色で何ない空間を睨みつける。



「誰が死んで、誰が世界を滅ぶすって? 寝言は寝ていいなさいよ! 神霊『夢想封印 瞬』」


 突然、真後ろから現れた博麗の巫女に雪夢は虚をつかれ、ほんの一瞬反応が遅れてしまう。その隙を見逃すはずもなく巫女の宣言したスペルカードが発動してしまう。


「ちっ!」


避けるのは不可能だと感じとり雪夢が取った行動は防護の構えだった。しかし、その構えをとる瞬間に内側から見えない何かが爆発した。


「ぐっ!」


 爆風によって生じた土煙を妖力で吹き飛ばし、視界を確保した雪夢が見たものは遠く離れて行く博麗の巫女の姿だった。


「よもやよもや、生きていたとは……くくっ、敵ながら本当に天晴れだ。この私に傷を与えあまつさへ逃げ仰るとは。あぁ、名を聞くべきだった……次は殺す」

 そう言い残し、雪夢は待ち人の方へと向かって行く。その姿はまるで恋い焦がれていた相手にやっと会える乙女のような表情であった。




「っ痛……あの真っ白白介、最後の最後に弾幕なんて放り込んでくるんじゃないわよ!」


 

「大丈夫? まさかあの子から逃げ切るなんて……流石、博麗霊夢というべきなのかしら」


「こんな擦り傷なんともないわよ。それより、この異変を解決したら色々と聞きたいことがあるから答えなさいよ」

氷柱型弾幕による傷を手当てしながら一緒に並行飛行している陰陽玉を通じて語りかけてくる八雲紫へと返事をする。


「えぇ、そうね。今はまだ関係のない貴女を巻き込んだお詫びに知っている事を全て話すわ。八雲の名において約束するわ」


「なら帰ったら覚悟しときなさい」


こうして、強敵から逃げ延びた博麗霊夢は普通の魔法使いを自称する友人が飛び去った方向へと飛んでいくのであった。



つづく

2023/06/14

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