五十四尾 黒白エプロンと狐
2022 1231
「それにしても、さっきの巫女は霊歌以上の霊力と洞察力だったな。もし戦いになっていたら……」
そんなことを考えながら帰路を歩いているときだった。
突然後ろに何者かの気配を感じた。気を抜きすぎていたのかこの距離になるまで気が付かなかった。まるで、突然湧いてきたかのように現れた気配の主は攻撃を仕掛けるわけでもなく声をかけてきた。
「そこの、妖怪。待ちやがれ!」
誰のことだろうか。私のことじゃないだろ。妖怪ならそこらへんに居るからな。
「おまえだよ! そこの、狐!」
歩きはじめようとした瞬間声の主が声を荒げる。あぁ、私のことだったようだ。
勘違いとはいえ少し酷いことをしてしまったな。ここは誠意を持って話を聞こうか。
「なにか?」
「いや! なにかじゃないだろ! あ、ちょっと待て勝手に動くんじゃない! 私を無視すんな!」
え、えぇーなにこの黒白エプロン。見た目からしてまるで盗人のようだな」
「おいおい、誰が黒白エプロンの泥棒野郎だって? 」
「そこまでは言ってない。……なんで私の考えてることが読めるんだ?」
「お前が声に出してたからだよ!」
あちゃーやってしまった。気を抜くとすぐに心の声が漏れてしまう。しかし、久しぶりにこの失態を犯してしまった。弛んでいたのだろうか?
「それは、失礼した」
「まぁ、いいんだぜ」
あ、許してくれるのか。なかなかいい黒白エプロンだな。さてそろそろ。
「それじゃあ私はこの辺で」
「いやいや」
チッ!引き留められた!
「そんな露骨に嫌そうな顔をするのは止めてくれないか?」
「別に嫌ではないが……。しかし、今日はよく人間に会う日だ。なに要件次第なら聞いてやらないこともないぞ」
先ほどの件も含めて質問くらいなら答えてあげようと提案する。
「怪しい奴に目的をペラペラと話すバカがいるかよ。疑わしい奴には弾幕をだぜ!」
そう言いながら黒白エプロンは手に小さな八卦炉のようなものを突き出してきた。しかし、この声……まさか。
「恋符『マスタースパーク』!!」
マズイ!と思ったときにはもう遅く、目の前が閃光に包まれる。咄嵯に腕を前に出し防御の体勢をとるがその攻撃の余波により吹き飛ばされてしまう。
岩に叩きつけられた衝撃によって身体中に痛みが走るがそこは妖怪、意識を失わずに済んだ。そして、私を吹き飛ばした張本人はこちらに向かって歩いてくる。
「名も知らぬ妖怪よ安らかに眠るんだぜ」
「まだ死んでないわよ。まさか幽香と同じ技を使う人間がいるなんて本当に驚いたわ」
「なんだ生きていたのか。ところで今気になる名前が聞こえた気がするんだが、もしかしてお前、風見幽香のことを知ってるのか?」
「知ってるも何も、友人だよ」
「あの、風見……幽香と?」
「そうよ。しっかしまぁ驚いたわ。あの幽香が人間の弟子を取るなんてね。貴女の『マスタースパーク』素晴らしい威力だったわ」
これは嘘偽りない賞賛だった。まさか本気ではないとはいえ術を展開した防御を真正面から破られたのは幽香以来の出来事だったからだ。しかも、人間の若い少女の放った技によってだ。それにしても幽香も丸くなったんだな。
などと考えていると黒白エプロン改幽香の弟子は少し気まずそうに頬をかきながら衝撃的な言葉を言い放った。
「あーいや。あのマスパは風見幽香の技をパクっただけなんだぜ」
「は? それが本当ならとんでもない人間ね。妖怪の編み出した技を盗める人間か……知らぬ間に上の世界は魑魅魍魎が跋扈するようになったんだな」
そんな私に黒白のエプロンの少女は「そんなことないぜ」と返答してきた。
そんなことないわけないだろう。先ほどの巫女といいこの少女といい、普通ではない人間にしか出会っていない。
「そういえばアンタ他にも人間に会ったって言ってたよなもしかして紅白色の服を着た巫女だったか?」
「ああ、そうだ。それと私の名前はラグナという。まあ、何かの縁だ君の名前を教えてもらえないだろうか?」
「へぇ、ラグナっていうのか。私は普通の魔法使いこと、霧雨魔理沙だ」
「魔法使い……確か西洋の魔の力を使う者たちのことだったか。ということは人間じゃなく同業者だったのか」
「いや、私は魔法の使えるただの人間だ。おっと私はそろそろ行くとするよ。これ以上父草を食ってたら霊夢の奴に先を越されちまう。それじゃあな」
そう言って魔理沙は待っていた箒に跨り高速で駆けて行った。
魔法の使えるただの人間とこれまで会った人間の誰よりも霊力と観察眼を持った巫女。今日だけでとんでもな人材と出会ったな。特に魔法使い、霧雨魔理沙は私と性質が似ている気がする。もしまた会うことがあれば色々と話をしてみたいものだ。
「さて、今度こそ帰るとするか」
つづく




