五十三尾 異変の始まり
2022/11/15 修正
「うぅん----あさか」
地底だというのに差し込んだ陽の光を浴び目を擦りながら起きる上がる。地霊殿を訪れてから早くも数日が経っていた。あれからスペルカード作りに夢中になって外に一度も出ていない。おかげか色々なカードを作ることができた。
「さて、朝食でも摂るか」
◇
うーむ、この台所使いにくい、ヤッパリ適当に作ったのが失敗だったのだろうか?
「まぁ、考えても料理は出来ないんだけど、よし作るか」
冷蔵庫を開けて食材をを取り出す。揚焼鍋に油を流し食材を放り込む。火加減と味付けが難しいが一人で食べるのだから気にすることはないだろう。さて、完成だ。
「いただきます」
うまい。やはり朝食はご飯に味噌汁、焼き魚に限るな。
「----ッ⁉︎ 何だ今の神力は……」
突然凄まじい神力が発せられたのだ。それもかなり近い場所で。私は箸を置き神力を辿ってみる。するとそれはすぐに見つかった。
「……調べに行きたいが、残すのは勿体無いな。……よし」
うぷ……出発だ。神力が発生場所はーー。
「旧灼熱地獄跡?」
おかしい、何であんな何もない場所でいきなり………考えていても仕方ないか。
玄関の扉を開き空へと飛び立つ。そしてそのまま一直線に目的地を目指す。
「ここら辺だと思ったが」
辺りを見回すが何もない。だが神力は確かに感じる。あーこれはもしかするとすれ違いになった? 懐かしい神力も感じたんだけどな……。
「仕方ない帰るか」
踵を返し帰ろうとすると後ろから声をかられた。
「侵入者……ハイジョ」
振り返るとそこにはさとりのペット。霊鳥路空が佇んでいた。普段とは違う不気味な雰囲気とあり得ない量の神力をその体から放ちながら、敵意を露わにしながら。
「何か用かい?」
私は刺激しないようにそう言うとその子は答えた。
「敵対意識を確認、排除スル!」
そう言い放った瞬間にはもう私の目の前にいた。
「なっ! ちょ----」
拳を振り上げ私に向かってくる。私は咄嵯に身を捻り回避する。しかし相手は止まらず二撃目を放ってきた。私はそれを何とか避け反撃しようと身構えるが次の攻撃は来なかった。
「いきなり何をするんだ」
私が聞くと彼女は答えた。
「抵抗を確認。全能力を持ってハイジョすル」
彼女の体が薄く光ると同時に膨大な神力が溢れ出す。
右腕から生えた制御棒に力が収束する。
――caution――
なんだ、この不快な音は。警告音が頭の中で鳴り響く。こいつは危険だと本能が告げている。しかし、回避行動を取るよりも早く、その右腕から無情にも弾幕が放たれる。
ーーこうして私は彼女の放った弾幕に飲み込まれたのだった。
◇
お空の様子をずっと近くで見ていたあたいは憎き陰陽化け狐のラグナとの戦いを観戦していた。
「あの、地上から来た神。お空に何をしたのさ!?」
お空の様子が急変したのはあの二人組が去った後だった。まるで魂が抜けたかのように呆然と立ち尽くし、そしていきなり暴れ出したのだ。
「あいつらが何かやったのはわかってるけど、どこに行ったかもわかんにゃい。あ、ラグナが消えた」
流石に暴走してるお空に勝てるわけがないでしょうよ……にゃれにゃれ。
◇
痛たた、ここはどこだ? 目が覚めると旧灼熱地獄跡からかなり離れた場所にいた。
「あら、ようやく目が覚めたのね」
「ん、君は確か水橋パルスィだったか」
私が起きたことに気づいた水橋パルスィが不機嫌そうな顔で近づいてくる。
「あら、私の名前なんかを覚えてたのね。妬ましいわ」
睨まれてしまった。どうやら気に触ることを言ってしまったようだ。
「あー睨まなでくれると嬉しいんだが」
さらに、睨まれてしまった。
「それで、どうして貴女はこんな場所まで吹き飛んできたのかしら」
「えっとそれはだな……」
私は彼女に今までの経緯を話した。すると彼女は納得してくれたようだ。
「なるほど、つまりあなたは意気揚々と調査に出て、元凶にボロ負けしたってことね」
「まぁ、簡単に言えばそうなんだけど言い方が悪いな」
あ、少しにやけたな。人の不幸が好きなのだろうか。
ーーマスタースパーク!
ーーきゃあああ
!!
「な、何だ!?」
突然聞こえてきた悲鳴と、聞き覚えのある技に驚く私。すると彼女はクスリと笑いながら言った。
「観に行きましょ? 面白いものが観れるかもしれないわよ」
「あ、あぁそうだな」
いや、待てよ。もし先ほどの技がマスタースパークだとしたら……やばいな。いま、幽香と再会して無事でいられる自信がない。
「あのーやっぱりやめておくよ」
「そう、妬ましいわね」
「何が!? はぁ……一応、手当てしてくれてありがとう」
あ、また睨まれてしまった。それにしても耳が真っ赤だ照れ隠しなのだろうか。
「ふん、感謝できるなんて妬ましいわね」
支離滅裂な言葉を残しパルスィは悲鳴の聞こえた方へと向かってしまった。
別れてから数分後。
ーーキャアア妬ましいイィ。
どうやら、彼女もマスタースパークの餌食になったようだ。
「行かなくて正解だったな」
安堵のため息が出る。
「待ちなさい。そこの怪しい妖怪」
不意に背後から声をかけられたので振り返るとそこには黒髪紅白な巫女がいた。
「おや、みない顔だ。その服装……さては博麗の巫女かい?」
「あんたが地霊付き間欠泉を起こした犯人かしら?」
「え、いや私はそんなことはしていないぞ」
「嘘つくんじゃないわよ。この異変はどう考えても地底で起こってるじゃない!それに、あんたみたいな怪しい奴の言い分を信じると思ってんの?」
確かに彼女の言う通りだ。だが、なぜ私を疑うんだ。
「だから私は知らないと言っているだろう。それに、先程どんぱちしたばかりで疲れてるんだ。他を当たってくれ」
「へぇ……でもね、私の前に立ち塞がった妖怪は問答無用で退治することにしてんのよ」
まるで辻斬りのような巫女だ。さて、どうしたものか。
「残念だがスペルカードを一枚しか所持してないから戦うつもりはないんだ。それに、ここから先は何もないしな」
「ふぅん。気が変わったわ。それなら異変解決の邪魔をしないで頂戴ね」
え、信じてくれるのか、意外だ。もっとしつこく食い下がってくると思っていたのだが。
「なによ、まるで『え、信じてくれるの?』って顔は」
「い、いや。まさか信じてくれるとは思わなくてな」
「巫女の勘よ。なに? それともさっきのは嘘ってこと?」
「嘘ではない。本当にこの先は何もないんだ」
「冗談よ。それじゃあさっきも言った通り邪魔だけはしないで頂戴。もし邪魔をしたらほんとに退治するから」
博麗の巫女はそう言って旧灼熱地獄跡の方角へと飛んで行った。
どうにか、退治だけは免れたか。しかし、あれが今の博麗の巫女か……霊歌以上の霊力だった。今の状態だと勝てないだろうな……。それはそうと巻き込まれないうちに帰るとするか。
つづく




