五十尾 さとりと鬼と狐
20220408 修正
底に封印されだらだらと変わりない日常を送っている内に様々な変化が起きた。
例えば、人の心を読む覚妖怪が越してきたり、旧地獄と呼ばれる場所に地底の荒くれ妖怪共が住み着いたりしていた。
そして、いま私の目の前にいる妹が笑いながら茶を啜っている。どうしてこうなった……?
◇
少し前、いつものように黒菜とのやり取りを終え、黄昏ていると鳴らない戸が叩かれた。
「こんな場所に珍しい来客だな……二人か?――はいっ!?」
戸の先には満面の笑みを浮かべた愛妹と鬼の首領である鬼神桜花がそこにいた。
「お姉さま、久しぶりですね」
「ラグナ、久しぶりだねぇ」
私の頭は大量の情報で誤作動仕掛けていたが寸前のところで状況を理解し。二人を家へと上げることにした。
とういより半ば強引に家の中へと押し入られてしまったのだが。
「なんでお前たちがここにいるんだ?!」
「そうがっつくんじゃないよ。まぁ、話してやるさね」
そういって桜花はどこからか出した杯に酒を入れ飲みだした。
一口で酒を飲み干すと淡々と語り始めた。
「幻想郷の中の話ではないんだが我らが同胞が人間に敗れた。間一髪のところで命はとりとめたがね」
「鬼に勝つ人間か……安倍晴明ではないよな?」
私の問いかけに対し桜花は鼻で笑い口を開いた。
「話は最後まで聞きな。私たちも最初は第二の晴明が現れたと思って喜んださ……だけど違った。人間は我ら鬼族が最も嫌う方法で戦いを挑んできた」
「まさか……」
「そう、嘘をついたんだ。酒を振る舞うと言って毒を混ぜ私たちの同胞を殺そうとな。雪夢のおか助かったが、それに人間は楽には殺さなかったがね」
「それで地底に降りてきたのか。どうやら上は我ら妖怪の住みにくい世界になりつつあるんだな」
「ふん――いけ好かないがそういうことなんだろうね」
私と桜花の会話に参加していなかった雪夢が突然口を開いた。
「ところで姉様。この見慣れない食器は何でしょうか?」
気づいた時には遅かった、普段誰も来ないことで油断していた。黒菜の食器類を隠すのを忘れていた。
別にばれたところでといった話ではあるのだが私が地底に下る原因になった黒菜のことがばれるのは避けたいのだが……口を開くよりも早く雪夢の鋭いつららが首筋に押し当てられた。
「できれば姉様の首につららを当てるのはやめてほしいかなって思うんだが」
「ふふふ――まさか地底に封印されてから伴侶を作っているとは思いませんでしたわ」
「あははは――勘違いだ。その器は私の……私の分身のだ?」
「は?……私に聞かれましても困るんですが。まぁいいでしょう今回はこのくらいにしといてあげますわ姉様」
会わない間にかなり凶暴になっている気がする、それに練り上げられた妖力。相当鍛錬を積んだんだな、桜花に至っては会うたび強さの段位が上がって言ってる気がする。
昔の私では、三尾もしくは四尾だと勝てないだろうな――今の私でも五尾は出さないと辛い戦いになりそうだ。
「姉様? 何を黙り込んでいるんですか……もしかして何か疚しいことでも」
「こらこらあまりお前の姉をいじめるんじゃないよ。急に来訪したからこいつも混乱してるんだろうさ」
「そうなんですか? それは大変失礼いたしました……姉様?」
「ん――? あ、いや二人が合わないうちに強くなっているなと考え込んでいただけだよ」
そう言った途端、雪夢と桜花の二人は口を開けたままぽかんとしてしまった。おや? 変なことを言ったか私。
「どうしたんだ二人とも? 何か変なことでも言ったか?」
「いえ、姉様がこんなに好戦的だったかと思いまして」
「流石の私も妖力を放出しながら品定めされたら慄くさ。でも、今日は遠慮しておくよ疲れているからな」
「そうか、それは残念だ。ところで妖力出していてのは本当か?」
「なんだい、無意識で出してたのか。アンタらしくないね地底生活で鈍ってるんじゃないだろうね」
「まさか、すこぶる調子はいいさ。ただ、ここ数年間常に厳戒態勢だったせいだろうな」
「厳戒態勢? それは一体ーー」
その時、桜花を遮るように玄関の戸が叩かれた。やれやれ、今日はどうも来客が多い日だな。立ち上がり、玄関へ向かっていると玄関を叩く力が強くなっていく。
「今出るから待ってくれ」
声をかけるとさらに玄関の戸を強く、先ほどよりも早い間隔でたたき始めた。
「だぁあ! うるさいな、誰だ!」
「私です」
扉を開けるとそこには不機嫌な顔で桃色の髪を揺らす少女が立っていた。何やら御立腹のようだ。しかし、心当たりが……
「いえ、今日は貴女には何も怒ってないですよ? とりあえずそこの鬼の頭領と妖狐を出していただけますか?」
桜花と雪夢に用事があるのか……所でなんでここに居るのがーー。
「雪夢さんでしたか、彼女の番に聴き出したからです。所で喋らないでも分かるからって心の中で会話するのやめてもらえます?」
「ん、すまんな。心を完全に読まれるのが新鮮でな」
「それで、覚妖怪がなんのようだい? 私というより雪夢にようがあるみたいが」
「あぁ、そうでした。酔っ払って暴れてる勇儀さんをどうにかしてもらえますか? うちのものが大変なことになってるんで」
「あーそれはすまなかった。今すぐ迎えに行くよ」
そういうと雪夢は家を出て行ってしまった。しかし、さとりは雪夢について行くわけでもなく家に入って行く。
「所で、貴女は客が来たにも関わらず玄関で立たせたままにするんですか?」
どうやら、私にも用があったみたいだ。さとりが訪ねてくるのもの珍しいのに私に用があるとは……明日は雨が降るのかね。
「何を言っているんですか地底に天気はありませんよ」
「ふむ、私もそろそろお暇しようかね。ラグナ、また遊びに来るから今度は酒を振る舞っておくれ」
「ああ、とびっきり上等な物を用意しておくよ」
そういうと桜花も家から出て行った。これでさとりと二人になってしまった。どうやら彼女はそんな事は気にしてないようだが。
「別に貴女が襲いかかってくるとは思ってませんからね。それに二人のほうが都合がいいので」
「それで、用事はなんなんだ? さとりがわざわざ訪ねてくるという事は急ぎの用事なんだろうが」
「えぇ、ここ数日……妹のこいしが帰ってきてないんです。妹の居場所をご存じではありませんか?」
「こいしの放浪癖は今に始まった事じゃないだろう。また、上でフラフラしてるんじゃないのか?」
「それもそうなのですが……今回はどこに行くかも伝えずに行ってしまったので心配なんですよ」
「唯一の親族だから心配になる気持ちもわかる。しかし、ここ最近見かけていないんだ。もしかしたら黒菜ならわかるかもしれないが……あいつがどこにいるかは私も知らないんだ」
「そうですか……では、失礼します」
「ちょっとまった!」
少し悲しげな表情を浮かべ重々しい足取りで帰ろうとするさとりを呼び止めた。
まだ何かと言いたげなさとりを制すように一つの提案をした。もし、これが成功すれば引っ越してきた鬼たちとの交流やほかの地底の住民たちとの情報交換ができるかもしれない。
あわよくば、こいしがつられて帰ってくる可能性もある。
「ふむ……確かにいい機会かもしれないですね。では、その手はずでお願いしてもよいです?」
「え? 私一人でやるのか」
さとりの『何当たり前のこといってんのかしら?」
心の声を読み上げないでほしいものだ。
「それが覚りですから。では頼みましたよ」
「まぁ、いいか」
かくして、地底の住民たちと交流するために催し準備が始まった。
場所どりはしてくれるらしいから私は参加者を集めるために家を後にした。
つづく




