四十八尾 最初の異変
2021/07/19 修正
クカカと笑っている天狐に紫と幽香は顔を見合わせていた。それも仕方ないだろう。なぜなら、黒い狐の全てを貪り破壊するあの攻撃を受け天狐は完全に消滅していたのだから。
そのため二人はなぜ彼女が私たちの後ろで酒を飲みながら笑っているのか理解できていなかった。そして天狐自身もそんな二人を見て笑っているだけだ。
「貴女のことですものどうせ最初から戦っていなかったんでしょ」
「くっふふ。さすが八雲じゃな。よう見破った妾は最初か最後まで観戦しておったのよ」
「あの量の神力を持った分身なんてありえないでしょ! あれは完全に……!」
「「なんじゃ? これでも信じれんか?」」
それ以上幽香の言葉は続けられることがなかった。それも仕方ないだろう自分の後ろからも天狐の声が聞こえてきたからだ。
恐る恐る後ろを振り返るとそこには悪戯を成功させたことを喜んでいる天狐が居た。
「「「ほれほれこれでりかいできたかの?」」」
さらに声が増え次は左側に煙管をすう天狐がにやにやと笑みを浮かべながら白い煙を吐いていた。
「わかったからそれ以上増えないで。本当に分身だったなんで……恐ろしい限りね」
頭痛がしてきたと幽香は頭を摩りながら自身の能力で生み出した向日葵を椅子にして座り込む。
「所で、既に解決したってどういうことか説明して頂けないかしら?」
未だナニカと戦っている黒い狐を指差しながら紫は天狐へと問う。天狐は浮かべていた笑みを止め指を鳴らした。
突如黒い狐が苦しそうにのたうちまわる。地の底から這い上がるような叫びをあげ遂に黒い狐は動かなくなった。
「くっふふふーーこういうことじゃよ」
またしても何処からか取り出したお茶を飲みながら呑気に団子を頬張る天狐を見て二人は呆れ返っていた。
「流石、ラグナの親っていった感じね……」
もう、何も言うまいと首を振る幽香に天狐はくかかと笑いを浮かべていた。
一方、二人のそばから離れていた紫は倒れ伏し動かなくなった黒い狐の側にいた。どうやら天狐の言った通り異変は解決したとみて間違い無いだろう。
◇
ここは、私は一体どうなったんだ。身体が重い
ーーナ
煩い、頭が痛いんだ。静かにしてくれ。
ーーラグ……!
「ラグナ!」
この声は……あぁ、そうか私はーー
「世話を……かけた。すまなかった」
どうやら私の中に巣食っていた黒い私は消え去ったようだ。朧げながら観ていた母様と黒い私の闘い。
「馬鹿っ! 謝るんじゃないわよ! 他に言うことあるでしょ」
「あぁ……皆んな、助けてくれてありがとう」
「くかかか これにて一件落着じゃな」
「そうはいかないわ。ラグナ、幻想郷の管理者として貴女に命じます。今ここで地底へと封印されるか妖獣としての生を終えるか選びなさい」
地底、要するに地獄の事を妖怪達はそう呼ぶ。
つまり、地底に行くか死ぬかどちらを選んでも同じだろう。
「ちょっと紫! あんた、どういうつもりよ」
「黙りなさい。例え私の幻想郷に仇なすものは友人であろうと肉親であろうと関係なく罰します。そして、私の裁断を邪魔しようものなら幽香とて例外ではありません」
そう言い切った紫の圧に幽香は沈黙を貫く事しかできなかった。そこまで彼女は本気なのだと幽香含め三人は感じ取った。
「幽香ありがとう。私は大丈夫、あとは紫の裁定に従うよ」
「ラグナ、確かに今回の件は貴女が望んだ事ではありません。しかし、力の暴走により起きてしまいました。幻想郷は甚大な被害を被っています。人里は死者は出てないもの怪我人で溢れ。幻想郷を守る博麗の巫女に至っては生死の境を彷徨っています。今後爆発する可能性のある貴女をこのままにしては置けません。ですが、貴女の命を奪うのも違います。なので、此処に管理者として私、八雲紫はラグナへ地底封印の刑を与えます」
最後に紫の見せた葛藤は管理者としてではなくラグナの友人の一人として最後迄悩み抜いた姿だった。だが、ラグナはそんな紫を抱きしめた。
「色々と世話をかけた。私を止めてくれてありがとう。それに幽香、雪夢、母様こんな未熟者の私を救い出してくれてありがとう」
そして最後にラグナはここには居ない霊歌に対してすまなかった……止めてくれてありがとうと残し紫の側へと近寄った。
「紫、何から何まで迷惑をかけてすまない。では、頼む」
「えぇ、あとのことはすべて任せて。だから今宵はさようなら」
「あぁ、さようなら」
そう言い残すとラグナは真っ白な光に包まれ消え去った。そこに残るのは幻想郷の管理人、最強の妖獣、そしてフラワーマスターの三人だけだった。
この異変を起こした者は人知れず消え去ったのだ。こうして、幻想郷を揺るがす最初の異変『黒獣異変』は解決された。幻想郷の住民たちは今日も忙しなく生きていくだろう。
つづく
「ふ、ふふふふふ これからが楽しみだ」
どこからともなくそんな声が聞こえた気がした。




