四十三尾 花の妖怪と巫女
2020 0528 修正
魂魄妖忌が白玉楼に戻ったその頃。
雪夢の持ってきた薬によって傷が回復した霊歌は黒い狐に対する対策会議を開いていた。
「今、黒い狐になったラグナ。基黒ラグナがどこにいるかさえわかれば次はなんとかなるのだけど」
「一応言っておくが我々妖獣と呼ばれる種族は人型の時と獣型の時のが妖力の質も量も違うんだ。だから困難だ」
「それがなんなのよ」
ジロリと睨みつける霊歌を藍が慌てて窘めた。睨まれた雪夢はまるで興味がないといった風貌に対してもさらに苛立ちを募らせていた。
「えーと、雪夢お姉様がおっしゃりたいことは死ぬ可能性もあるから油断しないでってことです! たぶんですけど霊歌さんが戦った時よりも一層凶悪になっているかもしれないので」
「わかってるわ。さっきのはいきなりすぎて訳が分からなかっただけだから。次は最初から本気出すわ」
「藍、変なことを言うな! たく……それより姉様の居場所だ。太陽の畑までは追尾できていたがいきなり途絶えた」
突如、荒々しい殺気が三人で会議している居場所に現れた。それに気づいた霊歌は咄嗟に霊力を纏った針をさっきの持ち主のいるであろう襖へと投げ込んだ。
「あら、随分激しい挨拶だこと。ところで貴女たちもラグナを探してるのかしら?」
何事もなかったかのように襖をあけ入ってきたのは緑色の髪と真紅の瞳を持った女性だった。その女性は霊歌へと一つ笑みを送ると針を投げ飛ばした。
「ちょ、あんた危ないわね! あんた誰よ!」
「貴女は……幽香さんじゃないですか。太陽の畑が襲われたそうですね。お怪我はありませんでしたか?」
「あら、雪夢じゃない。私は大丈夫だったけど畑はめちゃくちゃよ。まったくどう痛めつけてやろうかしら」
「ねえ藍ちゃん。あれ誰」
「風見幽香さんっていう方ですよ。紫様のご友人でラグナ姉様のご友人でもある方です!」
霊歌の問いかけを無視し雪夢と話し始めた女性を睨みつけながら隣に居た藍へと話しかける。
どうやら、藍もあの女性と知り合いのようだった。
「ふぅん――あなたが噂の博麗の巫女様ね。まだ子供じゃない」
「なっ! 馬鹿にしないで頂戴! 子供じゃないしあんたより強いわよ! それに私は博麗の巫女じゃなくて博麗霊歌っていう立派な名前があるの!」
「へぇ……試してみる?」
「ふ、二人とも落ち着いてください! 今は争っている暇なんてないんですよ!」
「だそうよ。私より強かったら名前で呼んであげるわ、博麗の巫女様」
「そういえば幽香さんはなぜここに来たんですか? もしかて、お姉様を探しいらっしゃったのでしょうか」
「ええそうよ。私の大切な子達をを傷つけられたから……お仕置きをね」
一瞬だった、風見幽香から発せられた怒気の含んだ妖力と殺気が部屋中を満たしたのは。
その姿は霊歌が構えるほどのものだった。
「それは本当にすいません」
「大丈夫よ。それより今わかったことがあるわ」
「なによ?」
「教えてあげない」
「あんたねぇ!」
「冗談よ、怒らないで」
くすくすと馬鹿にするような笑みを浮かべる幽香に対して霊歌はさらに声を荒げた。
しかし、幽香はそれすらをも馬鹿にするように笑っていた。
「怒ってないから早く教えなさいよ!」
「しかたないわね。今、ラグナは博麗神社の森の周辺にいるらしいわ」
「なんで、そんなことがわかるのよ」
「それは幽香さんの能力のおかげだ」
「能力?」
「そうよ。雪夢の言う通り私の【花を操る程度の能力】のおかげよ」
「ふーん、まあいいわそれより早く行きましょう!」
まるで興味がないといった風に部屋を飛び出ていった霊歌を幽香は獲物を定めたような目で見つめていた。
その姿をみた藍と雪夢は後に鬼より恐ろしいものを見たと語っていた。
つづく




