四十一尾 裏と表の邂逅
2020 0420
目が覚めると何もない真っ暗な場所にいた。体は動かない、というより身体がない。
(いったい何がおきているんだ……)
(声も出せないとは一体ここは)
考えを張り巡らせていると目の前に何かが現れた。それはどこかで見たことのある形をしていた。
「やぁ。私のオリジナル」
そう、それは私と瓜二つの顔をしていた。私と違う点は髪の毛と目の色ぐらいだろうか。
彼女はまるで漆黒の闇と思えるほどに黒かった。
(お前は誰だ!)
「あれ? 声出さないの?」
もう一つだけ私と違うところがあったようだ。この女はかなり性格が悪いと見た。私が喋れないことをわかっているのにけらけらと笑っているのだから。
(お前の仕業か、なぜこんなことをする? 何が目的なんだ!)
「そうだよ、私がお前をここに連れてきたのさ。目的? この様子を見てもわかんない? 」
(なんのために私をここに連れてきた? 答えろ)
「答えろ?………はぁ!?」
女の雰囲気が一変した。刹那、腹に鋭く重い痛みが走る。
咄嗟に来る痛みで理解が追い付かない……どうやらこの女の逆鱗に触れたようだ。
「お前は! 今の! 状態がわかってないの?! ねえ!」
憤怒の表情と狂気じみた笑いを浮かべながら女は拳を振るった。
(……)
しかし、私はそんな状況の中で彼女に対してある違和感を覚えていた。
そう、まるで赤子の癇癪の様なのだ。
「なんだよ! その目は!」
(ただ力に物を言わせ暴れまわる子供ね。貴女)
「ッチ……挑発には乗らないよ。ここの説明をしてあげる」
だが、彼女には私の真意が伝わらなかったようだ。それどころか馬鹿にするような笑みを浮かべながら何かを見せつけてきた。
(な!? これは)
それは博麗の巫女へ止めを刺し何処かへと飛んで行った黒い狐の姿だった。
どうやらこれは妖怪の山へと向かっているようだった。まだ吐き気を催す笑みを浮かべている女をにらみつけると気づいたようで笑みはさらに深くなる。
「あの狐はお前だよ。操っているのは私だけどねぇ! そういえばオリジナル、おまえは誰だって言っていたよね。その答えを教えてあげるよ。私はお前の嫉妬、怒り、憎しみが爆発した結果生まれた存在さ」
(私の負の感情が爆発して生まれた存在だと? それはあり得ないな、生憎、私はそんな感情は持ち合わせていない)
「負の感情がない? そんなことはあり得ないよ。それはお前がそう思っているだけで深層で着実に増え続けているんだから。まぁ、確かにオリジナルの負の感情が溜まるスピードは異常なまでに遅かったけど――西行寺幽々子の死で急激に増えた結果私が生まれた」
(幽々子が死――嘘をつくなッ!)
「嘘じゃないよ。現にオリジナルは暴走してるじゃんか。西行寺幽々子の負の感情を君の術で抑えていた結果、死んだことにより逆流したんだろうね。傑作だよ」
そういって手を叩きながら笑う女を睨みつける。しかし、女はそんな私を見てさらに笑い始めた。
「あぁ、そろそろ時間切れみたいだ。おやすみ、オリジナル」
唐突に笑みが消え無表情になった女を見た途端、私の視界は闇へと吸い込まれた。
「次に目が覚めた時はこの世界は消えているだろうね」
つづく




