四十尾 散りゆく桜
2020 0326
白玉楼にいた紫は目の前で起きている出来事を理解できないでいた。
「幽々子――どうして」
「お嬢様⁉ なぜ、なぜ⁉」
西行妖の下で横たわる幽々子を見つけた私の思考は停止してしまっていた。
すぐに幽々子の遺体を調べるとどうやら彼女は自分の首を切り自害したようだった。
西行妖に魅了された末の自害かと一瞬よぎったが彼女の傍らに置かれた遺書を読みすべてを把握した。
「妖忌、これはただの自殺じゃないわ。西行妖を見てみなさい」
「いったい何を言って……西行妖が少しづつ散っているだと」
徐々に桜を散らしながら枯れていく西行妖を驚愕の表情でそれをみる妖忌はある変化に気づいた。
「紫殿、お嬢様の体が……!」
西行妖が散るたびに幽々子の体が朽ちていた。下半身はすでになく、いまや指先まで桜のように散っていた。
「幽々子の遺言通りこのまま亡骸を使って封印するわ」
「分かりました。この老いぼれに手伝えることはありますでしょうか?」
そんな妖忌の言葉に私はもう一人の友人、ラグナの顔を思い浮かべ妖忌に手伝ってもらうことを伝えた。
「ラグナを探してきてくれないかしら? 彼女に封印の強化を施してもらわないといけないから」
「了解いたしました」
妖忌はすぐに屋敷を後にし、屋敷には紫だけが残っていた。
紫は眠っているかのように息絶えた幽々子の顔に触れてた。
「幽々子……あなたの苦しみを見て見ぬふりしてしまってごめんなさいね」
紫の幽々子へと向けた懺悔は散りゆく桜とともに消えていった。
つづく




