三十一尾 花と狐と過去と今
2019/0729 修正
その日の夜、私は介抱したお礼にと幽香の家で食事を呼ばれた。
「ところで貴女、私たちの出会いって覚えてる?」
「それはもちろん覚えているさ。幽香の討伐を依頼されて来たんだもの」
◇
今からだいぶ昔、まだ私が陰陽師をやっていた頃だった。その日同僚の安倍晴明から緊急依頼の依頼が届いたのが始まりだった。
「なんで休みの日に仕事をしなくちゃいけないのよ」
「仕方ないですよお姉さま」
最近姉離れが著しく見られる雪夢の後ろを歩きながら愚痴を垂れていた。
晴明の野郎『我はこのまま旅行に行くから後は頼んだぞ』って消えやがった。要はめんどくさい仕事を全部押し付けて逃げやがったのだ。
「よし依頼の目標を説得しよ」
「何時になくめんどくさそうですね」
「面倒くさいったらありゃしないわよ。もうすぐつくわね」
「着きましたね」
私と雪夢が向かっていた所は四季折々の花々が咲き乱れる太陽の畑と呼ばれる場所だった。
「さてどこにいるのかしら目標の花妖怪さんは」
「呼んだかしら?」
その時、私の脳が今すぐその場所から離れよと警告を鳴らしていた。それもその筈、いつのまにか何者かに背後を取られていたのだから。そして、その者は異常なまでの妖力を持っていた。
「なに⁉︎ いつから後ろにーーっ」
しかし、後ろを振り返るが誰もいなかった。
先程で確かにあった殺意、妖力、気配が消え失せていた。まるで最初からそこにいなかったかのように
「先程まで感じた妖力の気配が消えました。お姉さまここは撤退したほうがいいかもです」
「残念だけど逃がさないわよ。あなた達、何しにここに来たのかしら?」
今度は地面から声がした。
どうやら私たちは花妖怪の範囲に入っているようだ。雪夢に目で合図を送り私は雪夢と背中を合わせあたりを警戒した。
「そうね、人を襲う妖怪がいるから退治しにきたのさ」
「そう、でも舐められたものね。人間の娘が二人で私に勝てるとでも思ってるのかしら?
あまり舐めたこと言ってると消すわよ」
笑いながら言っているこの脅しは冗談ではない事を直感的に悟った。しかし、彼女は重大なミスを犯していた。
それは、私と雪夢の二人をか弱い人間の娘と勘違いしていたことだ
「それは怖いな。人間の私は体が震えるよ」
「ふふふふ、その割にはあなた物凄く笑ってるじゃない」
「あははは、怖くて怖くて仕方ないよっ!」
不意打ち気味に仕掛けた強打は軽々と避けられたが衝撃で地面を陥没させた。その瞬間起きた揺らぎを見逃す訳はなく追撃ともう一発、今度は腹を狙い打ち込んだ。
「ガッ⁉︎ っーーはぁっ!」
確実に入った! と思った瞬間、私の足が少しだけ宙に浮いた。
「がっ⁉︎ ゲホッ」
どうやらカウンターを決められたようだ。血の塊を吐き出し再度構えた。
どうやら花妖怪も乗り気のようで、傘を捨てて構えた。
それから約一時間の殴り合いの末私と花妖怪こと風見幽香は熱い握手を交わしていた。
「あなたなかなか強いわね。気に入ったわ、名前を聞かせてもらえるかしら」
「私の名前はラグナ、そしてあそこに座ってるのが妹の雪夢だ。あんたもなかなかの物を持っているようだ」
再度、私と幽香は熱い握手を交わした。
それを見ていた雪夢は後に「いや、顔じゅう真っ赤にさせて何してるんですか」と語っていた。
その後、私たち二人は少し会話に花を咲かせ畑を後にした。
「あれが大妖怪ですか……」
帰り道、幽香と遭遇して一度も声を発せれなかった雪夢が口を開いた
「あぁ、その通りよ。あれが大妖怪と呼ばれる者」
「結局退治はできませんでしたね。どうするんですか依頼は」
「まぁ、どうにかするわ。さあ、帰りましょ」
「はい。頑張ってくださいね。お姉ちゃん」
◇
「懐かしいわね」
幽香と昔を懐かしんでいるとふとあることを思い出した
「あぁ、そういえば会うたび手合わせしていたよな。今のところ私が500戦中300勝100敗100引だったけ?」
「違うわよ。私が301勝99敗100引よ」
幽香は何を言ってんのよと言いながら訂正した。
「お? 最後にやった時は私が勝ったんだが? 」
「何を言ってるのよ。あなたが私に『参りましたー』って言ったのよ?」
「やるか?」
「望むところよ。っと言いたいところだけど今日はもう寝ましょ」
お互い妖力を収めるとクスリと笑い合いあった。こうしていると昔に戻った気がする。
「それもそうだな。手合わせなら明日やればいいからな。ところで私はどこで寝ればいいんだ?」
「そうね……予備の布団があるからそれを使いなさい。それじゃあおやすみ」
そういうと幽香は欠伸をしながら自室に入って行った。どうやら限界だったようだ。私もそろそろ寝ようか。
「っ‼︎ ーーはぁ……はぁ……最近やけに頭が痛むな。疲れているのだろうかまぁ、寝たら治るだろ」
この時、起きた異変がのちに幻想郷を巻き込む大異変になることをこの時の私は思ってもいなかった。
つづく




