夢 想 天 生
地上の巫女が突然消えたことにヘカーティアは違和感を感じていた。消しとばしたはずの巫女の声が聞こえ何かをしたのはわかったがどこにもいない。しかし、気配はある。
「何をしたかと思えばただ消えただけ。笑わせないでほしいわ。地球【地獄に降る雨】」
高密度の弾幕が雨のように辺り一面に降り注ぐ。弾幕が止むと辺り一帯は弾幕によってマグマが吹き出し、まるで地獄とすら思わせる空間に変わっていた。
しかし、空間ごと破壊したのに霊夢の気配は消えるどころかさらに濃ゆくなっていた。
「……空間を吹き飛ばしたというのに消えるどころかさらに霊力が増えるなんてね。これは失敗だったわん」
『なら、今度はこっちの番ね』
どこからともなく霊夢の声が響く。刹那、ヘカーティアに大量の弾幕が襲いかかる。
しかし、これにヘカーティアは顔色すら変えずに指でそっと空を切った。すると、何もない空間が割れ全ての弾幕を吸い込んだ。
「見えた。これでおしまいよ!」
そう言ってヘカーティアは高密度な小弾幕を何もない場所に放った。
『っ!? 』
爆ぜた。眩い閃光が辺りを包み込んだ。
視界が戻るとそこには倒れ臥すヘカーティアと馬乗りになりお祓い棒を突きつける霊夢の姿があった。
「何が……起きっ⁉︎」
「残念ね。あんたが私と勘違いしたのはただの影よ。弾幕を放った瞬間にあんたを背後から蹴り飛ばしてやったってわけ。さぁ、負けを認めて降参しなさい、さもなければ封印するわよ」
「……それは勘弁願いたわね。わかったわ、私の負けでいいわよん」
ヘカーティアは両手を上にあげ降参のポーズを取ってやれやれと口にした。
だが、霊夢はそれでも警戒を解かずにお祓い棒を突きつけている。
それをみてヘカーティアはため息をついた。
「もう暴れないって言ってるんだけど……もしかして本気で暴れて欲しいの?」
「少しでもへんな動きしてみなさい。その瞬間、あんたの頭と体が離れるわよ」
「んもう! 怖いわね。地上人は」
そういってようやく拘束を解かれたヘカーティアは服についた土を払いながら霊夢へと文句を言いながら立ち上がった。文句を言われている霊夢はそれを無視して倒れている魔理沙とラグナの下へと向かった。
「ほら、二人とも起きて。幻想郷へ帰るわよ」
「ん……終わったのか。魔力が切れかかっているせいで少しふらつくぜ……」
ふらつきながら立ち上がった魔理沙を支えながら霊夢は未だ起きないラグナを見つめていた。
すると、純狐を抱きかかえたヘカーティアがそばに近寄ってきて
「その狐、早く力を補充してあげないと死んじゃうわよん。見るからに今までそうと無理な力の使い方をしていたようね。体がぼろぼろよ」
そう言って歩き出そうとするヘカーティアを霊夢は呼び止めた。
「待ちなさい! あんた達をどうするかまだ決めてないんだから勝手にどっか行かないで!」
「あら? そんなこと言っている間にその狐の命が助からなくなるかもしれないわよ? それにあなたは自分の霊力を分けてあげたらいいと思ってるだろうけどあなた程度の霊力じゃ分も持たないわよ」
私くらいの量じゃないとねと付け加え、ヘカーティアは抱きかかえていた純狐を下ろしラグナの下へと近寄りラグナの手を掴んだ。
「……よし、これでいいわね。この狐の命を助けてあげた借りは今回の件を不問とすることでいいわよん」
「な⁉︎ 何を勝手なことっ」
霊夢が言い終えるか終えないからのタイミングでヘカーティアと純狐の姿が消え失せた。
なんとも言えない空気がその場に満ちる。
「とりあえず、幻想郷に帰ろうぜ……疲れたしな」
気まずそうに言った魔理沙を見て霊夢は大きく息を吐いて一言つぶやいた。
「ええ、そうね」
つづく




