Stage2 アポロ経路に居る支配者
扉の先には月があった。
白く光るそれは、どこか妖しく哀愁が漂っていた。
「二人とも、あんまり直視しない方がいい。狂気に呑まれるぞ」
「それはわかってるが……綺麗すぎるぜ」
月をなるべく見ないように進むとナニカがいた。それは道を塞ぐように立っている。
「あらぁ? 生身の巫女と魔法使いがいるわ。って生身?!」
「なんだお前、私たちは見世物じゃないぞ。ははーんさては月のやつだな!」
一方的に決めつけた魔理沙がミニ八卦炉を突きつけた。だが、そいつは動じなかった。それどこらかクスクスと笑って魔理沙を挑発していた。
「なにがおかしいんだ! 」
「いえ、まさか夢の支配者である私が月の者と間違えられるとは……そういうことでしたか。では、貴方達の狂夢を処理してあげましょう。今は眠りなさい。貴方達の槐安は今作られた」
「おい、一人で納得して勝手に進めるんじゃないぜ! せめて名を名乗れ」
「あぁ、すいません。生身の人間と関わるのは久方ぶりなので……私の名前はドレミー・スウィートと申します」
「それで君は、ここを通してくれるのかい?」
「あらあらあら、貴女は……気が変わりました。巫女と魔法使いだけなら狂夢を処理した後に月に……しかるべき場所に送るつもりでしたが貴女がいるとなれば別です」
「そうか……魔理沙、霊夢。今回だけ私が相手をする」
そう言うと二人は何も言わずに私の背中を叩いた。 それを合図にドレミーに向かって距離を詰める。
「永遠の悪夢に沈みなさい」
「そんなもの叩き斬ってくれる!」
ドレミーの放った上下左右から飛んでくる弾幕を霊剣で切り捨てさらに距離を詰める。
だが、ドレミーは不敵に笑みを浮かべていた。
「もらった!」
「残念。貴女の刃は私には届きませんよ」
突如地面から現れた壁に遮られ、振り下ろした霊剣はドレミーに届かずひび割れ消えてしまった。
「ふふ、そうやって後ろに下がることも想定済みです! 夢符『ドリームキャッチャー』」
私を囲むように無数の球体が出現し、その一つ一つからレーザー型の弾幕が放たれた。
「っく⁉︎ はぁッ!」
無数の弾幕を最小限の動きで避け続けるラグナを見ていた魔理沙はある疑問が生まれていた。
「なぁ、霊夢。ラグナは妖怪だよな? ならどうして、霊力しか使わないんだ?」
「はぁ? 知らないわよ。別に使わないのは何か考えがあるんでしょ。それに、そろそろ終わるわよ」
「終わるってどういう――」
その時、魔理沙は僅かながら違和感を感じていた。
最小限の動きで弾幕を避けていたラグナが少しづつであるが距離を詰めていたのだ。
「起爆符『霊撃』」
ラグナの投げつけた札がドレミーに触れた瞬間爆発した。
煙が晴れるとそこには、横たわるドレミーがいた。どうやら、この戦いは本当にラグナが勝ったようだ。
「……本当に終わっちまった」
……危なかった。あと、少し発動が遅れていたら地面に倒れていたのは私だっただろうな。
夢の支配者を名乗るだけあるな。
「さて、ここは通させてもらうぞ?」
そう言って私は絶賛気絶中のドレミーを放置して先に進んだ。
「ちょっと、置いてかないでよ!」
「あ、おい! 待ってくれよ!」
置いていかれそうになった二人が駆け足で追いついてくる。
戦いに夢中で二人を忘れていた……。
「あーすまない。戦いに夢中になっていたみたいだ」
「まぁ、別にいいけど」
「なぁなぁ! 今度私と弾幕ごっこしてくれよ!」
「あぁ、この異変を解決したら幾らで付き合ってあげるさ。それじゃあ行こうか」
こうして私たち三人は狂気の都へ乗り込んだのであった。
つづく




