百尾 湯煙紅魔館
咲夜の案内のもと紅魔館の図書館へと向かった私は。
道中、フランドールの言っていた『狂気と同じ性質の妖力』の事について咲夜に聞いてみたが知らないと言われた。もしかすると紫なら何か知っているのではないかと思ったが現在幻想郷にはいないようで聞こうにも聞けないという状況だ。
そんなわけで紅魔館の知識である図書館の主に力を求めようと来たわけだが……その本人は本を読みながら私を睨みつけている。
「それで、何の用? 用がないのなら帰ってもらえるかしら? 」
私が来てからなぜか不機嫌な図書館の主、パチュリー・ノーレジッジは本を机に置いた。
「 『狂気と同じ性質の妖力』というものを調べに来たんだが……忙しかったか?」
「ふぅん。どうせ妹様に言われたのでしょ? 『私は狂気なんかじゃない。妖力が狂気と同じ性質なの』って具合で」
「あぁ、そんな感じで言われたよ。それで、何か知っていないか? レミリアにフランドールの狂気をどうにかしてくれと頼まれたんだが本当に妖力が狂気と同じなというなら手の施しようがない」
「妹様の言っていることは全部本当よ。あなた、妹様と戦っている時に何か違和感を感じなかった? 」
「違和感? そういえば……能力らしきものを使う時に狂気を感じたような」
「そう、なら話は早いわ。その狂気を切り取ってあげればいいのよ」
「切り取る? 」
首をかしげるとパチュリーはくすりと笑った。
「あなた、人面瘡って知ってるかしら?」
「あぁ、体に人の顔のようなものができる奴だろ?」
その人面瘡がどうしたというのか。パチュリーはまだわからないのかと言いたげに読みかけの本を置いて、私の方を向いた。
「人面瘡の退治の仕方に幽体を切り離して浮き出た人面瘡を封印するというものがあるの。妖力でも可能な技術ね」
「まさか、フランドールの幽体を切り離して狂気を封印するというのか?」
「少し違うわね。 妹様の妖力を具現化して狂気を封印するのよ」
「ちなみにやり方は自分で考えなさい。それじゃあ早く出て行って頂戴。本が読めないわ」
「あぁ、世話になった」
私は図書館から出るといつの間にか居なくなっていた咲夜を探していた。
しかし、妖力を具現化するか……どうやったらできるのか。 ……風呂にでも入って考えたいな。
「一旦、神社に戻って温泉で考えるか? っと……ここは大浴場? 紅魔館ってのはなんでもあるのか?」
私が目にしたのは大浴場と書かれた暖簾。 暖簾の先からはかすかに温泉の硫黄のような香りが漂っていた。
「しかし紅魔館に温泉ってのはなかなか合わないな」
「そうですか? 中はすごいですよ?」
「うぉ!? えーと、あなたは?」
「あ、申し遅れました。私は紅魔館の門番をしている紅美鈴と申します。あなたはラグナさんですよね?」
「あぁ、ラグナだ。えーと美鈴さん?」
「あはは、呼び捨てで構わないですよ。では」
美鈴はお辞儀をすると暖簾をくぐっていってしまった。
後を追いかけるか……? いやしかし、勝手に人様の家の風呂に入るのも……
「あれ、ラグナさん入らないんですか? 一番風呂なんでちょうどいいですよ」
「あ、いや。紅魔館に入る許可は貰ってるが風呂とかの許可は貰ってないんだ」
「あー。大丈夫ですよ。 さっき咲夜さんから『風呂に入るのなら風呂に入りたがってるお客様を誘って入りなさい』と言われましたから」
「そうか、それなら入ろうかな」
「はい!」
しかし、なんで咲夜は私が風呂に入りたいと知っていたんだ? まぁ、いいか。
「脱衣所も広いんだな……」
「あはは、浴場もすごいですよ。しかしラグナさん」
「……? どうしたんだ私の胸なんか見つめて」
「なかなかの物をお持ちで」
「なんだ、お前さんもそんなに変わらないだろう。むしろ美鈴の方が大きいしな」
こんな会話を霊夢に聞かれたら夢想封印だろうな……何やかんやで気にしていたようだし。おかげで温泉に一緒に入ってくれなくなったしな……
「そうですか? ふふ、それじゃあ入りましょうか」
「あぁ。行くか」
……正直に言うと空いた口が塞がらなかった。まさか、浴槽が数十個もあるとは……
「ね、言った通りでしょ? 中もすごいって」
隣で湯に浸かる美鈴が笑いながら言った。 正直私はそこまで広いと思っていなかったが紅魔館ってのはなんでもありのようだ。
「あぁ、驚いたよ。まさかいろいろな効果の湯があるなんてな。さすがに露天風呂はないか」
「露天はお嬢様が入れないですからね〜。っとそろそろ私は上がりますけどラグナさんはどうしますか?」
「もう少しだけ入らせてもらうよ。考え事もしたいから」
「わかりました。それでは」
美鈴は一礼するとそのまま浴場から出て行ってしまった。一人残った私はお湯で顔を濡らしパチュリーから貰ったヒントについて考えていた。
「妖力を具現化ね。はて、どうしたものか……まてよ。私の霊剣や妖刀は具現化になるのか? なら、フランドールに妖力、狂気を形にしてもらえれば封印できるか? いや、しかし、協力が得れなかったらできないし」
「おねーさんって独り言が激しんだね」
「っ!? 誰だ……ってフランドールか」
いつの間にか私の隣につかっていたフランドールにびくりとなったがフランドールは気づかなかったようだ。 しかし、不貞寝をしていたはずのフランドールがなぜここに?
「 いやね。寝てたんたけど汗が気持ち悪くて入りに来たのよ」
「さらりと心を読まないでくれないか。それに吸血鬼が湯に浸かって大丈夫なのか?」
「ええ、問題ないわ。それよりお姉さんって胸がでかいのね」
「そうか? 普通だと思うが」
「ちぇ、強者の余裕ってやつね」
なぜか拗ねてしまったフランドールの頭を撫でてやるとくすぐったそうに頭を動かした。
「それでおねーさん。何を人で考えてたの?」
「お前の妖力のことだよ」
わたしの? と首をかしげるフランドールの頭を撫ででやると目を細めくすぐったそうにしていた。
「妖力の具現化をするとか言ってたやつ? フランも具現化ぐらいならできるよ」
「そうかできるか……できるのか!?」
「ほら、簡単だよ」
そう言うとフランドールはわたしに見せつけるようにふわふわと紅いカタマリを出した。
「これがフランドールの妖力か……紅いな」
フランドールはいやんと顔に手を当てうねっている。わたしはそれをスルーするとふわふわした妖力に手を触れた。
「っ?! 」
「あ、おねーさんの手が」
触れた瞬間わたしの右手に激痛が走る。 そして、右手を見てみると手首から先が無くなっていた。
「まさか、このふわふわしたのが狂気? 」
「はむ……ふぉうだよ」
わたしの手首を頬張りながらフランドールは続ける。
「ぷはぁ……普通、妖力って黒いらしいんだけど。フランの妖力は狂気と同じ性質だから紅いらしいの。 狂気っていうのは真っ赤なんだよ」
「真っ赤?」
「あれ、気づいてなかった? おねーさん今は目の色って赤みを帯びた青でしょ? だけど狂気に染まったら完全に赤になってる」
「それは気づかなかった。そういえば紅いなーとは思ったことがあるけど」
「あはは。おねーさんの口調今の方がかわいいわ!」
「急に笑わないでくれびっくりするだろ。私の口調は今のが普通なんだ」
「えぇ? そうなの? 作ってるようにしか聞こえないけどなー」
「まぁ、いい。それで話を戻すが……その紅い塊を封印したら狂気は治るのか?」
「たぶんダメ。塊の中まで狂気が侵入してると思うの。だから封印するなら塊の中をどうにかしないと」
「うーむ……なぁ、フランドール、お前はそれをどうしたい?」
「そりゃあ、妖力を纏うたび破壊衝動が起きなくなるなら治したい。それに、お姉様と一緒にまた、遊んだりしたいな」
哀しげな笑顔を浮かべながらそう言った。
私はフランドールの髪の毛をワシャワシャと撫でた。
「ん、くすぐったいよ。あれ、お姉さん。手が治ってる」
「ん? あぁ、お前の狂気的な何かを取り除くには両手がないと不便だがらな。治した」
「取り除く? 封印じゃなくて」
「あぁ、だからフランドールは妖力を一箇所に具現化してくれ。集まってきたところを消滅させる」
私が自分の両手に妖力を集めるのを見たフランドール私が本気だということに気づき一箇所に妖力を集めだした。
「お姉さん。集まったわ!」
「あぁ、『我は今は亡き古の神社の祭神なり。 秩序を守る神具よ今一度その姿を具現化せよ 狐【天の九尾】』 いくぞ!」
「な、なにその刀!?」
私の手に現れた刀を見て驚いているフランドールを無視し私はフランドールが集めた妖力の塊を斬りつけた。
「私の刀は全てを切り捨てる!」
私が斬りつけると同時に視界が真っ白に染まった。
後日、紅魔館のお風呂を吹き飛ばした私は罰として博麗神社の温泉を貸すことになった。 フランドール? 彼女は無事に妖力から狂気を取り除くことができたようで姉のレミリアといつも一緒にいるらしい。 なんで風呂が吹き飛んだのかって?
狂気の最後の抵抗だったのだろう。フランドールに二度と狂気が宿らないよう封印を施しておいたからこれから先狂気に染まることはないだろう。 そして私だが、あの爆発で両手をやられてしまって今は神社で安静にしている。神具を使ったことで両手を治す妖力が回復しないんだから困ったもんだ。
「神具を使うのはこれきりにしよ。はぁ……手がないと不便だ。霊夢!」
「なに。私、今とっても忙しいんだけど」
「あ、いやなんでもない」
煎餅をかじりながら寝転がっていた霊夢に睨まれ背筋に寒気が走った。 仕方ない、やることがない時は寝るに限る。
寝て起きたらても治るだろう。
「それじゃ、私は寝るとする。おやすみ」
「そう? なら私もお昼寝と洒落込もうかしら」
つづく




