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「……で? あなたは、何をやってるの?」
今、柏と細山の前で陽が仁王立ちしている。
男に連れて行かれた建物で待たされた結果、陽が入ってきたのだ。
「いや……偶然迷い込んじゃって……」
「それで通じると思うの?」
陽が普段からは考えられない恐ろしい形相で睨み付ける。
「思いません」
「そうよね? それで、なんであそこにいたの?」
「本当にすいません。勘弁してください」
柏が土下座するが、目の前に立つ陽の怒りの矛先は細山に向いた。
「あなたは?」
「……その、柏会長に言われまして……」
「ふーん」
陽が再び柏をにらむ。
柏は、蛇ににらまれたカエルのごとく動けないでいた。
「そうなんだ。柏さん」
「いえ……あの……二度とこのようなことはないように気を付けますので……」
「いいわ」
柏が頭を上げると、陽は薄笑いを浮かべていた。
「陽さん?」
「ちょっと来てくれる? いいところに連れてってあげるから」
そういうと、陽は踵を返して歩き出した。
*
夕暮れの生徒会室。
ここには、生徒会長の陽とその妹の希望がいた。
「話って何?」
「あなた、何がしたいの?」
問いかける陽の声は至って冷たかった。
「えっと……何の話?」
「とぼけないで!」
陽の怒鳴り声に希望は思わずすくんでしまった。
彼女がなぜ、ここまで怒り狂っているのか? 希望には理解できていなかった。
「私が何をしたのよ?」
「何をしたのかって、自分が何をしたのかわかってないの?」
「えっと……はい」
希望が正直に答えると、陽はあきれ返ったようにため息を漏らす。
「まったく……どうなってるのよ。あいつと言い、あんたと言い」
「結局、なんで怒ってるの……でしょうか?」
「まぁいいわ。それがわかって反省するまで待っていてあげる」
陽は、そう言い残して生徒会室から出て行った。
これにより、生徒会室には希望だけが取り残されていた。
「本当になんで?」
彼女がこの答えにたどり着くのは、ずっと先のことだった。
*
かつて、六条島があった場所。
その場所をこだまが訪れていた。
陽は、こちらでの仕事を終えた後、すぐに青空村に戻ったという報告を受けながら、こだまは島があった場所を見つめていた。
「それで、成功するのか? 例の計画とやらは」
「そこらへんは問題ない。そのための組織を立ち上げた」
こだまの横に立っているのは、望ヶ丘飛翔。元蒼竹高校生徒会長である。
「組織? 名前は?」
「驚くなよ。プロジェクトS……これが、組織名だ」
「プロジェクトSか……なるほど、さすがだな」
こだまとしては、もっと驚いてほしかったのだが、それを強要したところで仕方がないだろう。
飛翔は、六条島のほうに手をかざした。
「それで……こっちにも現地事務所立ち上げるのか?」
「もちろんだ。青空村と同レベルの建物をここらへんに設置する」
こだまが背を向けて、立ち去ろうとすると、飛翔が呼び止めた。
「勝算はあるの? あちらは非常に手ごわいぞ」
「わかっている。だが、所詮は一人の人間だ。問題はない」
こだまは、そのまま立ち去って行った。
「油断するんじゃねーぞこだま。奴は、そんな認識で相手取るような人間じゃない」
飛翔の言葉は、風にさえぎられてこだまには聞こえていなかった。
*
青空村の施設の中。
応接室と思われる部屋に柏と陽がいた。
「話というのは?」
「かしこまる必要はないわ」
陽の顔には、先ほどまでの怒りはどこへやら。いつも通りの優しい笑顔が浮かんでいた。
「さてと……単刀直入に申しあげさせていただきますと、あなたに協力してほしいことがあります」
「協力してほしいこと?」
「はい。あなたでないとできないことです」
陽は、自信に満ちた顔で柏を見ていた。
*
黒い。暗い。でも、青色になってきた。
この青は何の色だろうか?
私は、ここで一人考える。
希望という自分をこだまという兄を陽と姉を……
どうやったら、ここから出られるのか?
ここにきて、どれだけの時間が経ったのだろうか?
いつになったら出られるのだろうか?
この疑問が尽きる日は来るのだろうか?
*
遠くに青空村を望む展望台。
創平は、手すりに乗り出して青空村の跡地を見つめていた。
青空村の事件があった後に村の全体を把握するために設置されたものだ。
そのためだけというのに高さもあり、普通に観光用として利用できそうなつくりの展望台は、人がめったに訪れないため貸切状態だ。
「はぁ結構金がかかってるな」
これは、創平の率直な感想だった。
ことが大きいことは知っていたが、これほどの施設を設置していたとは……
「ここから、遠木という人物は何を思ったんだろうか」
かつて、ここには青空村内唯一の学校である青空村小学校があったらしい。
事件の半年ほど前から、この小学校で柏と遠木が何回か会っていたと聞く。
ここで、どんな会話があったのか、そして、あの日に何があったのか……柏は何を見ていたのか……これは、ずっと闇の中なのかもしれない。
創平は、踵を返して展望台を後にした。
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