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 どこからか吹いてきた心地よい風が遠木の頬をなでた。


「そうか…そういうことだったんだ…」


 青空村の中心にある青空小学校の屋上。遠木龍樹は、一人沈みゆく夕日を眺めていた。


「そうだったんだ…忘れててごめんね…(すもも)…君の好きなこの学校の桜は、毎年、ちゃんと咲いているよ…」


 遠木は夕日に向けて語りかける。

 桃嶋(ももじま)李という名の少女に…


「李…君は、僕のこと覚えてる?」


 帰ってくるわけもなく、成立するはずのない会話は、しばらく続けられていた。


「僕は決めたよ…君のために世界を作り直す。もう、あんなことが起きない世界が起こらない世界を作る。協力してくれるっていう人もいるんだ…まずは、この村からすべてを始めよう。新たなる世界を君に捧げる」


 遠木は、屋上で両手を広げてそう宣言し、一輪の花を置いて帰って行った。




 *




 青空村で、起こった事象を調査するという名目で設置された施設に、陽と創平が入っていく。

 創平は、先ほど見かけた柏のことが気になっていたが、遅かれ早かれ誰かに見つかって、ここに引きずられてくるだろう。などと考えながら、陽のあとをついていく。


「創平君。君は、どう思ってるの? お兄様がやろうとしていること…」

「例の計画ですか? 別にいいと思いますよ。まぁ原案は別の人物が考えているとみて間違いないでしょうが…」

「そこなのよ。私が気になっているのは…」


 これは本音だった。

 兄であるこだまがやることだから間違いはないはずだ。だが、誰のためにやっているのかと聞かれると、答えに詰まってしまう。


 希望の拘束に青空村および六条島の消滅…笛の存在とフェリーからの転落事故…いったいどうなっているのだろうか?

 疑問は尽きなかったが、これだけは言えた。

 こだまが計画を実行するに当たり、行く先々で邪魔している人間がいる。これは間違いなかった。


「どうしてかしら…」


 フェリーからの転落事故は、想定外だったようだし、笛を簡単に希望ヶ丘家に持っていったりしなかった。

 このことから察するに敵は身近にいて、目的のために殺人を行うこともいとわない人物…ということになるのだろうか…


「誰なんだろう…お兄様は誰と敵対してるのかしら…」

「さぁ…何せ、こだまさんは希望ヶ丘家の当主です…たとえ、身近の人間でも油断はできないということなのでしょう」

「そうね…必要以上に警戒しているだけってことならまだいいんだけど…」


 陽は、不安げに天井を見上げた。




 *




 何とか草の陰に身をひそめた柏と細山はその場から作業の様子を眺めていた。


 主にやっていることと言えば、穴をのぞきこんだり、何か計器を入れようとしてみたりと言ったものだった。

 これを見る限り、怪しい点は見つからない。


「本当に原因不明で調査中なんだな…」


 細山はそう言っているが、柏はそう思っていなかった。

 穴の中に計器が入らないことなど既存の事実のはずだ。なのに、それを穴に入れようとしているのはなぜなのか?


「こんなところで何をしてるんですか?」


 突然、後ろから声をかけられた。

 どうやら、自らの推測の答えを出すのに夢中になっていて、人が後ろに立ったことに気付けなかったようだ。


「えっとですねー間違えてしまったというかなんというか…」

「そっそうです! 柏さんが入ろうといったから仕方なく…」

「ちょっと! 細山!」

「あっすいません!」


 細谷が謝るが、すでに遅い。というか、作業員さんに謝る気は二人ともさらさらないらしい。


「こっち来い!」


 男が柏の腕をつかみ細山にも来るように促した。


「話は、あっちで聞かせてもらう」


 男が指差したのは、白色の建物だった。




 *




 黒い…黒い色だ…ひたすら黒い…どこまでも続く黒色…どこまで続くか確かめようと思っても、体が動かせないから確かめられない。

 ここにきて、どの程度の時間が経ったのだろうか? 三日…半日…一時間…案外、十分もたっていないかも知れいない。施行することしか許されないこの空間で、時間がどの程度流れたかというのはとんだ愚問だ。


「はぁ…なんでこうなっちゃったんだろう…」


 兄のいうことを聞かなかったから? あの兄がここまでするだろうか?


 だったら、なぜ兄は、ここに自分を閉じ込める? もしかしたら、外で何か起こっていて、ここが安全なのかもしれない。


 なぜ、手足を拘束され、動けない状態にされている? 私がここから動いたら不都合だからだ。


 脱出する方法は? 見当もつかない。


 さっきから自問自答の繰り返しだ。

 無理にでも何かを考えないと、この黒い空間に飲み込まれてしまいそうだ。


「そろそろ出してよ! お願い!」


 声を上げたところで返事は返ってこない。

 それに、そろそろ声を出すのも限界になってきた。


 いつになったら出られるのだろうか? それは分からない。


 自分は何をしたのだろうか? それもわからない。


 何一つわからないのか? いや、この事態を招いたのは、自分の行動だ。兄が考えていた計画に反対したからだ…


 だからと言ってそこまでする? よく考えてみれば、兄は計画のために何でもやる人間だ。


 希望はただ一人、闇の中で考える。



 読んでいただきありがとうございます。


 これからもよろしくお願いします。

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