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 名古屋駅の近くにある喫茶店で、柏が資料を整理しながらコーヒーを飲んでいると、マナーモードにしてある携帯電話が震え始めた。

 携帯を手に取ると、「草柳編集長」と表示されていた。


「もしもし」


 このまま電話するのを忍びなかったため、柏は電話をしながら、席を立つ。


「柏。確か昨日、六条島に行っていたよな?」

「はい。そうですが?」


 編集長が突然押し黙った。


「何かあったんですか?」

「…六条島が消滅した。10年前と同じようにな…」

「えっ」


 六条島が…消えた…あの時みたいに?


 柏は、呆然と立ち尽くしていた。




 *




 生徒会選挙も終わり、新生徒会主導のもと全校集会が開かれた日の午後…

 夕日を背に座っている柏の背中から夕日が差し込んだ。


「入りますよ」


 希望が部屋に入ってきた。


「まだ落ち込んでるわけか…忘れたら? で忘れられる問題でもないですし」


 柏の目の前には、新聞が一部おいてあるのだが、柏はめくってほかの記事を見るということもなく、一面を見つめていた。


 村が一夜にして消滅 翌朝近くの山で女子高生保護


 そんな見出しの記事だった。


「はぁ…これはさすがに予想外よ…」


 柏は、脱力したように机に伏せた。

 当然であろう。この記事に乗っている保護された女子高生というのは、他でもない柏だった。


「柏さん…」


 希望が、柏の肩に手をかける。


「どうして…どうして、こうなっちゃったの…」


 柏は泣き出してしまった。


 この村が消滅するという事象は、のちに青空村事件や21世紀事変の序章などと呼ばれることになって行き、柏は超常現象研究会の会長職を辞して青空村事件のことに没頭することになるのだった。




 *




 草柳編集長から連絡を受けた柏は、中京新聞本社の自分のデスクに来ていた。


 先ほど、編集長から六条島周辺の海域で取材をするように指示を受けたための準備をするためだった。

 今日、仕事が終わったら希望ヶ丘家によっていくつもりだったが、それはおそらく無理だろう。


 柏は、近くにあったカバンをつかんで編集室を出た。




 *




 柏は、自宅によった後、港から近くの島まで行くフェリーに乗り込んだ。


「誰かと思えば、玲子ちゃんじゃない!」


 声のしたほうを振り向くと、陽がこちらに手を振っていた。

 スーツを着ているところを見ると、仕事で乗り込んだのだろう。


「お久しぶりです」


 柏は、軽く頭を下げた。


「そうね。玲子は、もしかしたら取材?」

「えぇ…そんなところです」

「やっぱり…新聞記者なんて大変でしょう? こっちに就職してもよかったのに」


 陽は、そういった。考えてみれば、大学を卒業したころから会うたびに言われている気がする。


「はぁ…でも、今の職場が気に入っているので、お断りします」


 私がそう答えると陽は、残念そうにこう言った。


「まぁそうよね。顔が生き生きしてるもの。あなたならいつでも歓迎よ。私は、これから人と会うから失礼するわ」


 陽は、船の中へと入って行った。


「人と会うって…この船で?」


 柏の疑問の答えがわかることはないのだろう…




 *




 蒼竹高校生徒会室。

 夕日が差し込んでいるこの部屋には、こだまと陽しかいない。本来なら本日行った学年集会の反省会などをやっている予定だったのだが、急きょ予定変更となったのだ。


「すいません。クラスで先生に呼び止められまして…」


 そう言いながら部屋に入ってきたのは、生徒会会計の望ヶ丘望美。望ヶ丘は、申し訳なさそうな態度を貫きながら陽の横に座る。


 それを確認したこだまが口を開いた。


「今回、二人に来てもらったのはほかでもない。青空村の件だ」

「笛が見つかったんですか!」


 望ヶ丘が飛び上がるように立つが、こだまは首を振った。


「いや…見つからなかった」


 その答えを聞いた望ヶ丘は、おとなしく椅子に座りなおした。


「そうなると、こちらにない可能性が高いですね」


 陽が腕を組んでそういうと、こだまはすぐにそれを否定した。


「そうじゃないんだ。笛はこっちにある。偶然、ある人物の手によって村の外に持ち出されていた」

「ある人物?」


 望ヶ丘が、怪訝そうな顔でこだまの顔を窺った。

 当然だろう。本来なら、笛を持ち出せる人間などいないはずだ。


「あぁ…しかも、今、この学校にいる」


 その一言には、望ヶ丘はおろか、陽も驚いていた。こだまは淡々とこう続けた。


「超科学研究同好会の柏玲子会長だ。希望を回収に向かわせたから、もうすぐ戻ってくるだろう」


 こだまがそういったとき、誰かが扉をノックした。


「入れ」


 こだまがそういうと、扉がゆっくりと開く。


「笛…持ってきました」


 友人の持ち物をこっそりとくすねたことからくる罪悪感なのか、希望の表情は暗かった。

 こだまは、彼女に言葉をかけることなく無言でそれを受け取った。


「希望ちゃん! よくやったわね!」


 望ヶ丘が賞賛の言葉をかけるが、希望は頭を下げて、脱兎のごとく去って行った。


「行っちゃった…」

「希望には、俺から説明する。それよりもだ。今度は、この笛をどこに保管するかが問題となる」


 こだまが笛を机の上に置いた。


「いい場所が見つかるまで、家に置いとけばいいんじゃないの?」


 陽が提案したとき、日は傾きすっかりと暗くなっていた。



 読んでいただきありがとうございます。


 これからもよろしくお願いします。

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