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 柏は、いつも通りの場所で彼を待っていた。

 彼に初めて会ってから3ヶ月。校庭で咲き誇っていた桜は散って、今は緑の葉が茂っていた。


「柏さん…待ちましたか?」


 彼女を待たせてしまった彼氏のようなことを言いながら、遠木が歩み寄ってきた。


「いえ…手短に済ませたいので、さっそく本題に入ってよろしいですか?」


 この3ヶ月で遠木の態度が随分と変わったなと感じていた。

 最初は、ぶっきらぼうに答えていたのにいつの間にか敬語で話すようになり、感じもかなり良くなった。


「それで…ほかに思い出せそう?」


 遠木は首を横に振る。

 今のところ聞けている内容としては最初に聞いた言葉ぐらいだ。


「そう…無理に思い出さなくてもいいから…どうせ、私たちは、興味本位でやってるんだから」


 いつも通り、柏は、学校へ帰ろうとしていた。これ以外の事象に関しての資料が届いているころだから、早く帰らないと希望が資料の山に埋まっていそうだ。


「待って」


 遠木が、柏の腕をつかんだ。


「えっ?」


 柏は、何が起こったか理解できず、遠木が呼び止めていたという事実に気づくまで少し時間を要した。


「どうしたの?」

「見てほしいものがあるんです」

「見てほしいもの?」

「はい…僕の家まで来てもらってもいいですか?」


 学校に行かねばと思ったが、多少遅れたところで希望が文句を言うなどとは考えられないし、他に断る理由も見つからず、柏はそのまま彼についていくことにした。




 *




 向山は、大量の資料が積まれている机から迷うことなく一枚の紙を取り出した。

 そのせいで、微妙なバランスを保っていた卓上の資料が雪崩を起こしたのだが、そのことは気にならなかった。


「希望ヶ丘こだま、希望ヶ丘陽、希望ヶ丘希望そして、第80代生徒会副会長の望ヶ丘(のぞみがおか)望美(のぞみ)…この4人をよく見かけると遠木が話していました。なんでも、神隠しの直前によく学校の校庭にいたそうで、あなたに蒼竹高校に連れて行ってもらった時に全員の名前が分かったのだとか…」

「意外な組み合わせね…でも、希望が遠木と面識があったならそこら辺の話をしてくれてもおかしくないはずなのに…」

「そこが味噌なんですよ」


 向山は、先ほど手に取った資料を柏の前に差し出した。

 その資料には、4人の顔と名前が書かれていた。


「実を言いますとね、その4人が神隠しとかかわりがあるのでは? と思いまして…」

「まさか…」


 そんなことあるはずない。

 希望たちが、神隠しに関係していただなんて…


「まさかと言いますがね…思い当たる節があるんじゃないですか?」


 そう言われて、じっくりと思い返してみる。

 考えてみれば、他の件では一緒に活動していた希望だったが、遠木の神隠しに関しては、ほとんど一緒じゃなかったような気もするし、一回、彼を部室に招いたときは彼も希望も態度がおかしかった気がする。


「どうやら、思い当たる節があるようで」


 いつの間にか私はうなづいていた。




 *




 遠木の家は、青空村にある木造平屋建ての小さな家だった。

 何でも、築60年ほどになるらしいのだが、リフォームをしたらしく、この周辺では新しいほうに見えた。

 その家の奥にある遠木の部屋はいたって殺風景だった。

 リフォームの際に塗りなおしたのであろう白い壁と床に敷かれたフローリング、入って正面に窓があり、その前にきれいに布団が敷かれているベットがある。左に目を向ければ、相当使い込んでいるのであろう勉強机と教材の山、そして、石油ストーブが見えた。


「どうぞ、座ってください」


 押入れに机と座布団が入っていたようで、右のほうからそれらを引っ張り出している遠木の姿が見えた。


「はい」


 希望以外の他人の家に上がることなどめったにないため、自分でも滑稽なぐらい緊張していた柏は、ぎこちない動きで座布団の上に正座した。遠木は、そんなに固くならないでも…などと口ごもるが、柏が足を崩すことはなかった。

 半ばあきらめるような形で、遠木はちょうど反対側で胡坐をかいた。


 さて、石油ストーブが部屋に暖気を送り程よく暖かくなってきた頃、部屋の扉を誰かがノックし、遠木の返事を聞く前にその扉は開かれ、見た目からして40代後半だと思われる女性が部屋に入ってくる。


「龍樹! あんた、せっかくお友達が来ているんだから、お茶の一つぐらい出してあげなさいよ…」


 遠木の母親だと思われるその人物は、彼を見てから、その反対側に座っている柏を見た。


「あらあら…こんなかわいい子を連れてくるなんて…龍樹も隅に置けないわね」


 彼女の様子を見る限り、彼女でも連れてきたのかと思ったらしい。

 私がそれを理解して否定するよりも前に彼が、そんなんじゃねーよ! と大声を張り上げて、反論する。だが、彼の母も黙って引き下がるつもりは毛頭ないらしい。


「お茶入れてくるから、襲ったりするんじゃないよ」


 遠木の母は、そんなことをサラリと言ってのけてから、部屋から出て行った。


 先ほどのやり取りからか、重い沈黙があったが、遠木が口を開いた。


「えっと…さっきは、母さんがその…それは、置いといて…見てもらいたいものというのは…」

「龍樹! お茶入れたから取りに来なさい!」


 見事なタイミングで遠木の話を中断させた遠木の母と変なタイミングで話しかけるな! などと言っている遠木君…さて、本題に入れるのはいつなのだろうか…



 読んでいただきありがとうございます。


 これからもよろしくお願いします。

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