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 あれが最後の桜なのね…


 誰の言葉だったっか…

 遠木(とおき)龍樹(りゅうき)は、目の前に広がる桜並木を眺めながら考える。


 私も最後まであなたのこと忘れない…たとえ、世界があなたを忘れても、私は覚えていてあげる。だから、私のこと忘れないで。お願い。


 誰の言葉だったのか…

 桜並木を見るたびに思い出す。


 私の存在がこの世界に吹き込む始まりの風になるのなら、私はここにいる。


 誰の言葉だったのだろうか…

 桜並木を見ながら考えたが、答えにたどり着くことはなかった。




 *




 太平洋に浮かぶ小さな島。

 日に一回しか来ないという定期便が到着し、乗客が次々と降りていく。(かしわ)玲子(れいこ)もその一人だった。


 柏は、地図を片手に歩き始める。

 その地図には、港近くにある集落のはずれ…港のちょうど反対側に赤のボールペンで印がつけてあり、それを頼りに海岸沿いの道を歩き始めた。しばらく海岸沿いの道を歩いていると、小高い場所に立っている紅い屋根と白色の壁を持つ一軒の家が見えてくる。

 玄関口で、目的の人物の家であることを確認した柏は、その家の扉をたたいた。


「中京新聞のものですけれども。向山(むかいやま)さん、いらっしゃいますか?」


 留守なのだろうか? 返事はなかった。

 場所を間違えたのかとも思ったが、住所は、ここであっているはずだし、周辺にほかの民家を見つけることはできなかった。

 何より、玄関の横に「向山」と書かれた表札がかかっている。


「なんだよ?」


 柏が、引き返そうかと考えていたとき、そんな声とともに、探していた人物…向山高輝(こうき)が現れた。


「初めまして。中京新聞の柏です。お話を聞かせていただいてよろしいでしょうか?」

「…柏さんね。寒いんで中に入ってください」


 柏が差し出した名刺を受け取った向山は、それを懐にしまった。





 *




 某県青空村

 この村にある小学校の校庭にセーラー服を着た女子高生が立っていた。

 彼女は、この近くの高校で「超常現象研究同好会」を立ち上げ、自ら会長を務めていた。そんな彼女がここにいる理由は、ある人物に会うためだった。


「あなたが柏さん?」


 話しかけられた柏が振り向くと、そこには、近所の高校の制服を着た男が立っていた。


「あなたが、遠木君ですか?」

「そうだけど? だったら、あなたが柏さんですか?」


 遠木は、明らかに警戒していた。

 このような場所に呼び出したのだ。おそらく、用件についても検討がついているのだろう。


「用件を隠さずにさっさと話したらどうですか?」

「そうね…じゃあ、さっそく本題に入らせてもらうけど、あなたは、小学生のころに神隠しにあっている。間違いないわね?」

「はい」

「本当に、その時のことは覚えていないの?」

「はい」


 彼は、柏の質問に淡々と答えていく。

 だが、彼女は彼の表情の変化を見逃さなかった。


「小さなことでもいいんです」


 ダメもとで聞いたこの質問に、初めて「はい」以外の返事が返ってきた。


「…誰か、いた気がするんです」

「誰か。というのは?」


 彼は首を横に振る。

 つまり、誰かまでは分からないということなのだろう。


「“あれが最後の桜なのね”」

「えっ?」

「“私も最後まであなたのこと忘れない”“お願い。忘れないで”この三つが、覚えていることです」

「その人の言葉ってこと?」


 遠木は、ゆっくりとうなづいてから、満開の桜に目をやった。


「桜を見るたびに思い出すんです。女の子だったと思います」


 彼は、つぶやくようにそう言った。


「そう…また、お話を聞かせてもらっていい」

「…わかりました」


 彼の答えを聞いた柏は、その場から立ち去った。




 *




「話ってなんですか?」


 向山は、いたってつまらなそうに聞いた。


「おとといに発生した事件。ご存知ですよね?」


 おととい発生した事件というのは、この島へ来る定期船の中で起きた事件だ。

 東京を出てこちらに向かってきていたフェリーから男性が転落したのだ。

 警察は、事故として処理しているのだが、船の行先であるこの島の住民が、そうではないと主張しているという事件だ。


「まぁな…その船に乗っていたから知らないことはないけどさ…その話ならあれは単なる事故じゃないと主張している島の長老どもに話を聞けばいいだろう」

「あなたはどう思っているのか知りたいんです」


 彼は、大きなため息をついて、頭をかいた。


「あれは事故だと思いますよ。警察も船に乗っていた人間には確かなアリバイがあるって言ってましたし、何よりも彼は恨まれるような人間ではありませんから。甲板にいた彼が偶然転落したという不幸な事故です」


 先ほどに比べ、あまりに淡々と答えるものだから少々拍子抜けしてしまったのだ。


「そう…ですか。わかりました」


 柏は、礼を言って立ち去ることにした。




 *




 蒼竹(あおたけ)高校の5階の階段から一番遠い教室。この教室の扉に「超常現象研究同好会活動中」と書かれた札が掛けてあった。


「あっ会長! 何か収穫は?」


 柏を出迎えたのは、副会長の望ヶ丘(のぞみがおか)希望(きぼう)。この同好会は、もう一人会員がいるのだが、幽霊部員なので、この同好会のメンバーは柏と望ヶ丘の二人と言っても過言ではない。

 柏は、活動場所となっている部屋の中に入っていくと意外な人物がお茶を飲んでいた。


「どうも。お邪魔させてもらっているよ」

「望ヶ丘生徒会長…なぜ、ここに?」


 部屋に置いてあったパイプ椅子に座ってお茶を飲んでいたのは、蒼竹高校生徒会執行部会長その人であった。


「ちょっと、妹と話しに来ただけさ。それと、遠木を調べるならやめたほうがいい」


 なぜ、と問わせる時間も与えたくないのか、彼は飲みかけのお茶を机に置いて、立ち上がる。


「なんで?」

「…それに対する答えは持ち合わせていない。ただ、僕の直感がこの件に触れないほうがいいと言っている。僕は忙しいんだ。これ以上の質問は控えてくれたまえ」


 望ヶ丘会長は、それだけ言って立ち去って行った。


「どういうこと?」

「お兄ちゃんが何かしたの?」


 どういうわけか、私たちの会話が聞こえていなかったらしく、希望がいつもの調子で話しかけてきた。


「いえ…何でも…」


 私は、望ヶ丘会長が出て行った扉を見つめていた。



 読んでいただきありがとうございます。


 これからよろしくお願いします。

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