?アイテムがやってきたあとの話
あらすじ! 道具屋さんがうっかり呪いのアイテムに手を出しました。武器屋のキスで呪いが解けました。……なんじゃそりゃー!
「キスとかなにそれ! あーもう、こんなことなら竜殺酒とっておけばよかったー!」
「何に使うつもりだ」
「消毒に決まってるでしょーが!」
竜殺酒ってのは、北の地方のお酒。消毒薬の代用品にできちゃうくらいに度が強い。私は匂いだけで昏倒する。うっかり火を近づけると思いっきり燃えるんだよね。ついこの間、依頼で手に入れて売り飛ばしたばかりだ!
「なに? あの子に先こされて悔しいとか? それとも武器屋に嫉妬?」
「んなわけないでしょ! 純粋に、呪いを解いたのがこいつだってことが気に食わないの!」
つーかイクダールさんはなんであたしがキスしたことないって知ってるんだ。恋愛が理解できずにこの年までいるのは確かにアレだろうけど、わざわざネタにしなくても。
ただいま、道具屋の店主さんの呪いが解けた記念のやけ食い大会(ただし呪われた本人そっちのけ)の真っ最中。ちなみに払いは武器屋。
あー、それにしてもこのハムステーキ美味しい。味よりも香ばしさで食べさせる感じがすごくいい。何のチップだろう、これ。
呪いのアイテムを初めて見たのは、まだあたしが子供のころ。五歳くらいだったかな?
実家がやってる店には冒険者が売ったアイテムがたくさんあって、汚したり壊さなければある程度自由に見て構わないと言われてた。今思うとあれは英才教育の一環だね、うん。目を肥えさせようとかそういう感じの。
その日、私が見つけたのはキラキラ光るペンダント。はめられた宝石はどこまでも澄んだ、けれど底が見えないようなきれいなブルーで、幼い私は吸い寄せられるようにしてそのペンダントを首にかけた。
それは呪いのペンダントだった。といっても生命力を吸い取ったり狂気に陥らせたりするようなものじゃない。呪いは「しゃっくりが止まらなくなる」というものだった。
あの時は相当慌てた。結局ペンダントを外せば呪いは解けたんだけど。
あたしが鑑定を勉強しだしたのは、たぶんそれがきっかけ。目が届く範囲だけでも、誰かが呪いのアイテムにうっかり手を出さないように。だって、後始末面倒だし。
本職の鑑定屋さんには及ばないけど、どんな呪いなのかくらいまでは判別できるようになった。
けど、わかるのはそこまで。呪いの解き方なんてわからない。しつこいようだけど、あたしは本職じゃない。鑑定の資格だって、厳密にはないわけだし。
だから、あんな風に茶化しはしたけど。
落ち込まれたことにはそれなりに責任感じたし、呪いを解く方法を探した。
それなのに、それなのに!
呪いが解けたのはいい。むしろ安心した。
けど、よりによって武器屋が呪いを解いたとか!
「しかも彼女はあたしと違って純粋なんだよ? これであんたのこと意識しちゃったりしたらどうしてくれるの!」
「本音はそれかよ」
「愛されてるわねー、あの子」
イクダールさんは優雅な手つきでワイングラスからワインを一口。うーん、大人の色気。この人には男性ファンが凄く多い。もっとも、高嶺の花って感じで手を出そうとする猛者はいない。
それを言えば、店主さんも実はかなり人気が高い。冒険者って不安定な職業だし、怪我が凄く多い。そういう時に薬を買いに行って「お大事に」なんて言われたら、コロっと言っちゃう野郎どもの多いこと多いこと。オトそうとするナンパ野郎を、何度ギルドのゴミ捨て場に放り投げたことか。
「彼女にキスしていいのは、しっかりしてて」
「しっかりしてるわよ? 武器屋の経営状態は良好みたいだし」
あでやかな笑みを浮かべて、イクダールさん。
「経済的にも甲斐性があって」
「傭兵時代の蓄えはそれなりにあるな」
ドヤ顔で抜かす武器屋。
「背が高くて、がっしりしてて」
「そのものズバリじゃない」
イクダールさんが意地悪だ。
「何より彼女が一番って人じゃなきゃダメっ!」
「しかし随分夢見てるんだな」
ええい、武器屋うるさいっ!
友達が恋愛するなら不自由なく幸せになってほしいと思って何が悪い!
こうなったら、せめてもの腹いせに今日は限界まで食べてやる。あたし、普段は人並みにしか食べないけどその気になればふだんの三倍くらいはいけるし。
悔しいのは、ここのご飯ってばやけ食いするにはおいしすぎるってこと。嬉しい気分で食べたいものばかりなんだよ。くそう、なんておいしいんだこのミモザサラダ。白身自体に塩味がついてるけどどうやって作ってるんだろう。パンも外はさっくり中はしっとりでまさに理想的だし。
結局その日は朝まで食べた。後で冷静になってみれば大食い記録を更新してた。まあ、他人の財布だからどうでもいいけど。