アミュレットをプレゼントしよう
ひょんなことから手に入れた……ってか半ば奪い取った名工ガゼルのアミュレット。
予定通り、店主さんの誕生日プレゼントにと持っていったら目を丸くされた。
「本当にいいの? このアミュレットって冒険者にとっては必須じゃん!」
「あたしはもう持ってるからさ、ほら」
ブローチタイプのアミュレットをはずして差し出すと、さすがは本業、ちょっと見ただけでアミュレットにかけられた効果がわかったみたいだった。
「わあ、本当だー。これはどこで手に入れたの? 随分と、その……」
正直な感想は言いにくかったのか、店主さんは途中で言葉を濁した。ま、そらそーか。
「言っちゃってもいいよ。実際、細工はかなりヘタだもん」
あたしが代わりに言ってみると、どうやら図星だったらしくあいまいな笑顔。うん、うまくやり過ごすような営業スマイルも経営者には必要だよね。
「うん、見習いさんが作ったのかなって。お店に並べるようなできじゃ、ない、ような……?」
「そだよ。実際、見習いが作ったものだもん」
「よく手に入れられたね、そんなもの。ある意味レアだよ?」
彼女の顔には驚きと好奇心。やっぱり入手ルートが気になるみたいだ。
「あれ、話したことなかったっけ。あたしんち、君と同業者だよ?」
「初耳だよ!」
「まあいいや。それでそのアミュレットはさ……」
あたしの実家も道具屋なんだよね。と言ってもこのお店みたいに割と何でもそろってるわけじゃなく、アミュレットなんかをメインとした……装飾品屋さんって言った方が正しいか。歴史はそれなりに古い、らしいよ。詳しくは知らないし興味ないし知る必要もないけど。
あたしは五人兄弟の四番目。良くも悪くも責任とは無縁なんだよね。後を継ぐのは兄貴たちと弟だし。
あたしが持ってるアミュレットは弟が作ったものなんだ。冒険者としてやっていくって決まった時にさ、餞別にってのかな? そんな感じで。
そん時は弟もまだ見習いだったからさ、そんな風に作りが甘いってわけ。あ、今は弟も一人前だよ?
……なんて説明をしたら、店主さんの目はうるうる。おやま、意外と家族愛系に弱い?
「ま、途中からウソなんだけどね」
「……え?」
店主さんはうるうるお目目のままフリーズした。まあ、当たり前か。
「実家の商売と、弟が見習い職人なのは本当。むしろ今も見習い」
「え、え、え……」
「ちなみにこれは父さんからボツ喰らって捨てられかけたのをこっそりガメたの」
「……ええええええ」
うーん、予想通りの反応。っていうか、わかりきったお涙ちょうだいに引っかかるなんてびっくり。あたしがそういうキャラじゃないってわかってるだろうに。
衝撃のあまり落としてしまったらしいアミュレットを元通りに装着。アミュレットは見える位置につけるのが普通だけど、あたしはなんとなく襟の裏につけてる。深い意味はないんだけどね。
「ま、これに何度も命を救われたのだけは本当だよ」
そう、それは本当のこと。だから愛着だってある。笑ってみせるあたしを、店主さんはどうにも胡散臭そうな目で見ていた。失礼な。
「なんか釈然としないけど……とりあえず、アミュレットは本当にありがとね」
「どーいたしまして。あ、そうだ。ポーションくださいなっと」
商品棚からいくつかポーションを取ってカウンターに置く。今回の遺跡探索で結構使っちゃったんだよね。地味に性格の悪い罠満載だったからさ。
「えーと……いち、にい……全部で八百ゴールドだね」
「サンキュ。それじゃ、また来るから」
代金を払って、ポーションは袋の中へ。少し重たい扉を開けて外に出ようとすると、ごつんと痛そうな音がした。……やば。
「うわ、大丈夫ですか!」
少し空いたドアの隙間から滑り出るように外に出て、被害状況を確認。赤毛でがっつり肉食風、首に傷跡がある男が。お隣で武器屋をやってる奴だ。ぶつけたらしい額をおさえてうずくまってる。
「ってぇ……」
「……あー、ごめんねー。傷があったらこれでどーにかしてね」
男の足元に今買ったばかりのポーションを置いて退散しようとするが、がっしり脚を掴まれたせいで転びかけた。何とか踏みとどまったけど。
「何してくれやがるんですか武器屋サン。ケガの道連れ作るとか信じらんなーい」
「おいこら、なんだその態度は」
じとりとあたしを睨みつつ、武器屋は立ち上がる。やだなー。こいつ嫌いなんだ。なんか虫が好かない。
「薬あげたんだからむしろ優しいじゃーん?」
「てっめ……」
そこからはもう、ガンのつけあい飛ばしあい。敵がモンスターだろうと盗賊だろうと気に食わないやつだろうと、こういうのは目をそらした方が負けだ。道行く人たちがそろそろあたしたちを避けてクレーター状態になりつつあるけど、そんなの知ったこっちゃない。
そのまま長期戦になるかと思ったその矢先。
「ちょ、何してんのもー! うちに用があるならさっさと入りなって。そっちも、次の依頼があるんじゃないの?」
あたしと武器屋の間にするりと入り込んだ店主さん。慌てて武器屋の腕を引っ張りつつあたしを促す。うーん、お見事。ケンカしてたあたしがいうのもアレだけど、その手際は見事の一言に尽きる。有無を言わさず、しかし無理やり過ぎず。本当を言えば、あたしはまだ次の依頼を受けていないのだけれど。
店主さんが武器屋を連行すると、クレーター化していた人の流れも元通りになっていく。
「……ま、とりあえずやることはやったか」
これ以上ここにいても意味はないし、次の依頼を探すべくギルドに向かうことにした。
武器屋と女冒険者の仲が悪いであろう、というのは原作者・沢森さんとの共通認識です。