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エリクサーの利用法

 ひょんなことからエリクサーを手に入れて、あたしはちょっとばかり気分がいい。だから以前から誘われていたパーティーに臨時で参加して、遺跡の調査に乗り出してみようと思った。


「助かったよ。信頼できる奴を新しく探すのもホネだったからな」


 陽気に笑うリーダーとはお互いに駆け出しのころからの付き合い。ちょっとしたおつかいみたいな依頼を共同で受けて以来の仲だ。あっちは遺跡探索(トレジャーハンター)への道を切り開いていって、あたしは運び屋稼業に落ちついての違いはある。

 あたしのスタンスについてあざ笑ったりしない、いい奴だ。


「でも、パーティーに盗賊も魔法使いもいるじゃん。あたしが協力する必要、なくない?」

「……解読持ちが、な。うちの学者、厄介事に巻き込まれちまったんだ」

「うわ、それはこれから痛いじゃん!」



 あ、●●持ちっていうのは「これが特技ですよ」って意味ね。特技がある人はギルドの名簿にそれを記入するルールもある。生まれつき得意だったり、生きていくうちに覚えたり……噂じゃ人間以外の種族は特有のスキルを持ってるって話。

 あたしが持ってるのは解読と、ちょっとくらいならアイテムの鑑定。どっちも真似事レベルだけど。



「学者さんが厄介事ってことは学院絡み? 時間かかりそうなら新しいメンツ探した方が早くない?」

「うまくやれば半年くらいで切り抜けられるっていうから、そんくらいは待ちたいだろ」

「まあ……ようやく帰ってきたら居場所ありませんでしたー、はつらいか」



 ここらへん、基本的に一人で行動してるあたしにはよくわかんないけどね。

 もともと冒険者としての目的があるわけじゃないあたしは単独で動いている。冒険者になりたくてなったと言うよりは冒険者で居た方が都合がいいだけだし、そんなスタンスの人間は少数派だからパーティーも組みづらいんだよね。スタンスの違いは、結構仲間割れの理由になりやすいから。

 ま、それはさておき。

 とりあえず報酬の配分そのほかを簡単に打ち合わせて、遺跡に向かったのは三日後のことだった。






 で。

 遺跡探索は成功した。途中、トラップがたくさんある部屋で古代語の解読が必要になって、そこでちょっと……いやかなりごたついたけど、依頼人が必要としているアイテムは無事に回収できた。っていうか魔法使いさん、古代マニアだった。なら早く言ってよって抗議したら、古代の道具……つまりは骨董マニアってだけで、古代語は読めないんだって。

 まあとにかく、依頼人の希望以上にたくさんアイテムを持ち帰ったからということでボーナスももらえた。




 そして今。

 あたしはその報酬をめぐって盗賊さんと睨みあいをしている。



「だから、正規の取り分を半分そっちに返すからさ」

「聞けねえな。このアミュレットは盗賊必須っつっても過言じゃないっつか、お前、同じ効果のもの持ってるだろ」



 テーブルにあるのはボーナスに貰ったアミュレット。報酬の一部なんだけど、あたしはどーしてもこれが欲しかった。ルビーの中に『先制攻撃』の力が込められたアミュレット。菱形のルビーを囲むのは、いくつも重ねられた銀の菱形。ハイレベルとかそんな言葉じゃ片付かない意匠はまさに匠の技。さすがは知る人ぞ知る名工ガゼルの作品だなと思わせる。

 実際、あたしはすでに『先制攻撃』のアミュレットを持ってる。あたしのは少々いびつな星型の中央に丸く磨かれたホークアイがはめ込まれただけのシンプルなもの。ほとんど戦闘しないあたしが緑青鳥に襲われたときに負傷せずにすんだのもこれのおかげ。

 それはさておき、交渉のつづきっと。



「お願い、どうしてもこれが欲しいんだよ」

「転売なら報酬そのままもらうのと変わらんだろ」

「それはそうなんだけど……言い方を変えるね。これを欲しがっている人がいるんだよ」



 まっすぐ相手の目を見て、真顔になって。真剣さを見せるのは交渉の基本だ。

 さらに、情に訴えてみる。この盗賊、実はかなりの人情家だ。



「知り合いの職人なんだけどね。これを作ったガゼルをすごく尊敬してて、いつか彼みたいな作品が作りたいんだって」

「……ぐっ」



 お、好感触。でももう少しダメ押ししてみようかな?



「できることならガゼルの品を手元に置きたいんだけど、職人サイドのルールで基本的には手元に置けないの。でも、プレゼントなら別だと思わない?」

「ま、まあ確かに……」



 よし、とどめの一発!



「……エリクサーと交換でいい? 最近手に入れたんだけど」

「よし、乗った!」



 うわお、エリクサーすごい。

 極端な話、アミュレットは資金さえあれば手に入る。エリクサーは非売品。この差はかなり大きい。危ない橋を渡ることが多い彼らにとってはアミュレットと同等以上の価値があるみたいだ。

 あたしはよっぽど気を抜かない限りエリクサーのお世話になるようなことはない。だったらエリクサーは欲しい人に差し出してアミュレットをもらう方が価値は大きい。

 やっぱり道具ってのは欲しがってる人のもとにあってこそ、っていうのがあたしの持論。

 無事手に入れたアミュレットを袋にしまいこみ、交渉はおしまい。彼らと行動するのもひとまずここまでだ。



「じゃ、あたしはこれで。学者さんの方に動きがあったら教えてねー」

「おう、またな!」



 あたしが席を立つとパーティーのみんなはあっさりと見送ってくれた。引き留められることのないあっさりとした関係は気楽でいい。またそのうちお呼びがかかるかもしれないけど、その時までは自由に過ごすことにしようと決める。

 まずはこの戦利品を欲しがってる人に渡さないとね。ちょうどいいことに彼女の誕生日はもうすぐだし、誕生日プレゼントの先渡しってことでいいかな。

 ついでに消費した薬も補充しなくちゃいけないし、なるべく早く彼女のところに行こうと決めた。

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