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緑青鳥の羽を手に入れよう

「へえ、あれってエリクサーの材料になるんだ」

「そうだよ。だから助かっちゃった」

 冒険者にとってポーションは常備薬。切れそうになったので買いに来たあたしに、店主さんはなんとエリクサーをひとつくれた。

 エリクサー。万能の霊薬。不老不死の伝説もあったとされるそれは冒険者のあこがれだ。売られてるものじゃないからあたしみたいな中堅程度じゃ入手はほぼ不可能。噂じゃ古代遺跡や洞窟の宝箱に入っていることもあるらしいんだけど、あたしはトレジャーハンターじゃないから宝箱には手を出さないし。

「いっぱい持ってきてくれて助かったから、おひとつ進呈。もしもの保険に持っておいて損はないよ」

「ありがと! 一度実物を見てみたかったからかなり嬉しい」

「でもさ」

 ご機嫌でエリクサーを道具袋にしまう。と、店主さんはのんびりとした口調で爆弾を放り込んでくれた。

「羽、すごくたくさんあったよね。穴場でも見つけたの?」

 一瞬。動きが止まってしまった。実は突っ込まれたくなかったんだよねえ、それ。

 取り繕うように笑って見せてもさすがは商売人、それがごまかしだと見抜いたっぽい。……まあ、言っても大丈夫かな。口は固い人だし。

「今からあたしが言うこと、お墓に入るまで秘密にするって約束してくれる?」

「……大ごとなの?」

「そりゃあもう。なんつーかさ、こう、偶然……」

 得物を抜いてざくっと刺すような動作をして見せれば、店主さんは何かを察したように顔をひきつらせる。

「もしかして」

「うん、うっかりヤっちゃいましたー……あっはー」





 緑青鳥の羽を手に入れるのに一般的なのは『空き巣』って呼ばれる方法なんだけど。緑青鳥は島の岩場に生えるコケがエサで、エサを食いつくすたびにお引越しするわけ。その行動ルートはだいたい決まっているから『どの時期ならどこにいるか』を知っていれば緑青鳥に出くわすことなく抜け落ちた羽を回収できるからさ、大抵この手段で羽を探すわけね。

 けど、今回は。



 毒の島でいったん停泊してくれる船を探して乗り込んで、毒の島に無事到着。毒消しを口の中に入れて探索開始。ちなみに毒消しは飴玉みたいな感じで、味はさわやかなシトラスミント。以前別の店で買った毒消しは、フローラルと言うかバラの香りで死ぬかと思った。苦手なのよ、花の香り。

 羽探しには何度か来たことがあるから、どこの岩場を探せばいいかはだいたい見当がついてたんだ。予測をつけていた岩場はアタリだったみたいで、ちょうど引っ越したばかりなのか抜け落ちた羽やら何やらが風に吹き飛ばされることなく残っててさ。ラッキーとばかりに羽を集めてたら、上から甲高い鳴き声が聞こえてきて……。



「上を見たら緑青鳥があたしを狙ってたもんだから咄嗟にナイフ投げてさ……牽制のつもりが致命傷?」

「う、わー。それは黙っておいた方がいいわ。ランクが下がっちゃうもんね」

「そういうこと。運び屋ってランク上げにくいから下がったら一大事だし!」

 冒険者にもランクがある。依頼をこなした数とか頻度とか依頼者の満足度なんかで決められているらしが、詳しいことはギルドの偉い人しか知らない。逆に違反行為とか納期遅れがあるとランクが下がる。で、緑青鳥を狩るのはしっかりはっきり違反行為だ。「うっかりヤっちゃいましたー、てへ♪」ですまされる問題じゃなんだな、これが。あれって一応絶滅危惧種に指定されてるし。


「それにしてもその緑青鳥ってばなんでわざわざ餌のないエリアに飛んできたんだろうね?」

「さあ? 何か問題があるとしたらギルドか『ゆうしゃさま』がなんとかしてくれんでしょ」

「というか勇者クエストの前触れなんじゃないかな、もしかして」

「……かも」

 勇者ってのは、うん、冒険者の中でも特殊だからなあ。

 なんていうの? 問題を解決するのが勇者ってわけじゃなくて、勇者が勇者であるために問題が作られる……みたいな。普段ありえないことが起きたりしたら、かなり高確率で勇者がからんでいる。

 ちなみに勇者限定の『勇者クエスト』は勇者以外が請け負うことはできない。請け負おうとした別の意味での勇者(っていうか愚者(おばか)かな、この場合)はどこかへ連れ去られるらしいともっぱらの噂なんだよね。勇者クエストはすぐにそれとわかるように工夫されてるし、わざわざ危険に足を突っ込むのは私の流儀じゃないので真相を知る気はない。

「ま、クエストに巻き込まれる前に戻れてよかったかな」

「そうだねー。あ、ほかにもあの羽で作ったものがあるんだけど、見る?」

「見る見る!」



 運び屋ってのは、冒険者の間では下に見られがち。やることは地味だし、ローリスクローリターンが基本だからね。名誉とは無縁だと断言しちゃってもいいくらい。

 けど、冒険者にとって欠かせない道具や武器の材料を運んでるのはあたしたち。それなりに誇りはある。運んだものが誰かを助けるモノになる喜び。縁の下でいる誇り。それがあたしたちの原動力なのだ。

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