登場人物のはなし
【受付のイクダールさん】
冒険者に仕事の仲介をしたり、パーティーのマッチングをしたりするお仕事。仕事しているうちに冒険者の個人情報にも詳しくなる。うっかり口を滑らせないことが一番の条件だって噂。
この町のギルドで受付をやってるイクダールさんは高嶺の花系美人。特攻して散った男の多いこと多いこと。
~イクダールさんとあたし~
「あ、よかった。連絡取れないかって思ってたのよ」
依頼を探しに来たところでイクダールさんに呼び止められた。
「どしたんですか? また、どっかのお嬢様に無理難題ねじ込まれたとかですか」
「それもあるけど、メインはこっちね。伝言がとどいてるわ」
ギルドに登録してある冒険者は、どこにいるかを報告する義務があるんだよね。『この冒険者に頼みたいから捕まえてください』的なことも、実は結構あるから。特に護衛を得意とする傭兵や、モノや情報を運ぶのがお仕事のあたしたち運び屋なんかは。
「えーと、なになに……?」
イクダールさんから受け取った紙片を開いてみる。そして衝動的にそれをくっしゃくしゃに丸めて目についたお皿に放り込み、燃やしてやった。
「ちょっと! 火気厳禁なんだけど」
「うおっと、つい」
紙片の上に別のお皿をかぶせて応急処置。放っておけば燃やすためのものがなくなって勝手に火は消える。
「ごめん、イクダールさん。あまりにアホくさかったら……あ、伝言をお願いします」
「返信かしら?」
「ですです。……『夫婦喧嘩はよそでやれ』です」
その一言を聞いて、イクダールさんはだいたい察したみたい。何とも言えない、しいて言うなら同情かな? うん、そんな感じの笑みを浮かべた。
「ああ、またお兄さんからだったんだ」
こうやってイクダールさんが伝言を持ってくるのは珍しくない。何度か繰り返しているうちに、あたしのもとに家族……特に兄たちから『嫁に逃げられた』って伝言がしょっちゅう来ることに気がついたみたいだった。
「ったく、なんでうちの男どもはそろってヘタレなんだか」
「男なんてみんなヘタレよ。はい、これはサービス。飲んですっきりしちゃいなさい」
そう言ってイクダールさんは果汁入りの炭酸水をごちそうしてくれた。
【武器屋】
冒険者の魂の友。どんな冒険者も行きつけの店があるのが普通で、もちろんあたしもある。
この町の武器屋、評判は悪くないらしいけど……どうもそりが合わないんだよねー。
~武器屋とあたし~
「いらっ……何しに来た」
「お客様に向かってそれがあいさつとかなんですかそれー」
行きつけの武器屋がある町まで行く時間がなくて、この町で済ませようと思ったあたしが馬鹿だった。基本、この男とはそりが合わない。
壁に掛けられたナイフを取ってカウンターに置く。
「買うのか?」
「他に何があると?」
あたしの戦闘スタイルだと、ナイフは基本的に消耗品。ナイフを投げて、敵にあたって、敵ごとナイフが奈落の底……なんてことも実は珍しくないんだよね。くそう、とっさとはいえあのナイフ投げなきゃよかった。一番扱いやすかったのに。
行きつけの武器屋で買うのが一番だけど、そこまで移動する時間がちょっと惜しい状況の今、仕方ないからこの武器屋で妥協するしかない。
「ま、金がもらえれば俺としては不満はない」
「でしょーね。はい、とっとと勘定」
ああ本当、なんでこの男はいちいちあたしのカンに障ることばっかり言いやがるんだっ!
【道具屋さん】
ポーションなんかの薬品や、いろんな効果のあるアクセサリを作って売ってる店。あたしの実家はアクセサリ特化型の道具屋だったりする。
この町の道具屋さんは割とオールマイティ。あと、店主は癒し系で冒険者にモテる。ただし本人自覚なし!
~道具屋さんとあたし~
「こーんにちはー。毒消しってストックある?」
「いらっしゃい。またドラズバルトにいくの? 羽に登録すればいいのに」
「今回は毒の島がメインなんだよ。あそこにしか生えない苔を欲しがってる人がいるんだって」
装備品の類は家で買わないといろいろ義理ってものがあるけど、薬の類は絶対に譲れない! あたしはここの薬が最高だと思ってるんだ。まあ、好みで差はあるんだけど。むしろうちで売ってる薬は、世間的には結構人気なんだけど!
「そういえば、しばらくMP回復薬を買わないけど、間に合ってる?」
「あー……間に合ってるというか、間に合わせたくないけど使わざるを得ないというか?」
道具袋からMP回復薬を置いて、飲んでみて、と促してみる。
店主さんはちょっとだけ首をかしげてから、一息に飲み干した。
「あ、ローズ。……フローラル系苦手とか言ってなかった?」
「そだよー。それ作ったの、兄の嫁さんでさ」
「ああ、なるほど」
MP回復薬って、なんでだかは謎なんだけど作った人によって味が変わるんだよね。ここのはみかん味。独立して調剤特化の道具屋やってる兄貴がジャスミン味。その嫁さんはローズティーみたいな味。
んで、あたしはジャスミンとかローズとか、そういう類が苦手。兄貴のは「いらん」って突っ返せるけど、兄嫁っていうのは距離感的に断りづらいものがある。
「もういっそさ、回復薬の作り方勉強しちゃおうかなって思ったりするんだ。元香木は自分で仕入れればいいし」
「道具屋としては商売あがったりになるからやめてほしいかなー」
そんな風に言って、店主さんはのんびりと笑った。