変わらぬ視線
女性視点+α含みます
例え一人の話し声が延々と続いていたとしても、携帯の使用中か、と呑気に考えていた
だから、通話を妨げる可能性を知っていながら教室の扉を開くことに戸惑いはなかった。
そもそも、一応この高校は近年珍しく携帯電話の使用を認めず、発見され次第教師預かり、という校則があったため気まずい思いをするだろうが、自分に非はないだろう、と判断して
がらり、と
扉を開いた。
結論から言うと、相手は携帯を使用していなかった。
彼の両手は背後にもたれた机にあり、イヤホン式の通信機器も見受けられなかった。
ただ、彼は教室の真ん中で一人、誰かと話しているようだった。
ひとりごとではない。彼は何かに疑問を投げ、また返答に対しての相槌を打っていたから。
思考が途切れる。予想外だ。
可能性として挙げられたのは、受験や思春期、諸々の因子からストレスを抱えた結果の
「誰だ」
なんて、考えていたら気付かれてしまった
……………そこまで睨まなくてもいいじゃないか
ここは学校という公共の場で、学生が忘れ物を取りに来てもおかしくない時間で
自分はたまたま、居合わせてしまっただけなのだから。
それとも、驚きのあまり固まってしまったのは、盗み聞きとなってしまうのだろうか
いや、それ以前に忘れ物をしたときはおとなしく反省して翌日の課題提出時に泣きをみろと言いたいのか。
しかし、声をかけられる前に退散すればよかった。そこは自分の落ち度である。
言い訳の結果を述べるなら、顔が整ってる者が真実優しさを含めた微笑(not作り笑い)を浮かべることは凶器だ、とのこと
一見すれば怪しむ景色が、一枚の絵になるのだから
さすが、陰ながら生徒の注目の的である。
だがしかし、彼は常から表情変わらず、会話も最小限であったと記憶していたが。
己も表情筋と呼ばれる頬筋などを鍛えるべきか
「おい」
結論がまだ出ていないのだが。
思考を中断され、とりあえず相手を見る。
「聞こえてんのか…?」
もしや誰だ、の答えを求めていらっしゃる?
「無性にフェルマーの最終定理の証明を自分でもしたくなったので帰りますあでぃおす」
「こら待てぇい!」
「私ただタイミング悪いだけじゃないですか」
「そーだな」
「あんな出会いからこんな関係になるなんて」
「…俺が惚れちゃ悪いかよ」
「…」
「…」
「……………」
「……………」
「…………………え」
「あ?」
「口止めの保険じゃなかったんですか?」
「はぁ!?」
(んなわけあるか!)
(私今人生で初めて告白とやらを経験してます)
(っ~~嬉しそうに言うな!!)
「「「「「「「「え、どこがですか若」」」」」」」(不器用な若様見守りたい一族の皆様)